一青さん: この映画には、台湾料理がふんだんに出てきます(豚足の醬油煮、たたききゅうり、大根餅、チマキ、お粥など)。
映画のテーマは「料理で繋がる家族の絆」。だから、主役が「料理」とも言えますが、監督が映画の中でとくに「おいしい」と思ったものは?
白羽監督: 私は神戸出身・在住で、台湾料理屋さんは珍しくないのですが、「瓜仔肉」(コウツーロウ、豚のひき肉と漬物を混ぜて蒸したもの)は知らなかった。あれは作るのは面倒でしたが、おいしかったですね!
一青さん: 私も映画の中でのイチオシは瓜仔肉です。きゅうりの漬物をひき肉と混ぜて蒸した、いわば台湾版ハンバーグですね。シンプルな家庭料理ですが、ご飯の上にかけると、何杯でも食べられる(笑)。
白羽監督:台北では缶詰も売っていましたね。
一青さん: ところで映画のタイトル「ママ、ごはんまだ?」は、同名原作から取られましたが、このタイトル、もともと好きじゃなかったんです。書籍化するとき、当時の編集者がつけたもので「ちょっと幼稚だな」と思っていました。
でも、こうして映画化されて、ポスターやチラシになって見慣れてくると、逆にシンプルでわかりやすい。(観客にも)ストレートに伝わるんじゃないかと思いました。
白羽監督: 映画のタイトルって、覚えやすいのが一番ですよね。
一青さん: 私としては、初エッセイ『私の箱子』のほうがタイトルとしてかっこいいし、(同名タイトルで)映画化されたらいいなと思ったんですが……。監督が最初に「これを映画にしたい」と持って来られたのが『ママ、ごはんまだ?』でした。断片的なエッセイですし、これが1つの作品になるとは夢にも思っていなかった。
でも監督に脚本も書いていただき、こんなふうに1つのストーリーが完成するのかと感動しましたし、すごく勉強になりました。
――映画は、一青妙・窈姉妹の家族の物語。台湾屈指の名家「顔家」の長男として生まれ、日本統治下の台湾で“日本人”として育ち、激動の歴史に翻弄された父。16歳の年の差を超えて国際結婚をした母。ふたりは娘たちを残して、相次いで早くにこの世を去った。
家族4人で暮らした東京の家を取り壊す時に、箱の中から出てきたのがレシピ帳だった。亡くなった母が家族のために、台湾料理のレシピをきちんと書きとめていたのだった。
辛い時にも幸せな時にも、心を込めて料理を作ってくれた母。そして温かな料理を囲んだ、ありし日の家族の思い出がよみがえる……。
一青家ゆかりの地の中能登町(石川県)や金沢、東京、台湾でのロケを敢行。数々の台湾家庭料理を作るシーンも映画の魅力となっている。日本と台湾を舞台に描く、心温まる料理と家族のヒューマンドラマ。
一青窈が映画のために書き下ろした主題歌「空音」(そらね)が、さらなる感動を呼び起こす。中能登町町制10周年記念事業作品――。
一青さん: 映画の構成としては、私のエッセイをもとにした実話が8割、監督の思いを描いたフィクションが2割でしょうか。
白羽監督: 原作が断片的なエッセイだったので、その時系列を入れ替えることで、ストーリーに緊張感を持たせればいけるかなと、脚本を書きました。でも1つの作品に仕上げる、確たる方法論を見つけるまでは、かなり試行錯誤がありました。
一青さん: 映画にも出てくる台湾の伝統市場が、とても印象に残っています。幼いころ、実際に母と行ったのは台北の東門(とうもん)市場ですが、当時に比べるとだいぶ規模が縮小してしまい、雰囲気が違う。それで映画のロケ地となったのが台南の伝統市場。ここは(昔ながらの)活気がありました。
白羽監督: ロケやプライベートも含めて、台湾には何度も通いましたが、まだまだ知らない料理もたくさんある。それだけ奥が深いと思うし、初めて行かれる方も、リピーターの方も、台湾は通い甲斐のあるところではないでしょうか。
一青さん:台湾好きになる最初のキッカケは、おそらく「食べ物がおいしいこと」かと思いますしね(笑)。
――本作で、主人公・妙を演じるのは、映画やドラマで活躍中の木南晴夏(「20世紀少年」「百年の時計」)。その妹・窈に、期待の若手女優、藤本泉(「アオハライド」「神戸在住」)。母・かづ枝には、演歌歌手「オーロラ輝子」としても知られる演技派の河合美智子。
「能登の花ヨメ」「神戸在住」など丁寧な演出に定評のある白羽弥仁監督がメガホンを取った。
一青さん: 本作では、私の家族をそれぞれ実名で、役者さんに演じてもらいました。私の役の木南晴夏さんは淡々としたセリフ回しや、感情をあまり表に出さないクールなところが、私自身にかなり近い! どうしてそんなに私の性格を知っているの?と思うくらいです(笑)。妹役の藤本泉さんも、愛くるしい雰囲気が妹によく似ています。
ただ、母親役の河合美智子さんは、最初はどうしてもイメージが結びつかなかった。実際の母は面長ですが、河合さんはわりに丸顔に見えますので……。
白羽監督: キャスティングって、一期一会なんですね。木南さんも河合さんも何でもやれる女優さんですが、ふだんからああいう感じで……(演技と地があまり変わらない)。
河合さんに関して言えば、明るくて、あっけらかんとしていて、ちょっとおっちょこちょいなところが、原作のお母さんの雰囲気と共通すると思ったんです。
一青さん: 最初、河合さんはイメージ的に違和感がありましたが、今では映画を見ると、(キッチンに立つ)後ろ姿を見ただけで「母じゃないの?」と思うくらい(笑)。
映画のように、母は本当にあんな感じなんですね。何を言ってもあっけらかんとしていて、冗談を明るく言うタイプ。でも常に家族のために何かを作り、しかもものすごく芯の強い女性でした。
最終的には、河合さんをはじめ父役の呉朋奉さんなど、皆さんドンピシャリではまっていて、素晴らしいキャストでした。素敵な作品に仕上げていただいて、感謝しています。
――このあと会場からも多くの質問が寄せられた。
Q: 監督の好きな台湾映画は?
白羽監督: 今度(2017年)、日本で再公開されるエドワード・ヤン監督の「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」(1991年)は大学時代に見て、ものすごく衝撃を受けました。
侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の「恋恋風塵」(1987年)も私が今回、台湾で映画を作ろうと思ったキッカケとなった作品。あこがれがありました。同じ侯監督では、「童年往事 時の流れ」(1985年)という作品も好きですね。
グルメ映画のくくりでは、台湾出身のアン・リー監督の「恋人たちの食卓」(1994年)を見ました。それからデンマークのドラマ映画「バベットの晩餐会」(1987年)も好きな作品ですね。
Q: 料理が主役級の作品。おいしそうな料理がたくさん出てきたが、撮影で苦労した点は?
白羽監督: 湯気を撮るのが大変でした(笑)。湯気は出すぎても、少なすぎてもいけない。カメラや照明など、あらかじめ全部セッティングしてから「ほいっ」と料理を出さないと、湯気は映りません(笑)。
ただ、台湾料理は、見た目が立体的で色彩が豊かなので撮りやすかった。最も撮りにくかったのは日本の白い豆腐です(笑)。豆腐ってほんとシンプルすぎて、おいしそうに見えない。それをどう撮るか、本当に苦心しました。
Q: ロケ地の1つになった石川県・中能登町は、お母さんゆかりの地。妙さんは「中能登町観光大使」に任命されたそうですが、能登の魅力は?
一青さん: この映画がきっかけで、母のルーツゆかりの地を何度も訪れることになりました。中能登町は、石川県の能登半島中部にある町です。最初の訪問では、目の前に一面の田畑や山といった田舎の原風景が広がり「何もないところ」というのが正直な印象でした。
ですが、聞けば中能登町は歴史のある「繊維の町」で、地元で生産されたテキスタイルが国内アパレルブランドや五輪選手のユニフォームとして採用されているのだとか。最近では石川県のブランド牛「能登牛」でも知られるようになりました。
能登半島は風光明媚な景勝地や温泉に恵まれていて、能登半島を一周するサイクリング大会「ツール・ド・のと400」には毎年、全国から多くのサイクリストが集まります。最近、自転車に凝っている私も、今年はこれにチャレンジしたい。ご興味がある方、一緒に能登を走りましょう!(笑)
最後に、一青妙さんから、本作が5月の母の日に合わせて台湾でも公開される予定だという、うれしいニュースが披露された。
「台湾と日本を故郷とする、私たち家族の物語です。ぜひ多くの方に見ていただいて、何かを感じていただければうれしいです!」(一青妙さん)
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