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日本ビジネス中国語学会
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東京便り―中国図書情報 第12回 .

 【Interview この人に聞く (5)】
 『知中論 理不尽な国の7つの論理』の著者 安田峰俊さん

   
   

『知中論 理不尽な国の7つの論理』(星海社新書)■反中・嫌中を乗り越えて
  論理的に知るリアルな中国


尖閣問題や反日デモなど、日本人からすれば近年の中国は「理不尽で横暴な国」に見える。しかし、実際はどうなのか? 中国には中国なりの事情やロジックがあるのでは? 感情的な「反中・嫌中」に走るのは、日本にとって本当に得策なのか?
そんな視点から、日中間に横たわる諸問題の背景をわかりやすく解説した『知中論 理不尽な国の7つの論理』(星海社新書)が今、話題となっている。

ノンフィクション作家で、中国の近現代史に詳しい著者の安田峰俊(やすだ・みねとし)さんが「尖閣問題」「反日デモ」「靖国問題」「チベット・ウイグル」「日本人の対中感情」……といった気になる7つの問題を取り上げて、中国側のロジックをそれぞれ分析。
問題の背景にある歴史や文化をひも解いて、その上でリアルな中国とどう向き合うか、大きなヒントを与えてくれる1冊となっている。
『知中論』執筆のキッカケや読者の反響、本書に込めた思いなどについて、安田さんに率直に語ってもらった。
 

   
 

――ここ数年、日本では「反中・嫌中」ムードが強まっていますよね。言論NPOの最新調査では、中国に対する好感度は過去最低を更新し、書店へ行けば『ヤバい中国』だの『中国の脅威』だのといったおどろおどろしいタイトルの反中・嫌中本が数多く出回っています。
そうした中で、本書はまさに異彩を放つ『知中論』。いわば中国を知る「知中」のススメとも受け取れますが、こうした時期に『知中論』をまとめたのは?


安田: 発想の契機は、私が3年前から講師を務めさせていただいている、多摩大学経営情報学部の「現代中国入門」という講義です。学生は2、3年生でほぼ全員が日本人なんですが、しょっちゅう「中国はなんで横暴なのか」みたいな“ド直球”な質問が来るわけです。それに向き合うたびに、自分なりの言葉で説明したいなという思いにかられました。
また、中国についてのシンプルな疑問に対して、冷静な立場から可能な限りシンプルな答えを提示する行為が、もっと一般向けに行われるべきだと感じたこともあります。「中国はなんで『反日』か」「なんで少数民族にあんなにひどいことができるのか」といった問いを持っているのは学生だけじゃない。現代の日本人の多くが、今更聞けないけれど心のなかに浮かんでいるはずの疑問ですから。
ちなみに、いわゆる反中・嫌中本やネット上の「嫌中国コピペ」みたいなのって、一般人のこういう「なんで」に対して真正面から平易な回答を提示しているという点では、現時点での日本社会でほぼ唯一の痒いところに手が届いた文書なんですよ。どれも「中国は本質的に『悪』だからだ」とか「中国人が日本人よりも劣っているからだ」とか、誰にでもすぐ理解できる「答え」を出してるでしょ?(笑)。でも、こういう方向性以外で、もうちょっと誠実な説明を、できるだけわかりやすい形で提示してもいいよね――というのが執筆の動機です。

――中国をよく知らない若者にもわかりやすい「中国論」というわけですね。
そもそも創刊3周年を迎えたという星海社新書の出版コンセプトは「次世代による次世代のための武器としての教養」。読者ターゲットも、20代以下の「次世代」の若者が中心だそうですが……。


安田: 「大学生が気楽に理解できる本」という考えで書きましたが、実際は30代前後のサラリーマンあたりが読むことが多いのかな……と、編集者と話していました。しかし、蓋を開けてみれば、どうやら若者層よりも50~60代の年配層への受けが良い。しかも、従来の反中・嫌中本の消費者の一部にも食い込んでいるようです。これには驚きました。
僕はもともとブロガー出身で本を書くようになった人間なので、従来の著書はオンライン書店でよく売れる一方、リアルの書店では出足が遅いパターンが多かった。でも、今回は中高年ユーザーの多いリアル書店での売り上げが好調です。
現代の日本では、60代の団塊世代前後の人たちが、反中・嫌中本の最大の消費者層を形成しているようです。最近の毎日新聞(10月25日付)の「第68回読書世論調査」でも、「『嫌韓・嫌中』本・記事を読んだ人の45%が60代以上」という結果が示されました。また、昨年度の内閣府「外交に対する世論調査」でも、世代別に見て対中感情が最も悪いのは60代(ちなみに最も良好なのは20代)という結果が出ています。現代の日本で、最も中国を嫌っているのは年配層なんです。
そういうわけで、現時点でのこの本の主要読者のイメージは「従来の反中・嫌中本に飽きてきた50~60代のおじさん」というところでしょうか。意外でしたが、自分の新しい読者層を開拓できたとしたら、ありがたいことだと思っています(笑)。

――本書の中では、例えば2010年の漁船衝突事件で、日本の海保巡視船に「突撃」してきた中国人船長のふるさとに色濃い“倭寇的な武装海商集団の伝統”をみたり、反日デモの破壊行為の背景に、乱暴者だが人情の厚い『三国志演義』の張飛や、大暴れする痛快ヒーロー、孫悟空の伝統をみたり……。
諸問題の背景にある中国の歴史や伝統文化、思想や風習などについてわかりやすく解説されていて興味深かったです。


『知中論』著者の安田峰俊氏安田: ツイッターなどで読者の反応を見ていると、「中国への何らかの肌感覚の知識を持つ人」には当然のように思える事柄についても、かなり驚きがあるようです。
例えば靖国問題ですが、なぜ中国人の反発が大きいかというと、これは決して「日本へ嫌がらせをしてやりたいから」という理由だけにとどまるものではない。1つには日中の「死生観の違い」もある。中国では「売国奴(漢奸)」などいったん「罪」が確定した人間は、当人が死んでもなお半永久的に憎まれますが、日本では朝廷に弓を引いた「叛徒」(平将門など)を主神に据える神社が存在するように、「結局はみんな、死ねばカミサマやホトケサマになる」という思想風土があります。
この「死生観の違い」はかなり厳然たるものです。不特定多数の中国人を相手に、こうしたスピリチュアルな概念――しかも、当の日本人自身も明確に言語化しづらい概念を正確に理解してもらうのは、事実上不可能に近いと言っていいでしょう。これは中国を知っている人の間では体感的に理解されていることですが、一般読者には意外な「発見」だったようです。

――本書の第7章「日本人はなぜ中国に腹が立つのか」の中で、日本人の対中感情はじつは非常にブレている。歴史をひもとけば、中国に好感を抱いて期待する時期と、その逆に失望して嫌悪感を抱く時期とで「循環を続けている」。現在は「いわば低下のスパンに入っている時期」だという分析がありました。
近年は日本人の対中好感度が低下していますが、長いスパンで眺めてみると、これもまた「好き・嫌い」を繰り返す循環プロセスの1つにすぎない? いかにも非効率的に見えますが、こうした悪循環をキッパリ断ち切ることはできないのでしょうか?


安田: 難しいと思いますよ。意外に思えますが、日本人の対中感情が今後「好転」する可能性だってあります。現在、日本人が中国を極度に嫌う理由は、単純化すれば「経済的発展を理由に成金的な傲慢さを隠さなくなり、日本の領土を狙うべくギラギラしていて、非民主主義的な共産党体制が悪い意味で盤石だから」ですから。
でも、もし今後の中国で「天安門事件」のような大規模な民主化運動――たとえば今年の台湾の「ひまわり学生運動」(注1)や香港の「雨傘革命」(注2)みたいな事態が起きたらどうでしょうか。おそらく、それを支持する日本人が大勢出るでしょう。で、ちょっと前まで「中国人の民族性は劣悪だ」とか言っていた人たちが、民主化デモの学生には「中国人の真の美徳はここに残っている!」とか言い出しかねないと思います。実にいびつな対中感情の「好転」ですけどね(笑)。
また、中国バブルが大崩壊したりして、中国が日本よりもずっと貧乏な国家に逆戻りする事態を想像してもいいと思います。結果、中国が1980年代の胡耀邦政権のように「私たちは貧しく遅れた国家です。アジア唯一の先進国の日本をお手本にさせてください」とか「過去の恩讐は棚上げして、未来志向で」なんてキレイなことを言い出したら、コロッと参って「親中派」に転じる日本人が再びたくさん出るのではないでしょうか。日本人はお人好しで、相手が「目下の存在」だと感じると安心してしまうところがありますからね。
行き過ぎた反中も親中(媚中?)も、情緒的に中国を眺めている限りは常に出てくる問題です。このスパイラルが生成されるシステムの根本的な改善は難しいですよね。

(注1) 2014年春、中台サービス貿易協定に反対する台湾の学生らが立法院を占拠した運動。
(注2) 香港で2014年9月末から続く、次期行政長官選への民主派参加を求める大規模デモ。

――うーん。日本人の変わり身の早さにも困りますが……。日本人はこれから中国や中国人とどう付き合うべきなのでしょう?

安田: まず中国人とどう付き合うかですが、これは人それぞれで答えはないと思います。なぜなら、人間同士の付き合いは、自分の頭で考えることが大事なはず。「偉い人が言っているから」とか「本に書いているから」という理由で他人への態度がブレる人なんてロクなもんじゃないので(笑)、そういう接し方だけはやめて、ちゃんと相手を見た方がいいと思います。
一方で中国という国家に対してですが「非難するな」とはいわないし、問題点はちゃんと指摘すべきです。軍事や外交の面で、中国が日本の「脅威」であることも明らかだと思います。それを恐れたり腹を立てたりすること自体は、仕方ないことではないでしょうか。
ただ、怒るにせよ批判するにせよ、感情的にならずに淡々とやるべきです。なぜなら、戦略的に手を結ぶにせよ拳を振り上げるにせよ、気持ちの余裕を持たない人間は足元をすくわれてしまいます。情報を発信したり、政治的な意思決定をおこなったりする立場にある人はなおさら大事なことじゃないかと思います。
また、政治ともメディアとも関係がない一般人でも、やはり余裕は必要です。だって、カリカリした憎悪的な表現って、一時的にはスカッとしても、心の中に「灰汁(あく)」がたまりますよね。心に灰汁を溜め込んだ人間の人生は長い目で見れば決して幸福にはなり得ないと思うし、そんな人間ばっかりの社会も幸福な社会ではないはず。できるだけ心の灰汁を増やさず、それを定期的に掃除するデトックス(解毒)をしたほうがいいのではないでしょうか。

――まずは、心のデトックス、心の処方箋として『知中論 理不尽な国の7つの論理』を読んだほうがいいようですね(笑)。ありがとうございました!
 

 

『知中論 理不尽な国の7つの論理』(星海社新書)『知中論 理不尽な国の七つの論理』
  安田峰俊 著 星海社 232ページ 2014年09月刊 840円+税

安田峰俊(やすだ・みねとし)
ノンフィクション作家。1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。当時の専攻は中国近現代史。運営していた中国関連のブログが注目され、ライターに。著書に『中国・電脳大国の嘘』(文藝春秋)、『和僑』(角川書店)など多数。多摩大学経営情報学部で「現代中国入門」と中国語の講師も務めるなど幅広く活躍中。Twitterアカウントは、@dongyingwenren
 

 
   
     

 

 

小林さゆり
東京在住のライター、翻訳者。12年余り北京に滞在し、2013年7月に帰国。
著書に『物語北京』(中国・五洲伝播出版社)、訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)。
取材編集に携わった『在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』(阪急コミュニケーションズ)も好評発売中!

 

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