離散と回帰 「満洲国」の台湾人の記録
/台湾学術文化研究叢書
上製
許雪姫/羽田朝子,殷晴,杉本史子 訳
|
|
出版社:東方書店 |
出版年:2021年06月 |
コード:22109 616p ISBN/ISSN 9784497221094 |
|
|
|
日本における「満洲国」の研究蓄積は、非常に充実している。ただし、その対象はほとんどが日本人についてである。戦前、日本領だった台湾からも、「王道楽土」を目指して「満洲国」へ渡った人々がいた。台湾人でありながら「日本人」でもあった彼らが何故「満洲国」へ渡ったのか、現地でどのような生活を送ったのか、そして日本の敗戦をどのようにして迎えたのか、などなど、その実態はほとんど描かれることがなかった。著者は、オーラルヒストリーの手法で満洲経験者の話を集め、様々な資料を蒐集し、それらをもとに彼らの実態を描き出す。本書は、日本近代史、台湾近代史の空白を埋める貴重な資料である。
【原著】
『離散與回歸:在滿洲的臺灣人(1905-1948) 上、下』 許雪姬 2023年01月 左岸文化事業有限公司
●著者の言葉 満洲国における台湾人に興味を持ち始めたきっかけは、(略)「二・二八事件」を研究した際、元関東軍の陸軍少尉であり台湾南投県埔里出身の黄信卿氏が、台中地区において反政府活動に身を投じたことを知ったからである。(略)私事ではあるが、わたしの父方の(略)叔母は一九三七年にハルビンに渡り、(略)一九三八年五月に難産で他界した。叔母の物語、亡くなるまでの一部始終は、家族の中でずっと語り継がれ、私も小さい頃から耳にしてきた。(略)満洲に行かれたことのある方々にインタビューするに当たり、(略)彼らが私に期待していることは、(略)中国国民党も中国共産党も喜ばないこの歴史の一時期を後世のために書き残す学術的な専門書ができることであった。(許雪姫「はじめに」より)
●訳者の言葉 原文では多くの部分でオーラルヒストリーや当時の資料に忠実に拠っているため、氏名や学校名、団体名など、固有名詞について統一がはかられておらず、また誤りも数多く含まれていた。そのため翻訳にあたっては、(略)確認作業を行い、許氏の承諾を得た上で統一や訂正を行った。(略)あえてこれを行った理由は、(略)日本の学界では満洲について非常に関心が高く、固有名詞の不統一や誤りについては敏感であり、それだけで本書の内容に対し疑念を持たれることがあってはならないと考えたからだ。(略)満洲や当時の日本に関する資料が豊富な環境にある日本の研究者が確認作業を行うのが最も合理的であり、それでこそ台湾の研究書を日本で翻訳出版をする意義があるといえよう。(羽田朝子「訳者あとがき」より)
●目次: 「台湾学術文化研究叢書」刊行の辞(王徳威) はじめに
第一章 概論 一、ディアスポラの文献回顧と分析 二、日本統治期の台湾人の海外活動に関する研究回顧 三、満洲国研究の回顧 四、満洲国の台湾人に関する研究史料 五、本書の構成
第二章 台湾人の「満洲経験」 一、清代における台湾人の遼東・遼西に対する認識 二、「満洲国」の建設 三、台湾人の越境の理由 四、満洲へ向かった時期区分と分布 五、満洲への交通と人数 小結
第三章 満洲で教育を受けた台湾人 一、高等教育のための中等学校への入学 二、医学校の卒業生 三、工科大学の卒業生 四、法律科の卒業生 五、商業学校の学生 六、満洲国の最高学府――建国大学 小結
第四章 満洲国官僚体系の建設と台湾人官僚 一、満洲国の官僚体系の建設と台湾人官僚 二、満洲高等官僚の揺籃――大同学院 三、中央政府に任職した台湾人 四、地方における公職 五、満洲国軍 小結
第五章 非公職の台湾人、満洲における台湾人の生活 一、国営会社 二、特殊会社、準特殊会社 三、その他の組織 四、台湾人の満洲での生活 小結
第六章 満洲にいた台湾人医師 一、満洲での医師資格の取得と満洲の衛生環境 二、早期に満洲へ行った台湾人医師 三、後期に満洲にいた台湾人医師 四、研究、教学に従事、あるいは医療行政システムに入った台湾人医師 五、医師の家系 小結
第七章 台湾人の満洲における戦争体験 一、ソ連軍の占領と国共内戦 二、非常事態に直面した台湾人の動き 三、台湾人が直面したソ連兵の暴行 四、台湾人、日本人、朝鮮人の戦後の境遇 五、遙かなる台湾への帰路 小結
第八章 満洲経験者のその後の境遇と二度目の離散 一、試験、就学と教職就任 二、政治事件の中での受難者 三、再度の離散 四、東北に残った者たちの境遇 小結
第九章 結論 一、満洲にいた台湾人を研究した理由 二、満洲経験についての研究とその特色
訳者あとがき(羽田朝子) 解説(関智英) 索引(事項・人名・研究者名)
|
■編著者紹介
許雪姫(キョ セツキ) 国立台湾大学歴史系博士。現在は台湾中央研究院台湾史研究所特聘研究員兼所長。専門は台湾史。主な著作に、『清代台湾的緑営』(中央研究院近代史研究所、1987)、『龍井林家的歴史』(中央研究院近代史研究所、2015)、『板橋林家――林平侯父子伝』(台湾省文献委員会、2000)、『楼台重起――林本源家族与庭園的歴史』(再版、新北市政府文化局、2011)等がある。
訳者紹介 羽田朝子(はねだ あさこ) 奈良女子大学人間文化研究科博士後期課程比較文化学専攻修了。博士(文学)。現在、秋田大学教育文化学部准教授。専門は中国近現代文学、満洲国文学。主な業績に、「満洲国留学生の日本見学旅行記――在日留学生のみた「帝国日本」」(濱田麻矢ほか編『漂泊の叙事』勉誠出版、2015)、「梅娘の描く「日本」――昭和モダニズムの光芒のなかで」(『日本中国学会報』第69集、2017)、「『婦女雑誌』にみえる梅娘の女性観――近代的主婦像と「国民の母」」(『現代中国』第92号、2018)、「但娣の描く「日本」――満洲国の女性作家と日本留学」(『野草』第102号、2019)等がある。
殷晴(イン セイ) 北京大学新聞与伝播学院修士課程新聞学専攻修了。東京大学人文社会系研究科修士課程アジア史専攻修了。現在、東京大学人文社会系研究科博士課程在学。専門は中国近代史。主な業績に、「提塘からみた清朝中央と地方の情報伝達」(『東洋学報』第99巻第3号、2017)、「清代における邸報の発行と流通――清朝中央情報の伝播の一側面」(『史学雑誌』第127巻第12号、2018)、「清末における「官報」の発行と政府による情報発信の変容」(『歴史学研究』第996号、2020)がある。
杉本史子(すぎもと ふみこ) 立命館大学大学院文学研究科史学専攻東洋史専修博士課程後期課程修了。博士(文学)。現在、立命館大学等で非常勤講師。専門は中国近現代女子教育史。主な業績に、「中国近代における家事科教育―その導入と抵抗―」(関西中国女性史研究会編『ジェンダーからみた中国の家と女』東方書店、2004)、「陳望道の婚姻論」(『立命館文學』第615号、2010)、「新文化運動後期における女子学校の「学潮」と女学生―『民國日報』とその副刊の報道を中心として―」『立命館文學』第619号、2010)等がある。
|
|