近代日本の植民地教育と「満洲」の運動会
/植民地教育史ブックレット
北島順子
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出版社:風響社 |
出版年:2022年03月 |
コード: 74p ISBN/ISSN 9784894894228 |
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運動会の原風景を植民地に探る。
もはや風物詩、日本の身体文化とも言える「運動会」。だが時に、集団訓練的側面が軍国主義の名残と批判されることもある。本書は、植民地教科書に描かれた姿や当時の児童の体験記から、その実際をたどる、貴重な記録である。
以下、本書より
現代の日本で「運動会」と聞いて、「運動会って何?」と尋ねる人はほとんどいないのではないでしょうか。それほど、運動会は主要な学校行事として多くの人に親しまれています。運動会は近代日本の内地だけでなく、植民地においても行われ、現代にも受け継がれている、日本独特の身体文化の一つです。
近代日本の学校教育における運動会はまるで軍事教練(*)のようでした。そして、軍国主義の名残とも言える集団秩序訓練は集団行動として、特に体育授業や運動会等の体育関連行事を中心に、現在の教育現場にも引き継がれています。なぜ、まるで軍隊のような集団行動が根強く残っているのでしょうか。運動会の団体演技で一糸乱れず演技できるようになるまで何度も練習を繰り返し、多くの時間を費やすのにはどのような意味があるのでしょうか。それは誰のためでしょうか。
かつて高校に非常勤講師として勤めていた頃、運動会間近の附属幼稚園の運動場から強い口調の教諭の声が聞こえて驚いた経験があります。
「○○ちゃん、手が伸びてない」「○○くん、間違ってる」「そこ遅い。みんなとそろってない」「もう一回やり直し」
それが、どうやら運動会の団体演技(ダンス)の指導らしいということはすぐにわかりました。そのピリピリした雰囲気は大人の私でさえ怖く感じるほどで、何度も名指しで注意され、やり直しを強いられていた子どもたちの気持ちを思うと、なぜ、このような軍隊的な訓練をするのかという疑問がわきました。運動会だから保護者や来賓にいいところを見せなければと強制的に訓練するのではなく、普段の表現遊びや体育活動の延長・発表の場として、いつも通りのその子らしさを表現できることが理想ではないでしょうか。ダンスには「ダンスセラピー」という領域があり、元来、踊ること、身体で表現することは、子どもたちの内面に鬱積しているものを吐き出し、本来の自分らしさを受け入れてもらえる、子どもたちの心身の解放につながるものです。
筆者が教職に就いた頃から(もうかれこれ三〇年以上前のことですが)、「ダンスセラピー」や「ストレスマネジメント教育」をテーマに研究実践を継続していく中で、「心身の解放」の対極にある「身体規律」を重視する教育現場の現状を無視できなくなりました。そこから「教育」「運動会」「集団行動」の歴史について調べる必要性を感じ、教科書研究の一環として、「運動会」に関する教科書教材を詳細に検証し、日本の植民地教育と「身体文化」について明らかにしようとしてきました。このような身体に集団的な規律を求める教育が根強く重視されている現代の教育現場に疑問を抱いた体験が本書執筆のきっかけの一つとなりました。
目次:
はじめに 1 「運動会」の歴史 2 なぜ「満洲」か
一 日本の国定・植民地(台湾・朝鮮・南洋群島)教科書に 描かれた運動会 1 本書で扱う教科書とその時期 2 集団行動のはじまり 3 植民地(台湾・朝鮮・南洋群島)における教練 4「ナンバ歩き」から「近代的歩行法」へ 5 ラジオ体操・体操 6 かけっこ 7 その他
二 「満洲」教科書に描かれた運動会 1 「満洲」とは 2 アジア諸民族支配の壮大な実験場 3 「満洲」在満日本人用教科書 4 ランニング、リレー、かけっこ 5 合同体操、ラジオ体操・体操
三 「満洲」における教育・運動会・スポーツ――在満少国民の体験記録より 1 母が学んだ教科書 2 新京立正幼稚園 3 新京櫻木小学校 4 新京櫻木国民学校 5 ハルビン白梅国民学校 6 まとめ
むすびにかえて 引用・参照文献
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