日本における立法と法解釈の史的研究 別巻 補遺
上製
小林宏
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出版社:汲古書院 |
出版年:2021年10月 |
コード: 278p ISBN/ISSN 9784762942389 |
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日本法制史研究の泰斗――小林宏先生の珠玉の論考を全三冊・別巻一に収録!
【あとがきより】(抜粋) 本書所収の主要な論文は、唐律疏議と令集解とを研究の対象として多く扱っている。それについて、ここに一言しておきたい。令集解(令義解をも掲載)という法書は、明法家による古代律令の法解釈や法適用などの法実務の実態が具に記されており、前近代の日本における法学の内容やその性格を知ることのできる貴重な資料、いわばその宝庫である。しかし、その伝本の文には脱落、錯簡、誤字、衍字が多く、後の追記や書入れなども混じっており、学説の引用関係を示す構文もまた複雑であって、その内容を文理的に正しく読み解いて行くのは決して容易ではない。更にそこから令集解の内容を法学的に分析し、解明する為には、余程の時間と労力とを必要とする。 筆者も、その読解に自信がある訳ではないが、ただ令集解の解読に当って一つだけ言えることがあるように思われる。筆者は大学院在学中の八年間、森鹿三先生の東洋法史の演習に参加したが、そのテキストは唐律疏議であった。筆者が令集解を読み始めたのは、上京してかなり後のことであったが、森先生の演習において、この唐律疏議を読んでいたことが、実は令集解の内容を理解するに当って、少なからず役立ったのである。森先生の学恩に深く感謝したい。 それでは何故、唐律疏議を読むことが令集解の理解に役立つのか。考えてみれば、それは至極当然なことであって、唐律疏議は唐の律疏の内容を今に伝えている書であるからである。唐の律疏は、周知の如く戦国時代以来の多年にわたる中国法律学の伝統の上に、丹念に練り上げられた精華の結晶である。この唐の律疏によって日本人は初めて立法や法運用に関する合理的な思考を学びとり、それを身につけることができたのであって、令集解所収の諸家の学説も多かれ少なかれ、すべてこの律疏によって具現化された唐の律学がその基礎にあったといってよい。(中略) そうすると、唐の律疏が学習された時代や令集解が成立した時代は八、九世紀のはるか古代ではあるが、当時の律令法学がその後の日本の法制史、法学史、法思想史、法生活史などに及ぼした影響は、実に計り知れないものがあるといわなければならない。
目次: 例 言 第一 養老名例律贈位条について――その立法上の意義―― 一 唐律第一項相当規定の存在しない理由 二 職事の初位と非職事の初位 三 日本律立法の手法――むすびに代えて―― 第二 日唐除免官当法に関する若干の考察 一 除免官当法適用後の再叙 二 日唐官制の相違 第三 令義解の法解釈と令集解の成立 一 令義解の法解釈技法 二 令義解の法解釈の不備 三 総括と展望――令集解の成立と関連して―― 第四 令集解のなかの義解学――伴記の法解釈を中心として―― 一 伴記による義解の引用 二 その他の私記による義解の引用 第五 異質令集解のなかの義解学――「私」の法解釈を中心として―― 一 令集解卷三十五の「私」と義解の関係 二 令集解卷二十の「私」と義解の関係 三 異質令集解に関する若干の考察 第六 「異質令集解」試論 一 公式令集解逸文と異質令集解との比較 二 令集解と異質令集解の関係 第七 令集解卷二十に見える師説について 一 師説の機能 二 師説の性格(その一) 三 師説の性格(その二) 四 師説と「私案」 第八 令集解に見える唐儒の律私記に関する覚書 第九 「基」説小考――宮部論文「「基」の注釈についての内容的考察」に寄せて―― 第十 令集解雑感 第十一 律集解雑感 第十二 法が生まれるとき――高塩報告「「公事方御定書」に並ぶもう一つの幕府制定法」の意味するもの―― 第十三 書 評 岡野誠著「新たに紹介された吐魯蕃・敦煌本『唐律』『律疏』断片――旅順博物館及び中国国家図書館所蔵資料を中心に――」、同「旅順博物館・中国国家図書館における『唐律』『律疏』断片の原巻調査」 附録 第一 「三間正弘は軽薄なる男子にあらず」――明治警察史の一駒―― 一 木戸による三間の推挙 二 戊辰戦争後の三間の行動 三 戊辰戦争後の三間の心情 四 三間の新政府出仕 第二 瀧川学の魅力 別巻収載論文成稿一覧/あとがき/索引
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