曲折に富む近代の体験から紡ぎだされた豊穣なる文学 日清戦争の結果による日本統治下の日本語、日本敗戦後の国民党政権による北京語、二代にわたる「国語」制度の下、主として閩南語を生活語としてきた台湾において、“文学”とは何か? 著者は、台湾文学の原点たる戦前期から、“Taiwanism”というナショナリズムの台頭にともない台湾アイデンティティの形成へと急傾斜しつつある近年に至る過程の社会史的分析を軸に、台湾文学の世界性を提示する。台湾文学を通史的に論じる第I部、佐藤春夫と西川満という日本人作家から瓊瑤・李昂に至る現代台湾作家を論じる第II部、エッセー・書評を収める第III部の3部構成。●編著者のことば 二つの「国語」を持ち今もなお第三の「国語」を模索する台湾文学は、近代および文学の活力あふれる実験室なのである。国際化が叫ばれ、越境の方法が問われる日本において、台湾文学は、日本近代文学の鏡であり、また一つの可能性を指し示すものであるともいえよう。台湾は曲折に富む近代を体験し、その体験をバネとして豊かな文学を紡ぎだしてきた。20世紀100年という時空において、台湾文学は台湾人の情念と論理を時に日本語で時に北京語で語ることにより成熟してきたといえよう。(「序」より)
●構成 序―台湾文学とは何か I 台湾文学の歩み 台湾文学の歩み/“大東亜戦争”期における台湾皇民文学―読書市場の成熟と台湾ナショナリズムの形成/歴史の記憶がよみがえるとき―日本人にとっての戦前期台湾文学研究 II 作家と作品 大正文学と植民地台湾―佐藤春夫「女誡扇綺譚」/台湾エキゾチシズム文学における敗戦の予感―西川満「赤嵌記」/台湾人作家と日劇「大東亜レヴュー」―呂赫若の東宝国民劇/追記「ろかくじゃく」のルビ問題をめぐって/ある日本語作家の死―周金波追悼/“中華民国”の陰画―瓊瑤『わたしの物語』/フェミニズムと台湾文学―李昂『夫殺し』 III 脚光あびる台湾文学 “台湾意識”と台湾文学/台湾人と中国人との間に横たわる溝―知的成熟と民主化/台北で出会ったフェミニズム作家/煉獄のような暗い夏に―『夫殺し』を訳したころ/古都鹿港への旅―名作『夫殺し』の舞台を訪ねて/台湾近代史の証言―『陳逸松回想録』『台湾大地震』「台湾人最初の『国語』体験」/戦争の傷あと―『断掌順娘』『終戦の賠償』『傷口の花―二二八詩集』/現代台湾を描く小説群―『小説中国』『四喜憂国』『荒人の手記』『人みな香挿す北港の炉』/活性化する台湾文学研究―島田謹二『華麗島文学志』から河原功『台湾新文学運動の展開』まで あとがき 台湾文学年表
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