●編著者のことば
各論文を乱暴に要約しただけでも、これら11編が扱う内容が多岐にわたることが一目瞭然となり、とても「中国民衆史」の範疇で括れるものではないことを告白したのも同然となるのであるが、日中関係史の範疇に入れることも可能な数編を含めて多くの論文の関心が中国の民衆の生きざまを歴史的に捉えようとすることにあることも事実であって、さまざまな角度からそれに接近すべく努めた結果がこのような諸論文となったのであり、そこであえて「民衆史」を総題として使った次第である。（「後記」より）

●構成
序（尾上兼英）
中国の地方志と民衆史（山本英史）
はじめに／1 地方志とはなにか／2 史料としての地方志／3 民衆を描く地方志／おわりに
清末中国の社会変化とその認識について（並木頼寿）
はじめに／1 「経世文編」の編集とその変化／2 黄遵憲『日本国志』／3 『禹域通纂』と『清国通商綜覧』／4 日本人の中国観／結びにかえて
故宮博物院（台北）所蔵太平天国諸王の供述の記録（小島晋治）
1 幼天王洪貴福、干王洪仁玕らの逮捕・供述・処刑までの経過／2 故宮博物院所蔵太平天国諸王の供述の記録の概要／3 幼天王洪貴福の「供」／4 干王洪仁玕の「供」／5 恤王洪仁政の「供」／6 昭王黄文英の「供」／7 尊王劉慶漢の「供」／8 誉王李瑞生の「供」
太平天国前夜の広西における移住と民族―貴県の場合（菊池秀明）
はじめに／1 “土白話”と“客籍”エリート―上層移民の政治的権威をめぐる競争／2 チワン族と客家―下層移民の入植、発展過程／3 “来土”械闘をめぐる民族、サブ・グループ間関係／おわりに
清末宗教結社と民衆運動―青蓮教劉儀順派を中心に（武内房司）
1 劉儀順とその周辺／2 商業流通網と布教活動／3 反清思想／結びにかえて
清代台湾における先住民の社会変容（張士陽）
1 台湾史研究の活況化と台湾原住民史／2 清朝の台湾先住民統治政策概観／3 台湾平地先住民の土地開発の諸相／4 清朝地方行政と台湾平地先住民の対応／5 今後の課題
台湾総督府による官営移民事業について（栗原純）
はじめに／1 福澤諭吉と台湾／2 官営移民事業／おわりに
図們江開発計画―過去と現在（伊藤一彦）
はじめに／1 図們江開発計画の現状／2 幻の図們江開発／おわりに
在日中国人労働者、行商人―戦前の警察資料に見る（大里浩秋）
はじめに／1 取締り規制、勅令第352号等／2 大正10年から15年まで／3 昭和2年から13年まで／4 昭和14年以降―結びにかえて
中国社会主義政権の出発―「鎮圧反革命運動」の地平（小林一美）
1 問題の提出／2 建国後の怒濤のごとき政治運動／3 解放直後の中国社会の状況／4 匪首・慣匪の横行と被害／5 毛沢東、「鎮反」運動を発動／6 全国の処刑、処罰の状況／7 鎮反運動における“左傾”と“右傾”／8 党の独裁から、毛沢東主席の独裁へ／9 「鎮反」運動と土地改革―階級敵の確定／10 毛沢東に関する若干の感想
史的システム論と情報流―18世紀中国森林史のために（上田信）
はじめに／1 生成する意味／2 情報流のレベル／3 意味システムにおける時間と空間／4 森林への意味づけ／5 動植物への意味づけ／おわりに
後記（大里浩秋）