●編著者のことば
中国文学といえば、“漢文”“漢詩”をイメージしてしまう世代から見れば、ずいぶんと偏った中国“文学”論集ということになるかもしれない。この論集があつかっている分野は、旧来の正統的な価値観からすれば“俗”なるもの、無価値なものということになる。しかし執筆者たちはそれぞれそこに独自の価値や意義を見出している。旧来の中国文学の常識や通説にたいして、鋭くかつ斬新な問題提起をおこない、新しい研究の沃野を切り開く指標を示してくれているのである。本書の出版が、この方面の研究を志す若い人々に新鮮な刺激を与え、通俗文芸の研究がいっそう盛んになる契機になれば、これに勝る喜びはない。（「後記」より）

●構成
序（尾上兼英）
中国小説史における“雅”“俗”の間（尾上兼英）
1 “雅文”小説の展開／2 “通俗”小説の登場／3 伝奇・白話・評話の文体／4 “俗”の俗なる作品
通俗文芸と知識人―中国文学の表と裏（大木康）
はじめに／1 小説をめぐって／2 知識人と通俗文芸／結びにかえて―中国文学における表と裏
白話小説はどのように解読されねばならないか―小説研究におけるパラダイムの転換を踏まえて（鈴木陽一）
はじめに／1 小説研究におけるパラダイムの転換／2 小説とはどのようなテクストか／3 テクスト解読のコード―地域文化／4 間テクスト性―引用の織物としての小説／おわりに
中国の語り物文学―説唱文学（金文京）
1 第三の中国文学／2 説唱文学の歴史／3 基層の文学
語り物文芸の形成―漢から宋へ（小南一郎）
1 小説の定義と物語りの理論／2 語り物文芸の起源―戦国～漢代／3 知識人たちの語りの場―六朝～唐代／4 語り物文芸の新しい展開―宋代
漢の物語から唐の物語へ―『三国志平話』をめぐって（大塚秀高）
まえがき／1 司馬仲相陰司断獄陽間転生の物語―『三国志平話』額縁物語の前半／2 天公から閻王司馬氏へ／3 文字テクストと口頭テクスト―『半日閻王伝』をめぐって／4 陰司断獄の時期をめぐって／5 『全相平話後漢書』と劉秀走国の物語／6 ふたつの南陽／7 さまざまな転生物語／8 紫微星と二十八宿／小結―漢の物語から唐の物語へ
民話と小説―白蛇伝の場合（山口建治）
はじめに／1 民話白蛇伝の世界／2 小説白蛇伝の世界／3 陶真『雷峰塔』は弾詞『雷峰塔』／4 黄図珌『雷峰塔』―生子得第をめぐって／むすび―故事の世界
祭祀から演劇へ（田仲一成）
1 問題の所在／2 演劇形式の発生／3 演劇内容（劇文学）の発生／4 英雄劇の成立と伝承／5 烈婦冤魂劇の成立／6 目連戯の形成と展開／補論―儺堂戯について
戯曲の変遷と内容の変化（岡崎由美）
はじめに／1 戯曲変遷史研究の現況／2 演目流伝研究の切り口／3 今後の課題
中国伝統芸能の試論と研究手引き（吉川良和）
1 中国芸能の種類と内包する問題の試論／2 各種芸能／おわりに
後記（山口建治）