儒教文化と政治との相克、そして止揚の道へ 「政治掛帥」(政治優先)という独特の伝統を有する中国において、儒教文化を無視して政治を論ずることはできない。今世紀初頭、進歩的知識人たちが中国衰退は封建的・保守的な儒教文化に起因すると論断して以来、儒教文化は政治的変動に翻弄されてきた。儒教批判は文革時の「批林批孔」で頂点に達したが、改革開放に政策が転換されて以来、共産主義の理論のもとでどのように儒教を活用していくかが焦点となっている。今世紀初頭から現在に至るまでの各時期における儒教と政治との関わりを扱った論文6篇に序論・結論を加えた本書は、儒教文化と近代政治の相関関係、さらには儒教文化の今後を考えるうえで有用である。●編著者のことば 儒教文化は21世紀においても、その強靱な生命力を発揮できるのであろうか。1970年代からの日本・四小龍等東アジア諸国に見られる経済の高度成長、及び80年代からの中国の改革・開放路線による経済の飛躍的発展等、いずれも儒教文化の影響を受けている国々が相次いで経済の近代化を達成している。このことは、儒教文化が国家近代化の阻害要因とはならないことを示すものである。すなわち、儒教文化は国家の近代化において、なお一定の役割を果たすことができるという証でもある。(「結論」より)
●構成 序論―中国近代政治と儒教文化 第1節 「政治掛帥」の国―中国 第2節 伝統文化の重荷 第3節 中国人民は階級闘争を好まない 第4節 「古為今用」の意図するもの 第5節 儒教文化と中国の近代化 第6節 父祖の国を思う華僑・華人の心 1.孔子の階級的立場について 第1節 問題の所在 第2節 孔子の社会的背景 (1)孔子の先祖/(2)孔子の受けた階級的教育 第3節 春秋戦国時代の階級社会と士階層 (1)孔子の帰属すべき階級/(2)士階層の抱負と責任/(3)士階層と支配階級との関係 第4節 孔子の階級的立場 (1)『奴隷制時代』再版の意図/(2)孔子の託古改革思想/(3)孔子の反体制的思想/(4)孔子の反搾取理念 第5節 結語 2.「打倒孔家店」の由来―「五四運動」時期を中心として 第1節 問題の所在 第2節 民国初期の復古と帝制 第3節 「打倒孔家店」 (1)『新青年』と民主・科学/(2)孔子が批判される理由/(3)旧倫理道徳に対する批判/(4)宗法家族制度に対する批判/(5)封建文学に対する批判 第4節 結語 3.孔子批判の根底にあるもの―1973年の「批林批孔」運動を中心に 第1節 問題の所在 第2節 毛沢東・林彪の対立 (1)対立の始まり/(2)林彪の罪状/(3)林彪の毛沢東批判 第3節 孔孟の道と階級闘争 (1)毛沢東と孔孟の道/(2)毛沢東の階級闘争観 第4節 「批林批孔」とその目的 (1)「批林」・「批孔」結合の論理/(2)闘争の対象 第5節 結語 4.孔子に対する再評価 第1節 問題の所在 第2節 再評価の方法 第3節 古代史区分の問題 第4節 再評価の諸側面 (1)政治思想/(2)哲学思想/(3)教育思想/(4)道徳観と大同思想 第5節 結語 5.中国近代化における儒教文化の役割 第1節 問題の所在 第2節 儒教文化の位置づけ (1)批判的見解/(2)社会主義との共存 第3節 日本・NIESの経験と教訓 (1)勤勉の美徳/(2)教育の重視/(3)運命共同体 第4節 中国改革・開放のひずみ (1)拝金主義と腐敗/(2)収入格差と犯罪増加 第5節 儒教文化の現代的役割 (1)市場経済における役割/(2)人間関係における役割/(3)近代化における役割 「民主」との関連において/「科学」との関連において 第6節 結語 6.「大中華経済圏」に見る華僑・華人の「中華意識」と儒教文化 第1節 問題の所在 第2節 「大中華経済圏」 (1)「大中華経済圏」形成の可能性/(2)「大中華経済圏」の経済力 第3節 華僑・華人の特質 (1)衣錦還郷/(2)落地生根/(3)祖先崇拝/(4)廟 (5)白手起家 第4節 華僑・華人の帰属意識 (1)儒教倫理観の継承について/(2)華語教育と民族文化/(3)「中華」への「回帰」 第5節 結語 結論―生き続ける儒教文化 あとがき
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