「庶民の頼りの門」―その歴史と制度 中国の質屋は「庶民の頼りの門」と称される。人々の懐を支え続けた質屋は、南北朝時代以来中国経済に深く根付き、改革開放が叫ばれる現代に至るまで、時代の移り変わりを乗り越えて命脈を保ち続けている。本書は、中国質屋業の歴史的推移をたどりつつ、その起源、制度、経営体制、日常業務、需要者層の変遷や、歴代の政治・経済との関わりあいなどを探る。また、杜甫など唐代の詩人の作品や、『金瓶梅』『紅楼夢』など明清代の小説、さらには民国期の風刺画や魯迅の作品に描かれた質屋の姿が紹介され、中国庶民の生活史の一端を垣間見ることができる。●編著者のことば 南京に着いて、繁華街を歩いていると、社会主義の中国ではそぐわない質屋の看板をしばしば見かけることがあった。これまで「非近代」的で、経済の発展を阻害するもののごとく捉えられてきた在来の金融業である質屋が、現代化が始まった中国で増えつつあるのは何故なのか。……かつて独特の発展を遂げ、日本にも伝えられた中国の質屋とその歴史を回顧してみることは中国の社会経済史研究の上で重要であるばかりでなく、まして、現代中国での質屋の復活、日本での質屋の生命力といった現象を目の当たりにするにつけ、その今日的意義は大きく、興味深いものがあると思う。(「はしがき」より)
●構成 はしがき 第1章 中国質屋業の起源と発展 第1節 中国質屋業の起源 「貧乏人の頼りの門」/「質」についての記録/質業の起源についての両説/質業の始まりは仏教寺院の寺庫/最古の寺庫は南京の招提寺か江陵の長沙寺か/北朝寺院の僧祇粟について/仏教寺院による寺庫経営の動機、目的/東西軌を一にした質屋の起源 第2節 唐宋元代の質屋業 1 仏教寺院経営の寺庫 唐代の寺庫/宋代の長生庫/元代の寺庫 2 民営の質屋業 唐代の櫃坊、寄附舗/唐代の民営質屋業/宋代の民営質屋業/元代の民営質屋業 3 官営の質屋業 宋代の抵当庫/金朝の流泉務 4 宋代質屋業発展の要因 5 西夏時代の質契約文の復元 第2章 明清代質屋業の繁栄 第1節 明代の質屋業 1 明代の質屋業 2 内部管理体制の整備 朝奉/当票/当幌/当字譜 3 徽州商人の栄えた背景 第2節 清代の質屋業 1 清代の質屋業 皇当(帝室出資の質屋)/官当(官府、官僚出資の質屋)/民当(民営質屋の総称) 2 発商生息制度と質屋業の発展 3 清末質屋業の衰退 政府、官僚による不当な要求/戦乱頻発の影響/貨幣制度の不安定と社会経済形態の変化 第3節 質屋業の社会風俗化 1 『金瓶梅』に描かれた質屋 2 『紅楼夢』に描かれた質屋 第3章 近代質屋業の組織と経営 第1節 質屋業の組織 1 質屋の種類 2 質屋の設立 3 質屋の組織 第2節 質屋業の管理 1 内部管理 人事管理のための店内規則/業務管理のための営業規則 2 業務の実際 日々の単調な業務/期限の到来する質物の表示/ある学徒の入店時の回想/学徒期間の学習 3 質屋職員にとっての必修文献および質札の特徴 第3節 質屋業の経営 1 資本 2 利息 3 流質期限 4 質物の評価 5 質屋税 6 質屋同業公会の普及と役割 第4章 民国時代質屋業の変遷と特色 第1節 民国時代質屋業の概観 1 民国時代質屋業の展望 華北地区(河北、山西、山東、河南の各省)/西北地区(陝西、甘粛、新疆の各省)/華東地区(江蘇、浙江、安徽の各省)/華中地区(湖北、湖南、江西の各省)/華南地区(福建、広東、広西の各省)/西南地区(四川、雲南、貴州の各省)/内モンゴル地区(熱河、察哈爾、綏遠、寧夏の各省)/東北地区(奉天、吉林、黒竜江の各省) 2 主要都市質屋業の特色 北京の質屋/天津の質屋/上海の質屋/南京の質屋/広州の質屋 3 質屋営業額の推計 第2節 質屋業の農業金融上の地位と役割 1 質屋業の農業金融上の地位 2 農村の疲弊と質屋業の役割 質屋業の活用/質屋改革論議/公営質屋設置の要望/経済改革と農村経済の復興 第3節 質屋業と社会 1 質屋と農民、都市住民との関係 2 質屋と市井の遊民との関係 3 質屋に対する社会の評価 豊子愷の風刺画/裁判記録/社会の矛盾/宣教師の見た光景/魯迅と質屋/周恩来と質屋 第4節 1938年以後の質屋業の特色 1 質屋業の畸型的繁栄 南京の場合/上海の場合/蘇州、無錫、常州の場合 2 公益質屋の出現 杭州の公益質屋/南京の公益質屋/上海の公益質屋/新中国成立後の公益質屋 第5章 現代中国の質屋業 1 現代質屋の出現とその背景 2 現代質屋の設立、営業内容 必要書類/取扱品目/期限/評価/利息/その他 3 現代質屋の特色 4 「小額抵押貸款処」の復活 5 中国質屋業の行く末 あとがき/主要参考文献
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