●編著者のことば
蒋介石の事例が示唆するように、上海をコントロールしようとする者は、多くの場合、フォーマルな表の権力―ブルジョアジーや労働者、あるいは租界当局などの外国勢力―の支持を勝ち取るだけでなく、青幇という裏世界の支配者とも何らかの形でコネクションをつけることが必要だった。犯罪シンジケートであるとともに下層民の扶助組織でもあり、また租界警察の通謀者でもあった青幇のネットワークは、租界と華界に分断された上海社会を縦横に駆けめぐっていた。……そこに青幇そのものが表世界の権力者として浮上してくる理由もあった。（本文より）

●構成
まえがき
I 上海の顔役たち
聞人・名士・顔役／「華洋雑居」と「五方雑処」／本章の登場人物たち
1 徐潤―近代初期上海経済界の顔役
巨大商会デントの成立と交易活動／デント商会の上海進出／買弁の業務・契約・出自／デント商会買弁徐潤／資産と栄誉の形成／徐潤の挫折―官界との結合をめぐって
2 虞洽卿―上海実業界を束ねる「国際紳士」
買弁から民族資本家へ―裸足の財神／租界の中国人を代表して／租界行政への参加―上海ブルジョアジーのナショナリズム／蒋介石と上海実業界の提携の立て役者／抗戦下の上海資本家
3 呉鉄城―大上海計画の推進者
孫文の同郷、上海市長となる／“望廬”主人と大上海計画／インフラ整備の進展と国権回収／全国体育大会の開催―空前の盛り上がり／集団結婚―新しい生活方法の推奨
4 張春橋―失敗した上海コミューンの指導者
文化大革命とコミューン／張春橋の台頭／文革の発動／上海労働者の抵抗／上海「一月革命」／上海コミューンの成立と挫折
II 国際都市のエトランゼ
エトランゼの上海／アジアの都市上海／上海の日本人
1 サッスーン財閥―アヘン王から不動産大王へ
海のシルクロードとユダヤ人サッスーン／上海と新サッスーン商会／サッスーン財閥の全盛とその撤退
2 李光洙と呂運亨―上海の朝鮮人群像
国際都市上海と朝鮮人／朝鮮人コミュニティの形成／フランス租界のセキュリティ／朝鮮人コミュニティの生活／『独立新聞』と朝鮮人ジャーナリスト／中朝連帯の組織―「中韓国民互助社総社」／五・三○運動と朝鮮人／セキュリティの崩壊
3 岸田吟香と荒尾精―東亜同文書院の源流
東亜同文書院とは／日中民間交流の先駆者・岸田吟香／荒尾精と漢口楽善堂／貿易立国論と日清貿易研究所
4 船津辰一郎―日中“共存共栄”夢の架け橋
五・三○運動／在華日本紡績同業会／上海とのめぐりあい／上海総領事／同業会総務理事／「船津工作」／「共存共栄」の黄昏／敗戦
III 秘密結社と表の世界
青幇と開港都市上海／表の上海と裏の上海／革命運動・労働運動・特務活動
1 陳其美―青幇から上海軍都督へ
李平書と商団／沈縵雲と革命派／上海蜂起／江南製造局占領／陳其美の死
2 杜月笙―上海近代を体現した男
フランス租界・黄金栄・アヘン／一声十万―ゲヴァルトの効力／地上に浮上―南京政府体制と青幇／上海聞人―杜月笙／日中戦争と杜月笙
3 朱学範―労働運動と秘密結社
上海の郵便局員／「黄色工会」の指導者／組合運動と上海の黒社会／労働争議の調停者／抗日戦と対華援助活動／人民共和国の代表
4 李士群―魔窟の特工魔王
スパイ戦の舞台、上海／二度の転向／日本軍との結託／汪精衛一派との合流／特工総部の構成／76号のテロ活動／李士群、特工の全権を掌握／李士群の没落と死
VI モダン上海の文化
「海派」文化／「海派」文化成立の背景／キリスト教と「海派」文化／「海派」の芸術・芸能
1 宋家一族―近代都市家族の形成
中国でもっとも有名な家族／宋家一族の誕生／近代中国の印刷・出版と宋嘉樹／キリスト教と近代上海／教会学校の発展／革命の奔流の中の子供たち
2 黄炎培―近代教育先進都市の教育界
貧しい読書人の家庭に生まれて／教育先進都市上海へ／江蘇学務総会の結成／教育普及方法の模索／職業教育運動の展開／政治と教育のはざまで／「学閥」から「愛国民主人士」へ
3 劉海粟―上海美専の創設者
神童／17歳の校長／人体スケッチの創始者／美術学校の革新／「芸術の反逆者」の社会活動／最後の日々
4 茅盾―民国期の上海文壇
茅盾と上海文壇／『小説月報』の革新／文学研究会の活動／『文学』の創刊／大衆の園地／上海を描いた小説／上海を離れて
あとがきに代えて―「魔都」の名もなき人々への想い
「黒社会」と「衆生」／弄堂の世界／「可憐」婦女たち／底辺で上海を支えた労働者／共生社会・上海
登場人物生没年一覧
旧上海地図
人名索引