近代中国=国民国家形成の過程を検証! 国民国家的統合の実現という課題に対し、国民の自主的な意志よりも、強力な指導者およびそのブレーンが代表する行政府によって安定と秩序が優先される政治が遂行されることが、現在に至るまで近現代中国の政治・社会の特徴であった。政治におけるこのような現実は、確かに中国の国民国家的統合の未熟さを表していよう。しかし、他方で中国の国民国家的統合の成熟は、指導者の選択・決断に頼らざるを得ないのかも知れないという点に、この問題の複雑さが示されている。本書には、近代的国民国家の形成過程において、中国政・官・財界の指導者が政治とどのように関わったかを詳細に検証する論文9篇を収録する。●編著者のことば 本書で取り上げている人物は、すべてが国家的レベルでの指導者というわけではない。もちろんまさにそれに該当する人物も含まれているが、多くは政治指導者のブレーン、地方の政治指導者、知識人集団のなかの指導者、経済界の指導者、専門的政策立案集団のなかの指導者といった、より下位のレベルの指導者である。しかし指導者的個人の持つ重みは国家的レベルでの政治だけでなく、政治のさまざまなレベルおよび社会の各界においても見られることではなかろうか。……国家レベルでの政治の優れた指導者への委託は、より下位の政治レベルあるいは社会の各分野における指導者的個人への意思決定の委託を基盤とし、それらの積み重ねの上に成り立っているのかもしれない。(序章より)
●構成 序章 中国「近代化」の研究視角と本書の概要(曽田三郎) 1 中国「近代化」の研究視角/2 本書の概要 第1章 清末における近代国家形成と楊度(曽田三郎) 1 問題の所在/2 楊度による国会速開論の提起/3 1906,7年の中央政局/4 憲政編査館の成立と楊度/5 おわりに 第2章 清末立憲運動と梁啓超(楠瀬正明) 1 はじめに/2 立憲運動の展開/3 梁啓超の立憲思想/4 おわりに 第3章 王永江の内外認識と東北統治理念―近代中国における地域主義の一位相(松重充浩) 1 はじめに/2 王永江の内外認識/3 王永江の統治理念/4 おわりに 第4章 馮少山の「訓政」批判と「国民」形成(金子肇) 1 はじめに―忘れ去られた上海財界の指導者/2 上海財界における馮少山の躍進と挫折/3 「訓政」批判と「国民」形成/4 結びに代えて 第5章 施復亮―抗戦勝利後の都市中間層と政治文化(水羽信男) 1 問題の所在/2 施復亮と都市中間層/3 施復亮の「中間派」論と都市の急進主義/4 結論 第6章 蕭錚と中国地政学会―もう一つの中国土地改革の軌跡(笹川裕史) 1 問題の所在/2 中国地政学会成立に至るまでの蕭錚/3 中国地政学会の組織と活動(抗日戦争前)/4 蕭錚および中国地政学会にとっての戦争と戦後/5 おわりに―台湾土地改革への道程 第7章 1930年代なかばにおける中国共産党の危機と再生―王明・張国燾と毛沢東(田中仁) 1 はじめに/2 1935年―起死回生を求めて/3 1936年―抗日統一戦線と中国政治の転機/4 1937年―国共再合作と日中全面戦争/5 1938年―国共合作下における共産党の再生/6 おわりに 第8章 劉国釣と常州大成紡織染股份有限公司(富澤芳亜) 1 はじめに/2 劉国豹の生い立ち/3 大成紡織染公司の設立と発展/4 大成紡織染公司の経営/5 おわりに 第9章 永利化学工業公司と范旭東―抗戦下における国家と企業(貴志俊彦) 1 はじめに/2 抗戦下の永利化学工業公司の基本動向/3 七七事変後の永利化学工業公司の再建/4 ビルマ=ルート閉鎖にともなう永利の企業戦略/5 結びに代えて―戦後の永利に関する覚え書き あとがき
|