海賊たちを通して描く、海から見た中国史 広大な中国では流通に海運は不可欠であり、実際古くから海洋での交易が盛んに営まれてきた。しかし、歴代王朝の根拠地が内陸部に置かれることが多かったこともあって、長い歴史を有するにもかかわらず、海洋に関連する事件が歴史書に記録されることは少なかった。その中で、例外的に記録に残されることが多かったのは、中央政権に反抗する海賊たちの活動であった。本書は、遠征隊を率いてはるか南海に雄飛した鄭和、猛威を振るった中国人倭寇の首領王直、清朝に抵抗し台湾を攻略した鄭成功、清代後期に根強い勢力を有した艇盗の乱の首領蔡牽など、中国の沿海で名を馳せた人々の事績を多くの史料を用いてたどりながら、中国人の海洋進出や中国の海外貿易の歩みを探る。●編著者のことば 海賊が後漢時代に出現したのは、この時代になって沿海地方が政治的な意味を持つようになったためと思われる。中原を中心に発展した中国文明は、紀元後になって初めて中原の政権に対峙する勢力を持ちえたと換言できるであろう。沿海地方の人々の活動が活発化するに伴い、海賊等の活動が顕著になってきたことは歴然たる事実である。……古来より、中国は土地が広く物産が豊かであるといわれている。確かに全国的に見れば当てはまるかも知れないが、地域ごとに見れば必ずしもそうではない。人口が多く土地が狭いからという前置きのもとに、沿海地方の人々は郷里を離れ他の地に赴いて生活の糧を得る方法を探したのである。(終章より)
●構成 序章 海賊の虚像と実像 第1章 初期の中国海賊(漢~南北朝) 中国史上最初の海賊/『三国志』の海賊たち/後趙の石虎の海寇/孫恩・盧循の海上反乱 第2章 海外貿易の発展と海賊(唐~元) 渤海の海賊/鑑真和上と海南島の大海賊/南海貿易の繁栄/北宋期の海賊/福建海賊の台頭/航海の女神媽姐/モンゴルと海賊/海上の群雄方国珍 第3章 倭寇と中国海賊(明) 倭寇と海禁政策/海賊の南海進出/鄭和の南海遠征/鄭和の随行員たち/海禁政策の破綻/明代後期の沿海航運と海賊/「嘉靖の大倭寇」の始まり/記事に見る「嘉靖の大倭寇」/倭寇が求めたもの/中国人による海寇/海寇王直/海寇張璉/漳州と海寇/琉球と倭寇/「嘉靖の大倭寇」の終息/倭寇の捕虜となった中国人/明末の海寇/制海権掌握を狙った毛文龍 第4章 台湾の海賊たち(明末清初) オランダ人の東洋進出/オランダ人と中国海商/『バタビア城日誌』に見る海賊/明王朝に仕えた海賊鄭芝龍/鄭芝龍に討伐された海賊劉香/鄭成功の明王朝復興運動/鄭経による琉球朝貢船襲撃/鄭一族の台湾支配 第5章 南海の海賊反乱(清) 海関の設置と広東の海賊/清代の海船/福建海賊の横行/孫文成の奏摺に見る海賊/「洋盗」の出現/艇盗の乱の勃発と海賊の本籍/福建海賊の活動の広域化と沿海貿易/海賊による琉球朝貢船襲撃/海賊による政府調達米略奪/海賊船の武装/洋匪・夷匪/ベトナムの混乱/ベトナムの海賊たち/海賊張保と鄭一嫂/海南王朱濆/鎮海王蔡牽/海関と海賊の横行/蔡牽の最期と艇盗の乱の終結 第6章 今を生きる海賊(清末~現代) 開国後の海盗/南シナ海ボルネオ海域の海賊/『點石斎画報』掲載の盗賊襲撃図/『中外日報』掲載の海盗記事/『盛京時報』掲載の海賊記事/『申報』の記事に現れた海賊・海盗/招商局の広利船の強盗/1920年代の中国海賊/海賊を訪ねた日本人/50年代の中国海賊/フィリピン・ダバオ沖の海賊/北ボルネオの日本漁業基地を襲撃した海賊/マニラ湾の海賊 終章 中国史上の海賊 後記
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