厳寒の地で語り継がれてきた異界の物語 日本海の北方に広がる東北アジアには、ツンドラ、ステップ、タイガ、そして海といった多様な自然の中に、多くの狩猟民族が暮らしている。本書は、彼らの間に語り継がれてきた神話・伝説75篇を、民族ごとに三つのグループに分類して紹介し、解説を加える。それらの物語の中で語られるのは、さまざまな神々や悪魔、巨人や人喰いが実在し、クマやトラ、ワタリガラスやシャチといった聖なる動物たちが人間と交感しあう神秘的な世界である。失われつつある狩猟民の文化を知り、自然と人間の関係について思いを馳せることができる一冊。●編著者のことば 遠い昔に語りはじめられたある伝承には、それを生みだした特定の状況があったにちがいない。悪霊や魔物、巨人や人喰いの存在を現実のこととして信じざるを得ないような状況が、狩猟民の世界のどこかにあったにちがいない。……獲物である動物たちは人間とおなじような生活をそれぞれの世界で営んでおり、獣たちも人間の言葉を解するのだと信じていた狩猟民たちは、動物にも聞かせようとして山野のキャンプやタイガの狩小屋で神話や伝承を語った。……何日も吹き続ける風を止めるために「語る」こともあった。狩猟民の世界では、「ことば」は人間だけを相手とする人間どうしのコミュニケーションに限られてはいなかった。(本文より)
●構成 はじめに 1 東北アジアの民族と神話・伝承 シベリアの民族と文化/狩猟民の神話・伝承と語りの意味 2 北東シベリアの神話・伝承 北東シベリアの神話・伝承/創造のはじめの物語・1/創造のはじめの物語・2/ワタリガラス・1/ワタリガラス・2/野ウサギ/玩具の民/娘と頭蓋骨/創造神とミチ/創造神がカラウと闘う/至高神はいかにして雨をつくるか/大ワタリガラスと息子「クマの耳」/大ワタリガラス川をつくる/エメムクトと五つの頭のカマク/イニェアニェウトと霧の男/クッキとミチ/弓をもった少年/大地の創造/シナネフトと仔グマ/チェリクトフとベニテングダケ娘/エメムクトとマロクリナフトとガチョウ/雷と造物神/二人兄弟とワタリガラス/嫁に行きたがらない娘/月の妹/アートルーング/月面物語/人喰い・1/人喰い・2/人喰い・3/ワタリガラス・3/娘と月 3 アムール・サハリン地域の神話・伝承 アムール・サハリン地域の神話・伝承/二羽のシジュウカラ/膣に歯をもつ女たち/アザラシと結婚した女/慈悲深いクマ/火の主を侮辱した男/人間のさだめ/三人の少年/ガシアン村の人々の暮らし/オニンカ氏族はどうして殖えたのか/ワタリガラスになった男/フナとカラス/二人の姉妹/クマ祭/祖先の暮らし/日露戦争のエピソード/三つの太陽・1/クマの妻/三つの日月/ナニ族の起源/「近海のヒト」と「遠海のヒト」/三つの太陽・2/カルガム/山のヒトが少なくなったわけ/ワタリガラスとトビ 4 東シベリアの神話・伝承 東シベリアの神話・伝承/大地の創造/人間の創造/死の起源/シャマン/太陽デリチャ/太陽と月/月と太陽/金属と鉱物の起源/大熊座/創造神アマカ/地下界/ネメロン/ヘラダン/人喰い女チュルグディ/英雄ビョルコリトゥン/頭領ショリンチョー/英雄ソルダヌィ/クマ/月の斑点/カゲナ老人の娘 おわりに 参考文献
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