中国学の今と昔、日本と欧州を俯瞰する! かつて魯迅は「道教を知れば中国のことの大半は分る」と述べた。しかし、江戸時代以来の儒教研究の伝統に縛られたわが国の中国哲学研究は、現在に至るまで儒教、それも儀礼を除く倫理面の研究が中心であった。本書は、日本とヨーロッパにおける、中国学(シノロジー)の研究史と現状に関する論文10篇を収録。東西の研究状況を比較することにより、現実から遊離しがちな日本の中国哲学研究の傾向に警鐘を鳴らすと同時に、道教や養生思想など、これまで異端視されがちだった分野における日欧の先人たちの業績を紹介し、今後の研究方向に示唆を与える。●編著者のことば 若い研究者にお願いしたいのは、文献研究もさることながら、フィールドワークをやっていただきたい、都市だけでなく農村に定点を置いて民衆の生活行動を観測していただきたい、ということである。「風水」という占術が中国には古くからある。日本の哲学研究者のたいていは知らない。……ところが、迷信だと斥けてしまう中国の学者にしても、実は風水の内容をよく知っている。……こうした心情なり実情は、注意深く観察しなければ見過ごしてしまう、理解できない。日本の中国哲学研究者のように、儒学の文献ばかり読んでいたのでは、「身の上」は分っても、「身の下」の実際の生活、心情までは理解が及ばないだろう。(「はじめに」より)
●構成 はじめに 第1部 日本における中国哲学研究の諸相 1.中国哲学研究の回顧と展望―通史を中心として 序論/1 「支那哲学」の勃興―明治30年代より大正初期まで/2 斯文会と支那学社―大正後期より昭和20年代まで/3 戦後の中国哲学研究 2.明治哲学における中国古代論理学の理解―桑木厳翼を中心として 3.道教研究の現況 序論―中国は儒教の国か/道教研究の歩み―平田篤胤から日本道教学会創立まで/近年の道教研究の特徴/展望―現在の動向/附、道教とは何か―その研究の現状 4.道教と科学技術 はじめに/中国文化における科学技術と宗教/中国科学技術史研究の現況/結びにかえて 5.中国古代養生思想研究の現状と課題 はじめに/養生思想の範囲と隣接分野/老荘思想と養生術/道教・仏教と養生説/まとめ 第2部 ヨーロッパにおける中国哲学研究の諸相 1.フランス中国学の近況―哲学・宗教を中心に 2.イギリスの図書館の漢籍収蔵と中国学の発展 英国図書館の概観と機構/大英博物館の漢籍収集と『大英博物館所蔵漢籍目録』の特徴/ヨーロッパにおける漢籍目録/むすび 3.ヨーロッパの図書館の漢籍収蔵状況―ベルリンとパリ 東西ベルリンの国立図書館/パリ国立図書館とコレージュ・ド・フランス図書館 4.M・クーランと『パリ国立図書館所蔵漢籍解題目録』 はじめに/『朝鮮書誌』と『パリ国立図書館所蔵漢籍目録』/モリス・クーランの生涯―中国学とのかかわり/むすび/附、ペリオ収集本リストについて 5.パリの本屋さん―中国書専門店と東洋学関係専門店 おわりに 初出一覧/坂出祥伸略年譜/坂出祥伸著作目録
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