“香港”についての総括的研究論文集 1997年に中国の主権回復が実現することが決まり、植民都市から一国二体制下の特別行政区への移行、50年間の「自治」という前例のない実験を前に、香港が21世紀のアジアにおいてどのような役割を担い、近隣諸国にどのような影響を与えるのか。慶応義塾大学地域研究センターの「香港および香湾問題研究」プロジェクトによる2か年にわたる共同研究の成果をまとめた本書は、政治・経済分野にとどまることなく、ト一夕ルに香港社会を研究する。可児論文は、本書全体の導入として返還合意以前の香潜在住中国人を概観し香港の特性を述べるとともに、付節としてマカオにも触れる。戸張論文は、「香港基本法」、また一国二体制が香港でどの様に受け取られているかを紹介し、その間題点を検証。高橋論文は、香港における家族認識を整理し、離婚・老親扶養などの家族間題を考察。吉原(直)論文は、香港の地域住民組織―街坊の沿革、機能的変容のプロセスを検討し、今後の行く末を考察。吉原(和)論文は、相互扶助と共同利益の増進を主目的として結成された同郷会の事例を紹介し、さらに97年問題との関わりを考察。辻論文は、広東語と英語の二重言語並存の経緯、現状を略述し、言語問題を考察。中間論文は、華人エリート層の出自と形成史を軸に、キリスト教並びに英語教育が香港中国人社会に果たした役割を論究。谷垣論文は、過去3回の区議会選挙を通して香港の政治勢力形成過程を分析。金論文は、清末民初からの香港文学史を概括するとともに、とくに武侠・科学・恋愛などの隆盛極まる通俗文学、映画との関連、広東語の文学、女流作家に触れる。付録として、香港に関する邦文単行書目(1898~1990年、260点)、および邦文雑誌記事論文目録(1917~91年、1,1177点余)を付す。●編著者のことば 香港の内と外から香港およびいわゆる来たるべき97年問題を討議しようとする共通の問題意識は、香港といえば経済、政治を対象としがちな分野の研究としては極めて異色あるものであり、類例のもしなければきわめて少ないものではあるが、このことは国際関係、産業構造、国際経済、金融、投資、情報ネットワーク、運輸・通信などの諸分野をプロジェクトとして意図的に排除しようとするものではなく、研究会開催のつどしかるべき研究家を招くことによって可能な限り補強をはかることが同意されていたのである。(「研究会に関する書留め」より)
●構成 序(山田辰雄) [返還問題] 第1章 歴史としての香港(可児弘明) 1 1967年香港騒動の場合/2 香港をめぐる反英闘争/3 九龍城問題始末/4 むすび/付節 マカオの主権返還 第2章 香港特別行政区基本法と〈一国二制度〉(戸張東夫) 1 はじめに/2 基本法ができるまで/3 〈一国〉と〈二制度〉の対立/4 基本法の概要/5 基本法の検証/6 結びにかえて [社会] 第3章 香港における家族問題に関する一考察―特に〈従来の家族認識〉批判を通して(高橋強) 1 はじめに/2 香港における家族認識/3 香港における家族問題/4 結びにかえて 第4章 街坊―香港における地域住民組織の一存在形態(吉原直樹) 1 はじめに/2 街坊の沿革/3 街坊の組織的構成とリーダーの特性/4 揺れ動く街坊/5 結びにかえて 第5章 香港の区議会選挙分析(谷垣真理子) 1 はじめに/2 区議会の概況/3 過去3回の区議会選挙の動向/4 区議会における民選議員の勢力考察/5 結び 第6章 香港の同郷会と華僑送出村―97年問題とのかかわり(吉原和男) 1 はじめに/2 広東省開平県楼岡―僑郷探訪/3 華僑の楼岡同郷会/4 僑郷と97年問題 [言語・文化・その他] 第7章 香港の言語問題(辻伸久) 1 香港における言語使用の状況/2 香港の言語教育と広東語の発展/3 香港の言語問題と中国 第8章 19世紀香港の華人エリートについて―特にキリスト教ならびに英語教育の果たした役割(中間 和洋) 1 問題の所在/2 教育機関とその類型/3 香港エリート層の出現とその類型/4 結び 第9章 香港文学瞥見(金文京) 1 香港意識と香港文学/2 香港文学は中国文学か?/3 香港文学の歴史/4 香港の通俗文学/5 広東語の文学/6 香港文学と海外/7 香港の女流作家/8 古時敦煌月 今照香江水―〈辺境〉文学の可能性 付録 香港に関する邦文文献目録 1 香港に関する邦文単行書目録/2 香港に関する邦文雑誌記事論文目録 研究会に関する書留め―後書にかえて
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