『詩経』学の新指標
複雑で多様なルーツを持つ『詩経』の作品群はどのように成立し、分類されたのか。 古文字学や音楽考古学などの観点を総合し、当時の『詩経』が儀礼化から世俗化へ、規範化から地方化へと変容した過程を明らかにする。
複雑で多様なルーツを持つ『詩経』の作品群はどのようにして成立し、分類されたのか。 従来の研究方法と一線を画す本書は、『詩経』の成立や名称について超域的な考察を展開。古文字学や訓詁学、音楽考古学など多方面の観点を総合し、当時の『詩経』が儀礼化から世俗化へ、規範化から地方化へと変容した過程を明らかにする。陳致『従礼儀化到世俗化――『詩経』的形成』の日本語訳版であり、巻末に原著にはない『詩経』目録や関連地図、用語解説を収録する。
●著者の言葉
『詩経』の分類とその命名のルーツを検討するため、筆者が採用する多様な科学的方法は、音楽考古学と伝統的な古文字学、訓詁学と文献学を結合させる方法である。筆者は、こうした方法は超域的な研究が持つ『詩経』分類問題に対する潜在力を具体的に説明することになると考える。(「第一章」より)
●構成 日本語版序文 凡例
第一章 研究の現状と研究方法 一、『詩経』のテキストについて 二、研究上の問題点 三、複数の視点による総合的な研究方法 (一)古文字学・言語学的分析 (二)音楽考古学と民族音楽学の視点からの『詩経』研究
第二章 庸・頌・訟(誦)――殷代祭祀の楽器・楽調と礼辞 一、殷周文化の衝突と継承 二、殷文化の優越性およびその周代における存続 三、考古学で発見された楽器から見る殷末期および先周期の音楽文化の違い 四、殷代祭祀楽舞と周初の雅楽の関係 (一)「頌」の伝統的解釈――古文字学からその合理性を分析する (二)「庸」の字源学的検討および古音義学における「頌」との関係 (三)祖先祭祀活動の中の殷代祭祀楽舞――考古および文字資料を根拠に (四)殷代祭祀楽舞の再現 (五)祭祀儀式の中の祝詞――誦(訟) (六)殷代祭祀楽舞の名称およびその周代における変化 五、宗教から現実重視への転換――殷周の際の祭祀楽舞の儀式化
第三章 雅楽の標準化 一、周人の夏人に対する同一視 二、「夏」と「雅」の字源の関係 三、夏楽――最初の雅楽 (一)「夏」と「大夏」 (二)舞夏・夏舞・夔・夒 (三)夏籥あるいは夏龠 (四)九夏――夏楽舞の九つの分節 (五)夏王朝の楽舞の伴奏をした初期の楽器 四、雅楽の構成形式 (一)音楽の象徴的役割および夏楽の儀礼化 (二)雅楽の各部分の内容と役割および『詩経』の篇章との関係 (三)伝世文献から見る雅楽の伴奏楽器 五、考古資料から見た殷周楽器の類似点と相違点 六、文化変容後の殷周音楽に見られる階層的融合――『詩経』における大小「雅」の源
第四章 古文字中の「南」および『詩経』中の「二南」 一、『詩経』における「南」 二、「二南」の名称の由来について (一)方位詞としての「南」 (二)詩の一形体としての「南」 (三)音楽の一形体としての「南」 (四)王朝卿士の称謂および職貢の名としての「南」 三、「南」字の字源 (一)容器あるいは楽器としての「南」 (二)生えたばかりの竹としての「南」――「南」字の字源についての仮説 (三)「南」と「鎛」――江蘇丹徒背山頂編鐘銘文新釈 (四)殷周の楽鐘の類型とその変遷 (五)南方の打楽器としての「南」 四、「周南」と「召南」 (一)周公・召公の封建 (二)二南の地域の問題 (三)南国の境域について (四)「二南」の詩から見た二南の地域 (五)「二南」の詩から見た二南の時代 (六)南方の雅音 五、二南の詩と音楽の分離
第五章 「雅」の地方化――殷代雅楽の復活 一、宗周の崩壊と諸夏観念の出現、および雅楽の地方への拡散 (一)西周から東周への境界における夷夏観念の変遷 (二)春秋期の雅楽観念 二、「風」字の古義とその『詩経』国風における意義 (一)「風」――春秋期の詩歌の名 (二)瞽――周の宮廷楽師 (三)『詩』の編集者としての瞽 三、「国風」の民歌起源説について 四、殷の雅楽の化石化と風詩の普及 (一)邶鄘衛の詩 (二)殷音楽の化石化 (三)鄭衛の音――殷の古楽の復活
第六章 結論
訳者解説(湯浅邦弘)
附録 1.『詩経』関係地図 2.『詩経』目録(通し番号) 3.用語解説
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