蔣介石は、日中間の問題を欧米諸国の動向と結びつけて解決しようとする「国際的解決」戦略を主導した。2006年に公開されたスタンフォード大学フーバー研究所所蔵の「蔣介石日記」や王世杰、徐永昌など中国要人の日記などを利用し、1937年~41年における、蔣介石率いる国民政府の政策決定過程を追うと共に、その時々の蔣介石の内面に迫る。 ●編著者のことば 本書は、1937-41年を対象時期として設定し、蔣介石の「国際的解決」戦略の展開過程と、これを導いていた蔣介石の内面に焦点を絞りつつ、それと密接な相関関係にある日中戦争の深層を相互補完的に探究することを目的とする。(「序論」より)
●構成 はしがき 「蔣介石日記」の価値と本書の意義(宇野重昭) 序論 第1章 「国際的解決」戦略の論理と日中戦争の長期化 一 「国際的解決」戦略の浮上と秩序観の変化 1.第3の道/2.国民政府の秩序観 二 塘沽停戦協定後の対日政策の性格 1.妥協拒否の背景/2.「判断3」に基づく局部的妥協/3.「連外制日」をめぐる対立 三 胡適と王世杰の通信に見る抗日戦のシナリオ 1.「代価ある譲歩案」とその理由/2.「不惜犠牲案」のシナリオ/3.王世杰の返信に見る国民政府の反応 四 蔣介石の独白から読み解く抗日戦決行の理由 1.中国の強硬化/2.蔣介石の独白 五 日本の日中紛争解決策と戦争の長期化 1.日本の自己矛盾/2.解決策をめぐる対立/3.紛争長期化の宿命
第2章 危機と転機、そしてヨーロッパ情勢への対応 一 抗戦初期の危機と蔣介石の動揺 1.危機と悲観/2.蔣介石の動揺と葛藤 二 日米関係の悪化と中国の転機 1.東亜新秩序論とアメリカ/2.中国の転機と分岐 三 ヨーロッパ情勢への懸念と抗戦目標の抑制的設定 1.ヨーロッパ情勢への懸念/2.抗戦目標の抑制的設定 四 ドイツ要因と外交政策の調整 1.日本による南進の脅威の強調/2.対米工作の強化/3.日独伊関係に対する再定義
第3章 独ソ不可侵条約とヨーロッパ戦争開戦をめぐって―日記から見る蔣介石の政策決定過程― 一 独ソ不可侵条約直前の蔣介石の時局認識 1.ヨーロッパ情勢の日中両国への影響について/2.ヨーロッパ情勢への対応について/3.どのような同盟関係が中国にとって有利であるかについて/4.英仏ソの協力関係について/5.日ソ両国の対外政策および相互関係について/6.ヨーロッパ戦争と日ソ戦争の可能性について/7.小括 二 条約締結のソ連側同期をめぐる判断 1.国民政府外交部門の認識/2.蔣介石の認識 三 対独方針をめぐる論争 1.対独宣戦か、中立か/2.蔣介石の思惑/3.困惑と執念 四 挫折後の反省 1.挫折/2.反省
第4章 「二つの同時」論と「世界的規模収拾策」―異なる「国際的解決」戦略の交錯― 一 早期講和論の否定 1.「国際的解決」戦略の再構築/2.胡適:「日中講和の乗り越えられない障碍」/3.内外情勢の変化4.抗日戦継続の決定 二 「二つの同時」論の登場 1.対ソ不信と対米期待の交叉/2.「二つの同時」論と「国際的解決」戦略の深化 三 日本の「世界的規模収拾策」 1.日米通商条約廃棄通告への反発/2.ヨーロッパからのチャンスと「広義の東亜新秩序」論の浮上/3.対米緩和策への反動 四 異曲同工:日中戦争世界化への合流 1.日本なりの「国際的解決」戦略:世界的規模の事変収拾策/2.アメリカの説得と日本の拒否/3.三大方針の確定
第5章 援中ルート閉鎖期間の試練―1940年夏における対独・対日政策の再選択― 一 ヨーロッパの劇変と蔣介石の憂慮 1.劇変到来前後/2.憂慮の背景 二 「日本のみを敵国とする」方針への復帰 1.対独改善論の高まり/2.蔣介石の分析/3.「両全方針」の浮上 三 二つの「一辺倒」を制止する 1.「棄英連独」論の高揚/2.蔣介石による「両全方針」の堅持 四 「講和」の得失をめぐる再検討 1.対日講和:反対から模索へ/2.蔣介石の決定を見るための三つの視角 五 蔣介石の選択を支えた二つの柱 1.日本の政策決定動向への観察/2.独ソ英米相互関係の趨勢への展望/3.小括
第6章 日独伊三国同盟をめぐる多角外交 一 日独伊三国同盟への最初の反応 1.蔣介石の態度/2.徐永昌らの意見 二 「上策」の決定と蔣介石の構想 1.転換点と「暫定方針」/2.下策・中策・上策の比較/3.「上策」の可能性と必要性 三 ソ連要因をめぐる考察 1.ソ連への懸念/2.対ソ思考の結論/3.スターリンの返答を得た前後 四 対英米外交の展開 1.蔣介石と英米大使との談話/2.中英米三国提携方案 五 対日「平等講和」の試み 1.第1段階:「策略講和」/2.第2段階:「本格講和」/3.危惧と期待 六 2カ月後の結末 第7章 独ソ戦争への予測と対処 一 独ソ関係の帰趨についての観察 二 英独戦争の勝敗についての展望 三 「独ソ必戦」論の正と負 四 「日ソ中立条約」誕生前後の光と影 1.「独ソ必戦」論による動揺の克服/2.ソ連を先に参戦させるためにアメリカへ独ソ関係悪化を通告/3.内部への説得と中共への情報リーク 五 独ソ戦争勃発後の思惑 1.歓喜と葛藤/2.「中ソ英米反侵略聯合戦線」論の真意/3.対独国交断絶の動機
第8章 日米交渉期の攻防―日本の対応と蔣介石の反応― 一 国際情勢に左右される日中関係 二 日本の対中目標と「中国問題優先」方針 1.「日米両国諒解案」の規定/2.「5月12日日本対案」の狙い 三 対中条件をめぐる日米対立 1.日汪「新関係」の性格/2.「6月21日アメリカ対案」 四 独ソ戦争勃発後の日本の針路 1.松岡に代弁された「北進」優先論/2.「対南方優先、対北方準備」方針の確定 五 蔣介石の対日誤判と対米英不満 六 「近衛メッセージ」をめぐる摩擦 1.「近衛メッセージ」とアメリカの返答/2.中国側の誤報と「日本屈服」論 七 中国の価値と日本の「最小限度要求」 八 東条英機の心臓論と日本の対米開戦決意 九 中国の反応と日中戦争の世界化 1.「中国問題」と日本の対米開戦/2.日中戦争世界化の要因
終章 蔣介石外交の評価 一 日ソ不可侵条約から日独伊三国同盟に至る期間の「想定外」 二 日本にとっての転換点と単独解決機会の喪失 三 「日本切腹、中国介錯」 四 蔣介石外交の評価と今後の課題
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