「陳情村」の報道で知られるように、中国では各政府機関への陳情によるトラブルが頻発している。いったい中国の陳情とは何か、何が原因でトラブルが生じるのか、今後、陳情は中国社会にどのような影響を与えるのか。本書は、政治学・社会学・法学の専門家がそれぞれの立場から陳情の実態を分析・解説することにより、中国の政治体制や社会構造の特徴の一端を明らかにするものである。 ●編著者のことば 筆者は、中国におけるこのような「陳情現象」がなぜ起こるのか、人々は何を訴えているのか、それは前近代的な直訴や目安箱なのか、それともポストモダンの政治参加なのか、強い興味を抱いた。中国政治分析の格好のテーマだと思ったのである。だが、実際にこの問題を扱ってみるとなかなか厄介で一筋縄ではいかない。問題がきわめて多面的だし、断片的情報やデータが多くなればなるほど本質を掴むことがむずかしくなるのである。(本書「序章」より)
●構成 口絵: ①失地農民の陳情代表達 ②包公像に跪いて陳情文を読み上げる女性 ③地方政治の腐敗を訴え続ける“亡命”村長夫妻 ④あて先のない伸冤状 まえがき(毛里和子) プロローグ:陳情をめぐって ①北京の「陳情村」 ②陳情狩りを代行する民間警備会社 ③西安市の工場従業員による陳情のケース ④土地収用をめぐる陳情から労働矯正まで ⑤陳情フローチャート
序章 陳情政治―圧力型政治体系論から(毛里和子) 第1章 陳情制度改革と憲政の建設―「陳情条例」改正をめぐる論争(于建嶸/松戸庸子訳) 第2章 中国陳情制度の運用メカニズムとその変容(応星/松戸庸子訳) 第3章 政治的権利論からみた陳情(石塚迅) 第4章 陳情への法的視点―制度の沿革及び規定上の問題点(伹見亮) 第5章 労使紛争からみた陳情(御手洗大輔) 第6章 陳情制度をめぐる権利擁護と安定維持の力学(呉茂松) 第7章 退役軍人による陳情(弓野正宏) 第8章 陳情制度のパラドクスと政治社会学的意味(松戸庸子)
2005年制定「陳情条例」(日本語訳:御手洗大輔) 索引
【書評情報】 「「変わる中国」の中の「変わらぬ中国」 「陳情」があらわす中国格差社会」 加藤千洋(同志社大学教授/元朝日新聞社編集委員) 〔『東方』384号〕 「自由と民主主義、命懸けの告発」 上丸洋一(朝日新聞編集委員) 〔朝日新聞 2012年9月16日〕 「扱う論点や事実が多様――増えている「信訪」を分析した9つの文章」 園田茂人(東京大学教授) 〔週刊読書人 2012年10月12日〕
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