台湾における下村湖人 文教官僚から作家へ
上製
張季琳
|
|
出版社:東方書店 |
出版年:2009年03月 |
コード:00675 272p ISBN/ISSN 9784497209047 |
|
|
|
今も読み継がれている自伝的小説『次郎物語』の作者・下村湖人は、作家デビューする前、佐賀中学、唐津中学校長を経て台湾に渡り、台中一中校長、台北高校長を歴任しています。彼の台湾経験がいかなるものであったのか? 著者は『台湾日日新聞』などの史料を渉猟し、台湾人生徒による日本人炊事夫排斥運動に端を発した台中一中ストライキ、その後の台北高ストライキ、2つの事件による挫折感が、帰国後に始まった彼の後半生に深い影響を与えたことを明らかにします。理想とする教育を植民地体制下の台湾では実践することができず、「大いなる道を念じてこの島にわたり来し日を思いつつ淋し」と歌い、「虎人」から「湖人」へと改名する心境にあった湖人は、次郎の故郷と東京郊外を舞台とする『次郎物語』にも〝台湾〟を語ってはいません。しかし、著者は「第四部には、作者の人生の転機となった台北高等学校ストライキ事件およびそのときの人物関係がはっきりと反映している」と言います。戦前日本の台湾植民政策に新たな視点を開く、作家論、作品解説です。 ●編著者のことば 台湾でのさまざまな経験が湖人の後半生にとって、彼の主著『次郎物語』の形成にとってきわめて重要な意味をもっていること、教育者としての湖人が台湾において大きな挫折を味わったこと、そして湖人のとった行動が当時の台湾人から必ずしも肯定的に評価されなかったことをはっきりと指摘しえた点は、ささやかながら本書の成果であろう。(著者「あとがき」より)
●構成 序 植民地台湾における下村湖人──文教官僚の挫折と教養小説作家の誕生(藤井省三) 第一章 下村湖人との出会い 一.台湾から見た下村湖人/二.台湾時代の下村湖人についての諸資料 第二章 九州から台湾へ 一.佐賀中学、唐津中学時代/二.台中赴任のいきさつ/三.田沢義鋪との交友/四.台湾における下村湖人の諸活動 第三章 台中一中ストライキ事件 一.台中一中の由来/二.『台湾日日新報』によるストライキ事件の経過/三.『台湾民報』に見るストライキ事件についての評論/四.張深切と下村校長の対決/五.台湾人生徒による事件の回想/六.ストライキ事件の結末 第四章 台北高等学校ストライキ事件 一.台北高等学校の開設/二.前校長三沢糾のこと/三.下村湖人の校長就任/四.ストライキ事件の経過/五.ストライキ事件責任者の処分/六.下村校長の辞任と離台までの経過/七.ストライキ事件の直接原因/八.台湾人生徒から見た台北高等学校/九.ストライキ事件における下村校長の立場 第五章 台湾時代の下村湖人の短歌 一.歌人としての湖人/二.下村湖人の作歌歴と歌集/三.台湾歌壇と下村湖人/四.台湾時代の下村湖人の短歌作品/五.消えぬいきどおり 第六章 離台後の湖人 一.離台直後の下村湖人/二.下村湖人と改名 第七章 下村湖人の台湾経験と『次郎物語』 一.『次郎物語』第四部/二.下村湖人の教師経験と『次郎物語』第四部 終 章 台湾人にわびたい あとがき
|
■編著者紹介
1961年台湾の高雄生まれ。1984年、中国文化大学(台北)卒業、1988年、論文「六朝志怪における観世音信仰」により東京大学文学修士学位を取得、2000年、論文「台湾プロレタリア文学の誕生」により東京大学文学博士学位を取得。文京女子短期大学(東京)講師などを経て現在は中央研究院中国文哲研究所(台北)助研究員。戦前期台湾の日本語文学、台湾文学を専攻。論文「楊逵と入田春彦──台湾人プロレタリア作家と総督府日本人警察官の交友をめぐって」(2001年第1回日本台湾学会賞受賞作)など。
|
|