近代中国思想の執拗低音 歴史の考え方を振り返る
/台湾漢学研究叢書【最新刊】
上製
王汎森/佐藤仁史 訳
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出版社:東方書店 |
出版年:2025年04月 |
コード:22509 292p ISBN/ISSN 9784497225092 |
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周縁に追いやられた思想を「再訪」する
西洋の学知が到来した19世紀以降に新たに中国の思想文化が構築されていく過程において周縁に追いやられ、「低音」化した保守思想に「説を立てた古人と同一の境地に自分を置く」という形で分け入り、考察していく。復旦大学文史研究院での4回にわたる講演を基に、「附論」2篇を追加収録。中国・西洋・日本の、古代から現代に至る膨大な学術思想を縦横無尽に活用して進められる議論の手助けに、日本語版では人物を中心とした「用語説明」を附す。原題『執拗的低音――一些歴史思考方式的反思』(允晨文化実業公司、2014年)。
台湾人研究者が中国の思想・文学・歴史を紐解く学術専門書シリーズ第二弾。
●著者の言葉
本書が宣揚するのは、陳寅恪がいうところの「説を立てた古人と同一の境地に自分を置く」ことである。これを達成するために私が提唱するのは「足し算」であり、「引き算」ではなく、ましてや退却でもない。すなわち、私は近代以前の古い議論に退却していこうとするのではなく、新史学が固めた基礎を土台として、さらなる探索を追求したい。(略)近代の諸学問の成果に拠ってこそ、私たち現代人が真の意味で「低音」を「再訪」しうることを示したい。もし「低音」を正しく理解したいのであれば、過去へと退却していくのではなく、役に立つ世界のあらゆる学問を用いる必要がある。(「はじめに」より)
●訳者の言葉
必ずしも中国思想史研究を専門としない読者、特に研究者ではない一般読者が歴史を考える上で、本書がどのような気づきを与えうるかについて二点に絞って考えてみたい。
第一は、単線的な歴史思考を乗り越えることの重要性が具体的に示されている点である。筆者が着目しているのは低音化・伏流化した各種の保守思想であるが、これらに分け入って論述したことによって、却って梁啓超らによってもたらされた単線的進化論の影響力が清末以降の中国の隅々に行き渡っていたことを痛感させられる。また、(略)西洋の概念、枠組み、方法を用いて中国を解釈することの影響力の強さを示している。(略)第二は、歴史意識を再考することの重要性を提起していることである。(略)「同時代の感覚」を丁寧に検討して私たちの歴史意識を再考し、危機の時代に役立つ参照資源を歴史から獲得する視野を得ることも本書が投げかける射程の長い問題提起の一つである。(「訳者あとがき」より)
●構成
「台湾漢学研究叢書」刊行の辞(王徳威)
はじめに
一、低音に耳を澄ます
二、時間の序列
三、多元的な資源
第一講 執拗低音――歴史的思考に関する若干の考察
一、事実の再構成と価値の宣揚
二、「学」とは何か
三、「西洋化」の過程
四、「創造的転換」と「消耗的転換」
五、現代学科の設置を改めて考える
(一)経学(二)史学(三)哲学(四)仏教学
六、限定合理性
七、「時間の序列」と「後知恵バイアス」
八、伏流
結論
質疑応答
第二講 「心力」と「破対待」――譚嗣同『仁学』を読む
一、譚嗣同の生涯
二、思想の淵源
三、『治心免病法』から『仁学』へ
(一)『治心免病法』(二)『仁学』(三)エーテル
四、君権の排除と排満
五、清末民国初期における『仁学』の影響
結論にかえて――世界を改造する巨大な力
質疑応答
第三講 王国維の「道徳団体」論及び関連問題
一、殷周変革より説き起こす
二、ドロイゼンの「道徳団体」論
三、観念の旅行
四、矛盾の綱引き――王国維の学問観の変化
五、「道徳団体」―史学と倫理の結合
結論
質疑応答
第四講 「風」――なおざりにされた史学概念
一、劉咸炘の生涯と思想の淵源
二、「風」とは何か
三、史体と「風」
四、宇宙は「網」のごとし
五、「風」と近代新史学
結論
質疑応答
附論一 伝統の非伝統性――章炳麟思想の諸側面
一、「済民」と「扶弱」の要素を再建する
二、「文明」否定という思想の特質
三、伝統の非伝統性から一切を再評価する
附論二 時代への関心と歴史解釈
一、歴史家はいかに実践するか
二、歴史家の時代的任務
おわりに
一、過去の様々な「音調」に耳を傾けること
二、現象や価値を「本質化」せぬこと
参考文献
用語説明
訳者あとがき(佐藤仁史)
人名索引
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■編著者紹介
王汎森(おう はんしん Wang Fan-sen) 1958年生まれ。プリンストン大学で博士号を取得。現在は中央研究院院士。専門は明清・近現代中国の思想史、文化史、学術史、史学史など多岐に渉る。主要著作に、Fu Ssu-nien: A Life in Chinese History and Politics, Cambridge: Cambridge University Press,2000、『中国近代思想与学術的系譜』(〈簡体字版〉石家荘、河北教育出版社、2001年、〈繁体字版〉台北、聯經出版事業公司、2003年)、『権力的毛細管作用――清代的思想、学術与心態』(台北、聯經出版事業公司、2013年)、『歴史是拡充心量之学』(北京、生活・読書・新知三聯書店、2024年)がある。
佐藤仁史(さとう よしふみ) 1971年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(史学)。現在は一橋大学大学院社会学研究科教授、公益財団法人東洋文庫客員研究員。専門は中国近現代史。著書に『近代中国の郷土意識――清末民初江南の在地指導層と地域社会』(研文出版、2013年、第1回井筒俊彦学術賞受賞)、『嘉定県事──14至20世紀初江南地域社会史研究』(共著、広州、広東人民出版社、2014年)、論文にOral History and the Study of Local Social History in China: The Case of the Rural Society in Taihu Lake Basin Area, in Cahiers d'Extrême-Asie,31(2023)がある。
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