○私の実践中国語(9)
 かけことば・しゃれ言葉(2)

 

 

藤本 恒(京都文教大学講師)

 

 

 

 

 

原載:『日中経協ジャーナル』(財団法人日中経済協会)

 この「私の実践中国語(その7)」を読まれた方は、「あれっ、また同じ標題ではないか。」と思われるだろう。確かにその通りで標題は同じである。しかし内容は違う。

 前回書いたうち、三ページにわたる語彙データ部分をちょっと注意して見てもらうとお分かりいただけるのだが、中国語の最初の文字の発音が“A”からはじまって“Q”で終わっている。

 今回の語彙データ部分はやはり三ページあるが、今度は“Q”から始まって最後は“Z”である。即ち“A to Z”でこれでやっとこの“歇后语”に関する私の「雑話」を終わらせていただけることになる。だから、語彙データとしては昨年11月号と本号分を合わせて、この「かけことば・しゃれ言葉」は完結する。

 種明かしになるが、二回にわたる“歇后语”の語彙データの種本は中国で出版された《歇后语小词典》で、その中からビジネスに馴染みのありそうなものを選び出し、私なりに対訳をつけたものである。だから語彙は辞書としての体裁をそなえており、索引に便利なように中国語の発音(ピンインと四声)順に整理し並べられていた。またこの小詞典は表記こそ小詞典とはいうものの、全体で350ページ、8000句もの“歇后语”が網羅されている。前回(その7)の冒頭でさすが中国は言葉の国・文字の国だと私が感嘆したのは、この点にあった。

 ただ、“歇后语”はあくまでも民間で庶民のあいだに口伝えで流通する諧謔・ユーモアであり、特徴として具体的に生き生きとした生活に根ざした表現形態であるだけに毀誉褒貶が明確である。裏をかえせば多くの部分で、日中両国の日常言語の中にいまだに存在している「不快語」「差別語」がふんだんに出てくる。不謹慎かもしれないがこれがまた言葉の中で香辛料の役目を果たしている。

 この種の言葉とは一見関係がないように思えるが、経済発展段階の違いも言語面に大きく影響している。例をあげると農村文化の風俗風習や農業生産にまつわるしゃれ言葉が多い事、太陽暦よりも陰暦、都会よりも地方のものが多いことである。またこれは、両国に共通している事だが、古今の名著よりの引用が多い事であり、これら全体を含めて日中両国には大きな「カルチャー・ギャップ」が存在すると言えるだろう。

 日本人なら名前ぐらいは知っている中国の旧小説『三国志(三国演義)』『紅楼夢』『水滸伝』『西遊記』『金瓶梅』『儒林外史』などに登場する人物名や一節がよく引用されていて、これを知っていないとその可笑しさや使い方は十分理解できない。

 さらにまたワンパターン民族の日本人と多様な文化を持つ中国人の違いをも考えさせられる。所謂「読書人」「士大夫」といわれる階層の人間が好んだ言葉遊びが昨年年末に書いた「唐詩」に代表される詩歌であったのに対し、庶民の楽しみの一つとしてこの“歇后语”を含む種々の熟語・成語が民間で自然発生的に人々の言葉の端々にのぼり、それが現代に伝えられ生き続けていることである。

 唐突なようだが、日中間のビジネスアプローチは、中国側の改革開放政策も預かって、この20年間で目をみはる程拡大深化している。これだけ接触面が広がりまた深まると、従来は起こる事もなく気づきもしなかった摩擦が起こり、違いにも気づく。

 日中間のビジネス理解を促進するために言語面での役割は大きい。今や全く意思疎通ができなかった日中双方が通じ合えるようにするという表層面での初期段階は終わり、言葉の「諸相」ともいうべき慣用から来るニュアンスをも理解して行かなければならない段階に入っている。中国語と言う言語面から中国ビジネスにアプローチを始めた自分に問い掛け、自分がこの面でどれだけの促進作用を果たしただろうかと内心忸怩たるものを感じる。幸いこの20年で中国と日本は「同文同種」であるから何の違いもないのだという日本サイドの初歩的な認識不足は既に払拭されていると思う。違いが分かる事はその違いを克服しようとする行動につながり、次の理解促進段階への第一歩を踏み出す事になる。

 理屈ではなく相手が自分と同質なのだと思い込み、その認識のもとに「親しみを込めて」接触を始める事は初期段階においては大切な事である。少なくとも敵意をもってアプローチするよりはよいことに違いない。しかし、その同質だとの思い込みが間違っていたと知ったとき人はどう感じるだろうか。相手に裏切られたと感じないだろうか。それよりも異質な相手なのだとの認識のもとに付き合い、互いに共通点をさがして行くこと、即ち「求同存異」にこそ真の理解が生まれるのではなかろうか。

 

 
歇后语

 

前文

后文

かけことば ⇒ こころ

牵牛花当喇叭 吹不响 朝顔の花をラッパ変わりに⇒ (ほらを)吹いても鳴らぬ。誰も言う事を聞かない
前脚不离后脚 紧挨(密切) 前足は後ろ足と離れない ⇒ きっちりくっ付いている
前晌栽树,后晌歇凉 没那么快当 朝に木を植えて午後その木陰で涼もうとする ⇒ 早計すぎる
浅碟子盛水 一眼看到底 平らな皿に水を入れる ⇒ 一目で底まで見え見え
浅滩行船 进退两难 浅瀬に船を航行させる ⇒ 前へも後ろへも中々進まぬ
枪子儿卡壳 打不响 弾丸の薬莢が弾倉につまる ⇒ 打てない。事が始まらぬ
枪打出头鸟 第一个先倒霉 最初に頭を出した鳥は撃たれる ⇒ 言い出しっぺは損をする
强盗抓小偷 贼喊捉贼 強盗が泥棒を捕らえる ⇒ 悪人が悪人呼ばわりする
强龙斗猛虎 你死我活(都是好汉) 竜と虎の闘い ⇒ 生きるか死ぬか。両雄並び立たず
强将手下无弱兵 师高弟子强強 将のもとに弱卒なし ⇒ 先生が立派なら弟子も当然
墙里的柱子 光出力,不露面(暗中出力) 壁の中の柱 ⇒ 表に出ずに尽力する(縁の下の力持ち)
巧媳妇 难做无米之炊 巧みで利口な嫁 ⇒ ない袖は振れぬ
俏大姐的发髻 输(梳)得光光的 粋な娘さんの結った髪 ⇒ ぴかぴか(=すってんてん)
青石板上刷石灰 一清(青)二白 青石の板の上に石灰を塗る ⇒ 明々白々。清廉潔白
清水煮豆腐 淡而无味 豆腐の水煮 ⇒ まったく味気なし
清晨吃晌饭 早哩 朝っぱらに昼食をとる ⇒ 早すぎる。慌てるな
晴天打雨伞 多此一举 晴れているのに傘をさす ⇒ 余計なこと。一つ余分
请修锁的补锅 找错人啦 鍵やさんに鍋修理させる ⇒ 見当違い。相手を間違える
请客不做菜 空头人情 客を招いてご馳走しない ⇒ うわべの情。人情の空手形
蚯蚓的孩子 土生土长 ミミズの子供 ⇒ 地元の育ち。泥臭さ十二分
娶了媳妇不要娘 忘恩负义 嫁を貰って母親を捨てる ⇒ 恩知らず
娶媳妇嫁女儿 来一个走一个 嫁をとって娘を嫁にやる ⇒ プラス・マイナスでゼロ
去了咳嗽添了喘 毛病不少 咳はなくなったが喘息がでてきた ⇒ 故障百出。問題ばかり
日里点灯笼 白费蜡 昼間に提灯を点す ⇒ 無駄遣い
绒毛鸭子初下河 一切从头学起 雛のアヒルが始めて川に出る ⇒ すべて始めから学び始める。初心者。新参者
如来心肠弥陀面 一生(身)慈悲 如来の心根、阿弥陀の顔 ⇒ 何事もすべて慈悲の心
如来佛打嚏喷 非同小可 如来のくしゃみ ⇒ ただ事にあらず。由々しき事
如临深渊,如履薄冰 战战兢兢 深淵に赴き、薄氷を踏むが如し ⇒ 戦々恐々。おっかなびっくり
撒手的气球 无牵无挂 手から離れた風船 ⇒ 何の気兼ねもこだわりもない
三分面粉加七分水 十分糊涂 饂飩粉三分に水七分 ⇒ 十分どろどろ(=間抜け)
三伏天的凉风 来的是时候 土用の涼風 ⇒ 待ってました
三九天卖凉粉 不识时务 真冬にところてん売り ⇒ 時世・時節をわきまえぬ
三个臭皮匠 顶个诸葛亮 三人寄れば ⇒ 文殊の知恵
三加二减五 等于零 三プラス二マイナス五 ⇒ 結局はゼロ。もとの木阿弥
三岁娃娃贴对联 不知上下 三才の子供が対の短冊貼り ⇒ 上下の区別もわからない
杀鸡取旦 只顾当前利益 鶏を殺して卵を取り出す ⇒ 目先の利益優先
杀鸡用牛刀 小题大作 鶏料理に牛刀を使う ⇒ 些細なことを大げさに
砂锅捣蒜 一锤子买卖 土鍋で大蒜をたたきつぶす ⇒ 一発勝負の商売
筛子当水桶 漏洞百出 ふるいを水桶にする ⇒ 穴だらけ。手落ちばかり
上天摘星星 异想天开 空に上がって星をとる ⇒ とんでもない考え
上岸的螃蟹 横行霸道 陸に上がった蟹 ⇒ 横暴・横行したい放題
上街不带钱 闲溜(看热闹) 街へ出るのに金持たず ⇒ 暇つぶし。ひやかし
舌头上抹蜜 尽讲甜话 舌に蜜を塗る ⇒ 甘い言葉ばかり話す
蛇吞象 不自量 蛇が象を飲み込む ⇒ 身の程知らず
射人先射马 擒贼先擒王 人を射るには先ず馬を射よ ⇒ 賊を捕らえるにはまず首魁を
什么病开什么方 对症下药 薬の処方は病状による ⇒ 状況に応じて解決法を考慮
什么人说什么话 立场不同,看法不同 人はその人なりの話をする ⇒ 立場が違えば、見方も異なる。十人十色
十八罗汉请观音 客少主人多 十八羅漢が観音さんを招待 ⇒ 客は少なく主人側は大勢
十五的月亮 好圆(缘) 十五夜のお月さん ⇒ とっても丸い(=良縁)
石沉大海 无消息(没回音) 石が海に沈む ⇒ こだま(=返事)なし
拾芝麻丢西瓜 贪小失大 ごまを拾うため西瓜を捨てる ⇒ 小事の為に大事を失う
收生婆说媒 一包到底 産婆さんが仲人口をきく ⇒ とことんすべておまかせ
瘦死的骆驼 比马大 痩せて死んだ駱駝 ⇒ それでも馬より大きい。腐っても鯛
受惊的兔子 东跑西窜 驚きおののいた兎 ⇒ 右往左往駆け回る
摔破的镜子 不能重圆 割れた鏡 ⇒ もとには戻れない
水底捞月 一场空 水底の月をすくおうとする ⇒ すべて空しい。無駄骨折り
水中的鱼,天上的鸟 自由自在水 中の魚、空の鳥 ⇒ 自由自在。勝手気まま
水里煮石头 一辈子熟不了 水で石ころを煮る ⇒ 一生煮上がらぬ(馴染めぬ)
水中月,镜中花 可望不可及 水中の月、鏡の中の花 ⇒ 眺められても手は届かない
顺水推舟 不费力 流れに従い船を押してやる ⇒ 苦労せずにやれる
说书的开了本 言归正传 講釈師が書物を開く ⇒ 閑話休題。本題に戻る
寺庙里的木鱼 任人敲打 お寺の木魚 ⇒ 人々に打たれるまま
松树当柴烧 大材小用 松の木を柴にして燃やす ⇒ 役不足。人材の無駄使い
孙猴子落在如来佛手心里 跳不出去 孫悟空が如来の掌に落ち込む ⇒ 飛び出せない。抜け出せぬ
太阳底下的露水 不长久 お天道様の下の露 ⇒ 長くはない。短命
天上的星星 没法数(数不清) 天上の星 ⇒ 数え切れない。数えられぬ
天下的乌鸦 一般黑 世界中の烏 ⇒ みな黒い。同じ穴の狢
铁饭碗 碰不破 鉄の茶碗 ⇒ 割れることはない
铁树开花 千载难逢(不结果) 鉄の木に花が咲く ⇒ 滅多にないこと。実は結ばぬ
同床异梦 各有一心 同床異夢 ⇒ それぞれに考えあり
兔死狐悲 物伤其类 兎が死んで狐が嘆く ⇒ 同類相憐れむ
挖肉补疮 得不偿失 肉を削って切り傷を埋める ⇒ 差し引きでは損
王奶奶和玉奶奶 只差一点儿 王ばあちゃんと玉ばあちゃん ⇒ ちょっと(一点)違うだけ
网里的鱼,笼里的鸡 跑不了 網の中の魚、籠の中の鶏 ⇒ 逃げられはせぬ
温室里的花朵 没经过风雨 温室の花びら ⇒ 風雨にあったことなし
温度表放进热水里 直线上升 寒暖計を湯につける ⇒ 一気に上昇する
窝里的蚂蜂 不是好惹的(惹不起) 巣の中の雀蜂 ⇒ 下手につつくと大変。触らぬ神に祟りなし
乌鸦飞到雪地上 黑白分明 烏が雪の上に降りる ⇒ 白黒は明白
屋里称皇帝 自尊自贵 家の中での皇帝 ⇒ 一人天下。裸の王様
五十步笑一百步 相差无几 五十歩百歩 ⇒ どっちもどっち
雾里划船 不辨方向 霧の中の船漕ぎ ⇒ 五里霧中。方角の見極めつかぬ
雾中寻路 不知通向何方 霧中での道捜し ⇒ 一体何処へ行くのやら
西施戴花 美上加美 西施が簪をさす ⇒ 錦に花を添える
戏台上谈恋爱 假情假意 舞台でのラブシーン ⇒ わざとらしい
戏台上挨打 不痛不痒 舞台で叩かれる ⇒ 痛くも痒くもなし
夏天的阵雨 来得快,去得快 夏のにわか雨 ⇒ 来るのも急なら去るのも急
橡皮尺子 可长可短 ゴムの物差し ⇒ 長くも短くもなる
小孩拜年 伸手要钱 子供の年賀回り ⇒ お金(お年玉)頂戴
行程千里 始于足下 千里の道 ⇒ 足元から始まる。一歩一歩
胸口挂算盘 心中有数 胸に算盤をかけている ⇒ とくと承知。自信勝算あり
绣花虽好不闻香 美中不足 刺繍花は綺麗だが匂いなし ⇒ 玉に瑕
袖里藏刀 暗地伤人 袖に刀を隠し持つ ⇒ ひそかに人を傷つける
雪花落进大塘里 无影无踪 雪が大池に舞い落ちる ⇒ 影も形もなくなってしまう
雪里埋死马 总会露出马脚来 雪中に死馬を埋める ⇒ いずれ馬脚があらわれるのにきまってる
雪人晒太阳 瞧着消瘦 雪だるまの日向ぼっこ ⇒ 見る見る間に痩せて行く
雪中送炭 正是时候(暖人心) 雪中に炭を贈る ⇒ 時宜を得たはからい。心暖まること
寻着和尚卖梳子 不看对象 和尚さんに櫛を売りつける ⇒ 相手を見なさい
要公鸡下蛋 故意刁难(办不到) 雄鶏に卵を生ませようとする ⇒ 無理難題を吹っかける。できる筈ない
药王爷摆手 救不活了(没治了) 薬の神様が手を振る ⇒ もう助からぬ
鹞子断了线 去而不回 糸の切れた凧 ⇒ 帰っては来ない
一二三五六 没事(四) 1235 ⇒ 事(=四)なし(語呂合せ)
一不做,二不休 干到底 始めたからには手は引けぬ ⇒ 乗りかかった船
以卵击石 自不量力 卵で石を打つ ⇒ 身の程知らず
以眼还眼,以牙还牙 针锋相对 目には目を、歯には歯を ⇒ 真っ向から鋭く対立する
椅子掉了背 不可靠 背もたれがなくなった椅子 ⇒ 寄り掛かれない。頼れない
引狼入室 自惹祸灾(自己害自己) 狼を我が部屋に引き入れる ⇒ 自業自得。自ら招き寄せた災禍
有了馒头想肉吃 得寸进尺 饅頭ありて肉食らいたし ⇒ 欲望に際限なし。つけあがる
又娶媳妇又嫁女 双喜临门 嫁は貰うし娘は嫁入り ⇒ 嬉しいことが一度に二つ
鱼大吃虾,虾大吃鱼 弱肉强食 大きい魚は海老を食べ、海老は大きくなれば魚を食う ⇒ 世の中常に弱肉強食
愚公的房子 开门见山 愚公の家 ⇒ ドアを開ければ山が見える。単刀直入
雨过送伞 谁领你的情(空投人情) 雨上がりに傘を届ける ⇒ 誰も有難がらない。空々しい
雨天浇地 枉费工 雨の日に水やりする ⇒ 無駄骨折り
云南的老虎,蒙古的骆驼 谁也不认识谁 雲南の虎、蒙古の駱駝 ⇒ 会ったことがない。互いに他人
早知如此 悔不当初 事前にこうだと知ってたら ⇒ 後悔先に立たず
丈八的灯台 照见人家,照不见自家 一丈八尺(高い)の灯台 ⇒ 人は照らすが自分の姿は照らさない。灯台もと暗し
只要工夫深 铁杵磨成针 時間をかけて努力さえすれば ⇒ 鉄の杵でも針に研ぎあがる。精神一到何事かならざらん
纸老虎 外强中干(一戳就穿) 張子の虎 ⇒ 見掛け倒し。ちょっと突つけば穴が開く。すぐぼろを出す
纸里包不住火 早晚要露出来 紙で炎は包みきれない ⇒ 早晩露見する
诸葛亮的锦囊 用不完的计 諸葛孔明の知恵袋 ⇒ 計略は無尽蔵
纵虎归山 必有后患 虎を山に帰し自由にする ⇒ 必ず後で災いを招く

原載:『日中経協ジャーナル』(財団法人日中経済協会)

 

 

 

 

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