○商務漢語閑話――ビジネス中国語エッセイ(6)
 ビジネス中国語学習とメカ

 

 

   藤本 恒(京都文教大学講師)

 

 

 

 

 

 「語学の学習でもメカに強くならなければ、これからは不利になる。いや、学習は成り立たない」こんな事を言うと、「藤本さん、あなたは何処かの機器販売企業の代弁者になったのですか」と尋ねられそうである。確かに自分ではこれが親切だと考えることでも、人様の受け止め方は様々で、自己宣伝をしてるのだと受けとられたり、押し付けがましく聞こえたり、「ほおって置いてくれ、要らんお世話だ」と言われることはよく経験する。しかし、中国語の“功欲善其事,必先利其器”という言葉のある事も念頭におき、以下お読み頂きたい。

 語学学習に機器が取り入れられてから数十年経つ。テープ・レコーダーを始めとする視聴覚学習機器や現在のOA機器一切に無縁の時代に中国語を学習した旧人類の私にとり、本来今回この話題を取り上げることはタブーの筈であるが、世の中そうは甘くなくなってしまっている。今や視聴覚教育機器やOA機器は、語学を学ぶ側・教える側両方にとり、互いに切り離すことの出来ない関係にある。言葉を換えれば、経済交流のツールとしての外国語学習のためには、その学習用ツールとしてのOA機器が大きな役割を果たしているということである。

 回顧談になるが、学校教育に視聴覚教育システムが導入されたのは戦後暫く経ってからであった。アメリカ図書館から16ミリの教材用映写機やフイルムが無料で貸し出されて、小中学校でも課外の映画鑑賞会が盛んに催された。外国語大学で教育にテープ・レコーダーが利用されるようになったのは、1950年代の半ば頃からである。書物読解中心に教育され研究を進めてきた教員にとっても、自己のオーラル(Oral)部分の不足を補うには得難い助手になってくれた。私の母校にLL教室が出来たというニュースを聞いたのは、たしか学校卒業後数年経っていた頃のことであった。戦後50年経って日本も国際化し、外国語下手だった日本人も若者中心に全体のレベルは眼を見張らせる長足の進歩を遂げた。

 私が参画している「日本ビジネス中国語学会」の年次セミナーで先日講演した理事メンバーの一人は教材としてCDを使うことのメリットを強調していた。また、最近の教材にはCDが添付されているものも多い。普通、語学学習にというとテープ・レコーダーとテープを想像するが、これは確かに普及しており廉価でもあるが、必要部分の反復練習や頭出しには向かず、音質の劣化もあり、語学練習用としては、今では決して最善のツールとはいえない。小型で携帯用にこだわるなら、ソフトさえ何とかなるのなら、MDがCD同等の役割を果たしてくれる。前述の通り、自分が学ぶ立場であった時代はこの様な便利な文明の利器はまだ世の中に出ていなかったので、経験がない。敢えてOA機器の語学学習における必要性をアピールするとなると、どうしても教える側に立っての発言になってしまう。

 そこで私が現在手元に置いて大層重宝しているものに、中国語の電子辞書がある。語学学習と辞書は切り離せないが、大きな辞書は携帯性に欠ける。今年発売されたこの待望の電子辞書は日中・中日二冊の辞書が一枚の小型CDに入っており、大きさ重さ共に同一辞書書籍版一冊の半分足らずである。この電子辞書は単三乾電池4本で動き、携帯性はもとより、辞書引き(用語検索)機能も抜群で今や私には手放せない便利な道具になっている。唯一の不満はお値段が少々高価なのが“美中不足”である。

 パソコンも同様に語学習得の大切な道具である。最近は、日本語ウインドウズ環境で使える中国語ワープロソフトが幾種類も販売されており、それぞれが販売競争を繰り広げた結果、便利で多くの機能を持つようになっている。私の書いた「中日対照ビジネス文書大全」も書籍とは別に、中国語ワープロソフト付属の文例集として組み込まれ、日中貿易業界で活用されているときく。

 最後に中国事情を日常のものとして身近にとらえ、ビジネス中国語の学習に役立てることの出来るツールとして、テレビとVTRも忘れてはならないものである。NHKのBS1では通信衛星からの外国テレビ番組でCCTVや香港のスターテレビその他が盛んに放映されている。

原載:『日中経協ジャーナル』(財団法人日中経済協会)

 

 

 

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