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香港本屋めぐり 

 

第2回 艺鵠(アイゴッ)
     


トラムの走る軒尼詩道。右が富徳楼

 

●縦に伸びる芸術村「富徳楼」

香港島の湾仔(ワンチャイ)エリア。香港名物2階建路面電車――トラムが走る目抜き通りに、特にこれといった特徴のない古いビルが建っている。富徳楼。この14階に今回紹介する「艺鵠書店」がある。このビル内で2008年に開業し14階に移ったのは2014年だ。
日本では書店がビルのかなり上階にあるというケースは少ないのではないだろうか。そこには香港的な事情がある。家賃だ。これについては連載第1回の中の「香港の書店事情」に詳しい。

1基だけあるエレベーターに乗ると、入り口や壁には様々なポスターなどが貼られている。実は、このビルは通常の商業ビルではなく、今回の書店名でもある「艺鵠(ACO/Art and Culture Outreach)」という民間芸術団体などが運営しているビルであり、多様な芸術家やグループがアトリエなど拠点を構えている。そこで行われるイベントの告知がビルの入り口やエレベーター内に貼られているというわけである。富徳楼は、いわば縦に伸びる「芸術村」だ。

 

 

     
     
     


2人の書店員。左が陸海敏(ミミ)氏。右が連安洋(阿洋)氏

 

●書架よりもテーブル そこに平積みの本が

最上階――14階で降りると、このフロア全体が艺鵠の書店スペースだ。椅子に腰掛け本を読んでいる客もいる。

香港の小さな書店は、所狭しと書架が並んでいるのが通例。しかしこの書店は壁に沿って書架が並んでいるだけで、店舗スペースの大部分はテーブルで占められ、その上に各種の書籍が平積みされている。艺鵠では時折、講座・読書会・演劇、さらにはミニ・コンサートが開催される。テーブルを片付ければ広い空間が誕生するのだ。「本を販売する店」だけではなく、ある種のハブになっているのだ。限られたスペースならではの工夫が凝らされている。

     
   

●選書もこなす書店員

2019年、ある秋の日の午後、書店員の陸海敏(ミミ)氏と連安洋(阿洋)氏に話を伺った。
まず、店頭に並べる本の選択基準について尋ねると「私たちが好きな本です」と、2人ともほぼ間髪を入れずに答えた。書店員の2人が選書に対して大きな裁量を持っている。書店経営者の信頼が伺い知れる。
具体的には、大型書店にはあまり置かれていない本が多いという。たとえば、香港の独立系の小さな出版社が出版したもの。
種類としてはアート関係(書店名に「Art and Culture」とある通り)、そして香港の現状に関する書籍。社会運動、抗議活動。さらにはアナーキズム関連の本。英語の本も並んでいる。
客層は、大学生から40代~50代が主ということだ。そうした中で、独立書店という存在。そしてそこに並んでいる上記のようなタイプの本。それらは今の香港社会でどのような意味を持つだろうか。

●読者との交流

「SNSを通して読者との交流を進めています。その中で、読者がどのような本を求めているかということを知り、私たちがそれを見つけてくるということもあります。これは大型書店にはない機動性かもしれません。読者との結びつきが強いのです」
「最近よく話題になることとして、大型書店の『政治的審査』があります。ですので、独立書店が持つ選択の自由は重要なことでしょう」
「大型書店はスーパーマケットのような場かもしれません。皆が必要としているものを備えている。一方、独立書店は小さな商店に喩えられます。スーパーでは売っていないもの、あるいは皆が必要としているわけではないが、一部の人が求めているものが見つかる場所。社会の発展には、こうした多様な選択が大切ではないでしょうか」

 


書店内の様子。右下は講座の模様

 
     


黄勤帯氏『fukushima』

 

●社会運動と書店

ビルの下のトラムが走る道、軒尼詩道(ヘネシー・ロード)。香港の、いわゆる平和的なデモ行進のコースだ。2019年の初夏、100万人、200万人のデモが行われた時、この道は人波で埋まった。こうした大規模な社会運動は様々な分野のビジネスに影響を与えている。この書店はどうだろうか。

「2019年6月、大きな抗議活動が始まってから、逆に売り上げは伸びました。多くの人が、新しい考え方、別の視点からの物の見方を探しているからではないでしょうか。本から何かのインスピレーションを得たい、と。社会全体が“本”を求めているように感じられました」
「まさにデモ行進が行われている時に、その途中にここに上がってきて本を買っていく人もいます。あるいは行進の始まる前、終わった後に、椅子に座って本を読み、休んでいく人もいました」

艺鵠は書店であるだけではなく、出版社の側面も持っている。ミミと阿澤は店頭での販売の他に編集・出版も担当している。多忙だ。

●ミミと阿洋のお勧め

テーブルと書架に並んでいる本の中から、2人のお勧めを尋ねた。
まず、「本」ではないが写真集だ。いや「写真カード集」と言うべきか。香港のベテラン報道写真家・黄勤帯氏の『fukushima』(出版社:麻雀製作)。これは黄氏が311(東日本大震災)後の福島をインスタント・フィルムで撮ったもの。小さな箱に108点の写真が収められている。地震発生当時、黄氏と夫人は秋田で暮らしていた。夫人が秋田の大学で教鞭を執っていたのだ。報道写真家である黄氏は、もちろん安全を確認しながら被災地に駆けつけ撮影したそうだ。

もう1冊は『老爹媽思廚』(Yeung Yang編。出版社:MCCM Creations)。第二次世界大戦前に中国大陸から香港に移民してきた人々――現おじいさん・おばあさんに取材し、その手作り料理を軸に、香港での暮らしを綴ったものだ。香港人の生活の貴重な記録ともなっている。

結びに、書店名の『艺鵠』という表記について。香港で使用されている繁体字では「藝鵠」となるところ、「藝」ではなくなぜ簡体字の「艺」を使っているのか。「艺」が白鳥のように見えて、二文字の組み合わせが美しいから、という答えが返ってきた。

     
     
     


『老爹媽思廚』  

 

▼今回訪ねた書店

艺鵠
灣仔軒尼詩道365號富德樓14樓
14/F., Foo Tak Building, 265 Hennessy Road, Wanchai
Website:https://www.aco.hk
FaceBook:https://www.facebook.com/ArtandCultureOutreach/

▼紹介した書籍のデータ

『fukushima』
作者・撮影:黃勤帯
編集:黎加路
デザイン:區德誠
出版社:麻雀製作
サイズ:88mm x 108m
内容:108枚のPolaroid写真の原寸大印刷
発行数:350
ISBN:978-988-77937-0-0

『老爹媽思廚』
編者:Yeung Yang
出版社:MCCM Creations
サイズ:168mm x 240mm
ページ数:284
ISBN:9789881858399

 

 

     
     
 

 

写真:大久保健・和泉日実子

▼筆者プロフィール
大久保健(おおくぼ・たけし)
1959年北海道生まれ。香港中文大学日本学及び日本語教育学修士課程終了。
深圳・香港での企業内翻訳業務を経て、フリーランスの翻訳者。
日本語読者に紹介するべき良書はないかと香港の地元書籍に目配。

     

 

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