日本ビジネス中国語学会 第14回公開公演・シンポジウム

 

 

ビジネス中国語授業の経験

 

 

 

 

 

 関西外国語大学教授 戸毛敏美

 

 

ビジネス中国語を巡る社会環境

  これまで35年間日中経済貿易交流に従事してきて、外から大学を見てきた。そこで感じた事は、語学とは理屈ではなく、一つの技能であり、交流の極めて重要な手段であるのに、日本では技能としての語学教育・訓練が少ないのではと感じてきた。

  一方企業側は従来の「入社してから教育する」から、余裕がなくなり即戦力を要求している。学生側の事情は、4回生になると就職活動で殆ど授業に出られない。つまり集中して勉強できるのは3年間である。しかも就職難の厳しい環境の中でも、語学を生かせる商社で勤務したい学生が増えている。

  そこから以下の条件下での効果的な学習方法を進めようと試みて、昨年のビジネス中国語検定試験では、割合よい成績を上げる事ができた。

与えられている条件:

  • 週一回90分授業のゼミクラス(三回生)対象
     学則では90分授業に対しては3~4時間の課外学習で4単位を与えると規定。
  • 一クラス35人
     中国語レベルにかなり開きがある(三分の一は短大編入生)
  • 女子学生が多く、一般事務職に就職希望

履修者への要求:

  1)中国語Ⅰ(週二回)と中国語Ⅱ(週一回)を履修済みの者を対象とする。

  2)中国語Ⅲ(週一回)を平行して受講すること。

  3)商業英語・商業英語研究等を履修済みまたは履修する事。

  4)12月のビジネス中国語検定試験合格を目標にする。

  実際授業をして感じた事は、日本語の誤字が多いし、語尾が「です/ます」調と「ある/ない」調が混合され、敬語の使い方もアンバランスで、カナ文字が多く漢字の使用頻度が少ない。従って、かなりビジネス日本語文の習得に力点を置いている。

教材の選定:

 幸い履修者は殆ど漢字をきれいに書く学生である。つまり漢字に興味のある学生が多い。これは日本人がビジネス中国語を履修する上での有利な点である。この利点を存分に発揮する教授方法を考えた。

  教材は『ビジネス中国語マニュアル』を参考に実際使用されているビジネス文や、時事ニュース文を採用。会話だけでなく、ビジネス中国語文を平行して学べるように教材も工夫した。 

  一昨年は中文日訳と日文中訳を同時にした所、十分ビジネス中国語を習得していないと、目茶苦茶な中国語になった。そこで昨年度は、先ず最初ビジネス中国語の習得に集中し、十分に中国語を習得して、後期の後半になってから、日文からの翻訳をした。その結果ビジネス中国語訳文らしく翻訳できるようになり、効果を挙げる事ができた。

  また、テープに吹き込み音声教材として配布し、各人が課外で十分練習した上で授業にでるよう要求している。

教授方法での工夫:

  週一回90分しかないので、授業でしか出来ない事にのみ集中し、かなりの部分は課外でさせている。例えば授業時間ではかなりの時間を割いて、中文を朗読(領読・斉読・暗誦)や間違い安い点の説明をする。少走湾路・多走捷路という考えで進める。

  先ず、全文簡体字を清書させ、それにピンイン・声調を付け、下に日本語の訳文をつけさせ、提出させている。それを私が点検・添削し、次回の授業で個々人に返却し、共通した問題点を説明したり、長文分析をしたりしてそれぞれ自分の訳文を「点検」させる。

それを毎回「書き取り」「翻訳」をさせて、しっかり正しく覚えているかどうかを点検し、覚えるよう仕向けている。

  最初の授業では、先ず「翻訳の心得」を配布した。その要旨は下記の通り。

 1)すぐ翻訳にかからず、先ず全文を読み、ビジネスのどの場での会話或は往来文なのかを確認する。何故・どうして等絶えず疑問を持って読むよう指導している。

 2)全文に目を通してから、不明な単語・表現を書き出し辞書を引く。この時複数の訳語があるので、どれが最適かをよく考えて選択したら、基本は全文通して統一使用する。

 3)関連する日本語のビジネス文を出来るだけ沢山読む。「これから翻訳するという時に関連した文章を読むと、通常では得られない新発見や感動があるから」と強調。

 4)翻訳に当たっては「字面だけで訳すな!」と強調。「得其意・忘其形」「簡潔して要を得る」をモットーにするよう要求。つまり特に同じ漢字を使用しているので、原文に引きずられやすいのを防止し、日本語らしく訳するよう奨励。

 5)不明な点は研究室へ質問に来るよう奨励。それは短い文でも一つ翻訳する事によって多くの情報を収集するよう指導している。 

 6)翻訳後は必ず声を出して訳文を朗読するよう指導。声を出す事により、特に日本文の不具合は発見しやすいので、これを奨励している。

 

  例えば「好久没见,甚念」も字面だけですると「お久し振り」と訳しやすいが、後ろの「甚念」を見落とさず、この文はまだ会っていず、懐かしく思っている場合だから「久しくお目に掛かっておりませんが」と訳するとか。「补偿贸易」「延期付款」も質問に来ず、字面だけで「補償貿易」「延べ払い」と訳した人は、授業で何故こんな方式が必要なのかを質問し、答えられないと叱られる。「发票总金额的110%投保」も「卖方一定要通过卖方同意的银行开立信用证」も何故110%なのか? 何故売手の同意した銀行と要求する必要があるのか? など質問する。「不客气」も通常は相手の謝礼言葉に使う場合は「どう致しまして」と訳するが、だが相手がどうぞ宜しくに対して使用される場合は「こちらこそ」の訳になるので注意を促す等、考え、疑問をもつよう仕向けている。

  二三ケ月もすると、レベルも揃ってくるので更に厳しく要求している。

  問題は前期一所懸命努力した学生が夏休みにがったっと学力が落ちる事である。そこで全員に中国語Ⅰから学んだ中国語を全部五十音順に整理して自分の辞書を作成させ、提出する事を要求している。全員の辞書を点検するのは大変であるが効果は良い。前期学んだ物も、中国語からは出てこないが、日本語で何を学んだかは思い出せるので、日本語からすぐ引ける自分の辞書作りは、後期の授業を進める上で有効である。また自分の学習成果が目で確認でき、喜びを感じられるし、また辞書作成の過程で毎日繰り返し単語を見るので、一層強く記憶にも残るようである。私は中国語Ⅰの学生から自分の辞書作りを要求しているが、これをすることによって、夏休み・冬休みの落ち込み防止効果が上がっているし、学生にも好評である。

  まだビジネス中国語の授業を開始してから経験も浅く、まだまだ改善する必要を感じている。ビジネス中国語検定試験合格で就職できた学生が大勢いるので、今後もできるだけ努力したいと思っている。

  また、今年は主に4回生を対象とした二級合格目標の学習を強化した。毎週一回図書館のグループ学習室を利用して、中国の政治・経済・貿易分野の文章を学習するため、午後1:00から2~3時間の特別訓練をして、一人でも多くの二級合格者を増やそうと考えて授業を進めている。

 

 

 

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