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日本ビジネス中国語学会 第14回公開公演・シンポジウム |
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「中国(北京・上海)でのエレベータ・エスカレータ事業推進に関わる実践経験」についての報告 |
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千手友昭 |
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前置き:私は長年来勤務したエレベータメーカーのフジテック株式会社を昨年末に定年で退職し,今年1月から再就職先である精密機械メーカーの日本ピラー工業株式会社に勤務しております。私の自宅が千葉にある関係で,今年1月から現職の大阪本社勤務の為,現在大阪に単身赴任中です。そして今,同社の中国事業推進の業務に従事しています。 日本ビジネス中国語学会の存在は前職の東京支社勤務中に知っておりましたが,最近大阪での私の母校である大阪外国語大学新学長(新学長の是永先生は私の本学同期生)就任祝賀会に出席する機会がありまして,その時に出席されていた本学先輩の待場先生から本学会への参加をお勧め頂き,本学会会長の藤本先生が私の貿易商社(蝶理株式会社)勤務時の上司であった縁もありまして,此の程本学会に入会させて頂きました。そして又同時に,藤本先生から本学会総会の公開講演会・シンポジウムで私の中国ビジネス体験を何か話しするようにご要請がありまして,最近の私の中国ビジネス体験の実践論として,中国の北京・上海駐在時のエレベータ・エスカレータ事業推進に関わる実践経験について,本日ここでお話しさせて頂くことになった次第です。 それでは,これから皆様のお手元に配布されているレジュメに基づき順次お話しさせて頂きます。
1.報告者の中国貿易及び中国でのエレベータ・エスカレータ事業との関わり:私の経歴と業務経験は皆様のお手元に配布されているレジュメ通りでして,これまで約37年間,一貫して中国ビジネスと関わりまして,貿易と事業推進を通じて,ビジネス中国語にも常時接してきました。 私の中国語と中国研究との関わりは,1962年大阪外国語大学中国語学科に入学し,元学長の金子先生と元学長で本学会初代会長の伊地智先生他諸先生のご指導を受けながら,中国語と中国の政治・経済・歴史・文化等を学んだのが始まりです。 1966年大学卒業後は,貿易商社の蝶理株式会社に就職し,当時会社の中国貿易の責任者であった本学会会長の藤本先生から中国貿易と中国語のご指導を頂きながら,日中友好商社の一員として日中友好貿易に従事することになりました。当時は未だ、日中間の国交がなくて,中国の文化大革命の最中での貿易が10数年間細々と続きました。 その後,1980年代半ば,中国が改革開放政策による市場経済の発展途上時に,エレベータ専業メーカーのフジテック株式会社に転職し,中国向けエレベータ・エスカレータの中国向け輸出営業と中国事業推進に従事することになりました。そして昨年末までの約18年間の大半を,中国の北京と上海に駐在して,エレベータ・エスカレータの輸出促進と契約履行並びに合弁事業の推進に従事しました。 中国は1990年代以降に経済全体が急速に発展してきましたが,エレベータ・エスカレータ業界も同様に発展し,今まさに「世界の工場」であり,同時に「世界の市場」になりつつあります。この時期に,私自身はエレベータメーカーの中国駐在代表として,北京と上海で駐在員事務所を運営しながら,北京でエレベータ製造・販売の合弁会社の設立・運営に関わり,又次に上海でエスカレータ製造・販売の合弁会社の設立にも関わりました。この間,北京で当時中国最大のプロジェクトであった中国国際貿易センターのエレベータ・エスカレータの商談、契約及び契約履行に一貫して加わり,建設工事現場のプロジェクトマネージャーも兼務して,現場での多数のエレベータ・エスカレータ据付工事の施工管理業務にも加わりました。 では次に,エレベータ業界の実情、市場動向、取引実務及び業界用語(中国語)の紹介を中国ビジネスの第一線で体験した実践論として披露させて頂きます。
2.中国エレベータ業界の歴史と現状:中国におけるエレベータの歴史は,第二次大戦前の上海で,米国オーチス社とスイスのシンドラー社のエレベータがキャセイホテル(現在の和平飯店)等のホテル、オフィス等に設置されたのが始まりであり,戦後の新中国でもこの2社の技術を受け継いだ国営のエレベータ工場が上海、北京、天津等の大都市で発足して,国産製品の生産がスタートしました。そしてその後,1980年代の改革開放政策による外資導入で,世界の先進二大エレベータメーカーである米国オーチス社とスイスのシンドラー社が上海、北京、天津でそれぞれの地場の国営エレベータ工場と合弁会社を設立して,本格的生産に入りました。 1990年代に入って,日本の三菱電機、日立製作所、東芝、フジテックの大手エレベータメーカー4社が上海、広州、沈陽、河北省で相次いで合弁会社を設立し,生産量が大きく増えました。同時に欧州、韓国、台湾、マレーシアのその他多くの中堅エレベータメーカーの参入もあって,世界最大の生産国となりました。 中国のエレベータ・エスカレータ業の主管官庁は,中央では建設部と労働保障部(元の労働部)であり,地方の省・市では建設委員会と労働保障局(或は労働保障庁)がエレベータ業の生産認可(生産許可証の発行)や据付工事、メンテナンス業務の認可、検査等を行っています。関係団体としては,中央に中国建設機械総公司と中国エレベータ協会があり,地方の省・市にもその分公司と地方のエレベータ協会があり,それぞれのレベルで業界のとりまとめをしています。 中国のエレベータ・エスカレータメーカーは,元々大型・中小型の国営工場が全国各地に大中小合わせて約200社位ありましたが,1980年代以降,外資導入による外国メーカーの進出で,外国企業との合弁や提携での再編成や整理・淘汰等があり,約100社位に減りまして,現在は上海、北京、天津、広州、河北省等にある欧米系と日系の前述6社に次いで中国に進出してきたフィンランドのコネー社(江蘇省)とドイツのテイツセン社(広東省と山東省)の2社を加えた世界のエレベータ大手8社が中国でもエレベータ大手8社となっています。 このエレベータ業の大手8社は全国の主要大都市に支店(分公司)や営業所(弁事処)を数多く設置して,販売や据付工事、アフターサービス(メンテナンス)を直接行うと共に,全国各地の販売代理店、協力業者(据付業者、メンテナンス業者及び原材料・部品の外注業者)と提携して全国展開を図っています。
3.中国のエレベータ・エスカレータの市場動向:エレベータの需要については,1950年代から1970年代はオフィス、ホテル、住宅等いずれもエレベータを必要とする高層ビルが少なく,当時比較的多かった政府機関や国営企業のオフィスビルや職員用住宅等も多くがエレベータを設置しない5階から6階・7階建てであり,計画経済下での国営エレベータ工場が製造する国産エレベータの供給があるだけでした。その後,1980年代から1990年代にかけての改革開放政策による市場経済下での外資導入に伴う経済発展で,大都市でのオフィス、ホテル、住宅等の高層ビルが急速に増えまして,エレベータの需要が急増してきました。 エスカレータの需要も,同時期に大都市の百貨店やショッピングセンター・スーパーマーケット及び空港・汽車の駅・地下鉄の駅等が競ってエスカレータを設置するようになり,エレベータの需要増と同様に急増しました。 この為,同時期に中国へ進出してきた前述の外資系エレベータメーカー各社とも増産体制で需要増に対応し,需要・供給共に大幅に増えました。 2000年代に入ってのエレベータ需要も高層住宅向けが引続き旺盛であり,エレベータ・エスカレータ全体の生産量・販売量ともにすでに日本を抜いて,エレベータ先進国の米国に迫るエレベータ大国になっておりまして,あと一・二年で米国を抜いて,世界のトップになると見られています。更に又,来る2008年の北京オリンピックと2010年の上海万国博覧会に向けての北京、上海等の大都市での高層ビル建設の需要は更に増えつづけると思われます。そして又,中国ではビルの高層化が益々進んでいます。通常,オフィスや住宅等の高層ビルでは,20階建て以上のビルを高層ビルと称し,40階建て以上のビルを超高層ビルと称しますが,中国の大都市では30階建て以上の住宅ビルや40階建て以上のオフィスビルが増えつつあります。特に上海の市街地では,30階建て以上の高層ビルが多数林立しており,中には40階建て以上の超高層ビルや88階建ての超超高層ビルもあり,更には数年後に100階建ての世界一高い超超高層ビルの登場も計画されており,世界で高層ビルや超高層ビルが最も集中して林立しているニューヨークや香港に迫っています。これは中国経済全体の勢いを示すシンボルとも言えます。上海を中心とする華東地区には,エレベータ・エスカレータのメーカーとその部品メーカーが数多くありまして,この中国最大のマーケットで激しい競争を展開しています。まさに「上海を制する者は世界を制する」といった感があります。 エレベータの主要ユーザーとしては,政府機関のオフィスビル、民間のオフィスビル、政府機関の住宅、民間の住宅、ホテル、百貨店、工場、病院等があります。又,エスカレータの主要ユーザーとしては,百貨店、ショッピングセンター、スーパーマーケット、国際会議・展示センター、空港、汽車の駅、地下鉄の駅、レストラン等があります。これらのオーナーとしては,政府機関、外資系企業を含む民間会社及び住宅開発を主とするデベロッパー等があります。 中国全国でのエレベータ・エスカレータの生産・販売シェアーは,前述の外資系大手8社の寡占状態になっておりますが,この外資系大手8社はいずれも中国企業 との合弁会社であり,各社とも外国からの技術移転を進めることで,製品の品質・性能共に先進国レベルにかなり近づいてきています。しかし,超高速エレベータや展望用エレベータ及びダブルデッキエレベータ等の高級且つ特殊なエレベータは未だ外国からの輸入品が使われておりまして,今後の更なる技術力向上が望まれています。 中国国内のエレベータ・エスカレータ市場の拡大と需要増に伴い,メーカー間の販売競争も激しくなっており,前述の外資系大手8社の寡占状態が更に強化される と共に,その他中堅・中小メーカーの整理・淘汰を伴う業界の再編成が進んでいくと思われます。
4.中国でのエレベータ・エスカレータの取引実務:中国でのエレベータ・エスカレータ業の取引実務は,中国の輸入販売、国内販売ともにプラント業と建設業の取引実務に類似しており,一般の機械・電気メーカーの取引実務とはかなり異なります。エレベータ・エスカレータともに数多くの電子・電気・機械の部品及び資材の集合体であり,これらの主要部品を自社の工場で製造すると共に,その他部品と資材類を外注で調達し,取りまとめて一括で出荷して,納入先の建設現場に搬入します。建設現場に搬入された部品・資材類をエレベータ・エスカレータの設置場所で組立ながら据付けます。据付工事は建築工事との取りあいがあり,建築工事の進捗に合わせて進められ,エレベータは設置箇所(昇降路と機械室)完成後の据付となります。エスカレータの据付工事は比較的簡単ですが,エレベータの据付工事は複雑で多岐に亘っており,多くの労力と時間及び技術力を要します。据付工事完成後,監督官庁の検査を受けて合格後に施主(オーナー)への引渡しができます。引渡し後は,契約に基づく1年間の機器の品質保証とフリーメンテナンス(無償のメンテナンス実施)を経て,施主と有償のメンテナンス契約を結んで,定期的且つ継続的なメンテナンスと必要な部品取替えを有償で行います。 中国の施主は,元々このメンテナンス業務に対する認識と評価が十分ではなく,エレベータ・エスカレータを長期間スムーズに使う為の予防的な定期点検や必要な 部品交換に金を出すのを渋る傾向があり,トラブルや部品の損傷等が続出して初めてその必要性を認識することになります。このメンテナンス契約を軽視して,必要な部品の交換にも応じないことが,運行上のトラブル発生や部品の損傷等の原因ともなり,機器の寿命にも影響を及ぼすことになります。従い,エレベータメーカーは,施主側にこのメンテナンス契約の重要性をアピールしながら,合理的で適格な費用の負担を求めると共に,必要な部品の交換を継続的に行うことで,長期間の安全で且つスムーズな使用を保証しています。 取引実務の大きな流れは,お手元のレジュメに記載している通りですが,以下簡単にご説明します。まずはユーザー筋へ広範に宣伝すると共に,個別の客先に詳しい紹介を行い(中国語では“簡介”〈簡単な紹介〉と言いますが・・・),客先からの個別の引合を待っての商談となるか,或は公開の入札案内に応じての商談となるか,いずれの場合も少なくとも3社以上の競争(“貨比三家”)になります。公開入札の場合は,少なくとも7~8社,多ければ10数社にもなり,価格、品質、性能、技術力、アフターサービス(メンテナンス)、知名度(“品牌”)等の各方面から比較検討(審査)されて,最終的に2~3社に絞りこまれます。そして,受注(落札)できれば,契約調印となります。 契約の履行段階では,まずエレベータメーカーの設計部門で契約に基づく詳細な図面を作成し,客先の審査・確認後,次に生産部門で主要部品の製造を行うと共に,調達部門で外注の部品や資材類を調達します。主要部品の自社生産完成と外注品の調達完了後に一括で出荷し,客先の建設現場(エレベータ・エスカレータの設置場所)に搬入します。そして,前述の据付工事の施工と引渡し後のメンテナンス実施となります。
5.中国のエレベータ業界及び其の取引実務で普遍的に使用されている主な専門用語:お手元の専門用語一覧表は,本日の報告内容に基づいて,普遍的且つ代表的な業界用語を含む専門用語を日中対訳で分野毎にまとめてみました。日中対訳を比較してご覧頂ければおわかりになると思いますが,日本の業界用語は英語を主とする外来語の発音をそのままカタカナで表示している(例えば“コンピュータ”)のに対し,中国の業界用語は外来語の意味を表示する中国語になっている(例えば“電脳”)のが大きな違いです。 そしてもう一つの特徴は,四字の成句を二字に短縮して使われることが少なからずあることです。(例えばメンテナンスの“維修保養”を“維保”と短縮したり,商品検査の“商品検験”を“商検”と短縮しています。) 中国のエレベータ業界用語の統一を図る為の一貫として,中国エレベータ協会の編纂による「日中エレベータ用語辞典」も発行されていて,日中両国関係者の間で広く使用されています。 それでは最後に,以下お手元のレジュメに添付の業界専門用語一覧表に記載の日中対訳を簡単に解説させて頂きます。
以上
エレベータ業界の関係機関
エレベータ市場
エレベータ・エスカレータの取引実務
エレベ―タ
エスカレータ
以上
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