○私の実践中国語(14)
 漢字の説明をする――偏と旁 その2

 

 

   藤本 恒(京都文教大学講師)

 

 

 

 

 

原載:『日中経協ジャーナル』(財団法人日中経済協会)

 4月号では中国の友人と電話や会話で互いに漢字を説明するときの手段としての「偏」や「旁」について私の身近な経験に基づく小話をご披露した。この様な話題を提供できるのも日中間の言語標記、すなわち文字が中国によって日本に提供され、それ以来長年にわたって同じであったからである。

 しかし、この同文が今では必ずしも同文と言えなくなっていることは、私も今までから機会のあるごとにそれに関する話題を提供してきたし、世間でも日中の文字論議の中で盛んに喧伝されている通りである。

 私たちは、その職業・生活態度の違いはあっても文字とは一日たりとも無縁ではいられない文字文化の国「日本」に生活している。朝起きて新聞に目を通し、通勤途上で満員電車の車内広告を目にし、事務所では書類に目を通し、あるいはその書類の作成に精を出す。パソコンやワープロを駆使することは今や普通のデスク・ワークに欠かせない。漢字仮名まじりの日本語の文書作りにせよ、漢字ばかりの中国語文書を書くにせよ、すべての必要な漢字を辞書を引くことなしに書ける人は普通そう多くないはずだ。逆説的になるが漢字を多く知っている人ほど、かえってよく辞書を引いて正確に書くことや最適な用語を探す事が多いのではなかろうか。ワープロ・パソコンの浸透は手書き文書の作成に際してはもとより、仮名漢字転換で候補文字が多く出てきた際にも、辞書で用例を確認するなど、かえって頻繁に辞書を引く必要を感じさせる。パソコンの仮名漢字転換機能を辞書代わりに使っている人も多い。

 パソコンを辞書代わりに使う場合、読み方を知っていれば、日本語・中国語の両方とも、仮名またはピンインの入力で事ははこぶ。問題は読み方を知らない場合どうするかだ。学校を卒業してすぐ、当時の就職事情もあり、また中国語のブラッシュアップのためにと考えて入った神戸の華僑学校で、知らない漢字の検字法には「部首検字法」が唯一無二で「偏」と「旁」で調べるのが当たり前だと考えていた私は、中国には“四角号码检字法”なる別の漢字の調べ方があることを知り、その効率のよさに衝撃を受けた。同僚になった中国人の先生方(多くは戦前・戦中に来日されていた)がこの検字法の中国語辞書を持っておられ、ごく簡単に目当ての文字を検索されていたことである。この方法は“王云五”が発明したもので、漢字がその特徴とする“方块字”(四角な固まりの文字)であることをうまくとらえて、漢字の四隅の形状を四桁の“号码”(数字)として読みとり、さらに右下角上部の筆形を数字化し、合計五桁の「数字グループ」に属する漢字をひとまとめにした辞書であった。読みや意味の分からない漢字の四辺をパッと読みとり、直ちにその五桁数字をもとに目的の文字を探し当てるそのスピードに、まず「偏」あるいは「旁」のページを調べさらに合計で何画あるかで必要な文字のある場所に辿り着くしかなかった私にとって、それは驚異的な検字法であった。さしずめ、音声集約による「仮名漢字検字法」、「ピンイン検字法」と同様の手法で、形態集約型検字法とでも呼べば理解しやすいと思うが、「偏旁検字法」に比べて飛躍的にスピード感のある今の時代にマッチした検字方法であった。

 日本語の場合、仮名が国語辞典で文字を調べるのに便利であり、中国語ではピンインが同様の便宜を提供してくれているが、音声ではなく形状から漢字を索引する方法について、日本は中国から“偏旁查字法”を導入しただけで、その後の“四角号码检字法”を含む他のいくつかの方法は導入することはなかった。

 文字自体も日本は1949年に独自の略字「当用漢字字体表」を制定し、中国はこれより遅れて1956年“汉字简化方案”を公布している。この結果、日中共通だった漢字が離ればなれになってしまい共通ではなくなった。偏と旁だけをとってみても日本語辞書には残っているが、中国語の“汉语词典”にはないものが多くある。とは言うものの「偏旁検字法」は伝統的日中共通の漢字検索手段であり、検字に多少の時間はかかっても漢字を考えるのにもってこいのものである。四月号で掲載できなかった日中偏旁の読み方後半分を以下に掲げておく。

 

 

 

漢字の偏と旁(その2)

日文呼称

偏と旁

中文呼称

ピンイン

文字例

たま

玉字 yù zì 玉玩璧
おうへん

斜玉旁 xié yù páng  王珊玻
よこめ/あみがしら

四字头儿扁四字 sì zì tóurbiǎn sì zì 罗罢罪
さら

皿字底儿皿墩儿 mǐn zì dǐrmǐndūnr 盂益盔
かねへん

金字旁儿 jīn zì pángr 钢钦铃
のぎへん

禾木旁儿 hémùpángr 和秋种
はつがしら

登字头儿 dēng zì tóur 癸登凳
うり

瓜字 guā zì 瓜瓢瓣
かわら

瓦字 wǎ zì 瓦瓮瓶
あまい/かん

甘字 gān zì 甘甚甜
うまれる/せい

生字 shēngzì 生胜牲
もちいる/よう

用字 yòng zì 用拥踊
た(へん)

田字 tián zì 田男界
ひき(へん)

疋字 pǐ zì 楚蛋疏
しろ/はく(へん)

白字 báizì 白百皆
けがわ/ひのかわ

皮字 pí zì 皮皱皲
め(へん)

目字 mù zì 目直盼
ほこ

矛字 máo zì 矛柔蝥
や(へん)

矢字 shǐ zì 矢矣知
いし(へん)

石字 shí zì 石砂砌
あなかんむり

穴字 xuè zì 穴究突
たつ(へん)

立字 lìzì 立站竟
こめへん

米字旁儿 mǐ zì pángr 粉料粮
とらかんむり/とらがしら

虎字头儿 hǔzìtóur 虏虑虚
たけかんむり

竹字头儿 zhúzìtóur 笑笔笛
ほとぎ(へん)/みずがめ

缶字 fǒu zì 缶罐缸
ひつじ(へん)

羊字 yáng zì 羊羟羞
はね

羽字 yǔ zì 羽翅翌
おい(かんむり)/おいがしら

老字头 lǎo zì tóu 老考耄
しこうして

而字 ér zì 而耍需
らいすき/すきへん

耒字 lěi zì 耒耕耙
みみ(へん)

耳字 ěr zì 耳耶耻
ふでづくり/いつ

聿字 yù zì 聿肆肇
にく(づき)

肉字 ròu zì 肉肾肝
しん/おみ

臣字 chén zì 臣卧藏
みずから

自字 zì zì 自息鼻
いたる(へん)

至字 zhì zì 至致臻
うす/きょく

臼字 jiù zì 臼舀插
した(へん)

舌字 shé zì 舌舍辞
まいあし

舛字 chuǎn zì 舜舞舛
ふね(へん)

舟字 zhōu zì 舟船舶
こん(づくり)

艮字 gěn zì 艮跟垦
いろ

色字 sè zì 色艳艴
くさかんむり

草字头 cǎozì tóu 艺芸草
むし(へん)

虫字 chóng zì 虫蚕蚌

血字 xuè zì 血恤衅
ゆきがまえ/ぎょうがまえ

行字 xíng zì 行衍街
ころも

衣字 yī zì 衣初袋
あがしら/にし

西

西字 xī zì 西要覃
あしへん

足字旁儿 zú zì pángr 跃距蹄
みる

见字 jiàn zì 见视观
つの(へん)

角字 jiǎo zì 角解触
たに(へん)

谷字 gǔ zì 谷欲豁
まめ(へん)

豆字 dòu zì 豆登豌
いのこ(へん)

豕字 shǐ zì 豕象冢
かい(へん)

贝字 bèi zì 贝则赚
あか

赤字 chìzì 赤郝赫
そうにょう/はしる

走字 zǒu zì 走赴趋
み(へん)

身字 shēn zì 身躬躲
くるま(へん)

车字 chē zì 车轧轨
からい/しん

辛字 xīn zì 辛辣辜
しんのたつ

辰字 chén zì 辰振辱
おおざと/むら

邑字 yì zì 邑悒挹
ひよみのとり/とりへん

酉字 yǒu zì 酉酒酋
のごめ(へん)

采字 cǎi zì 采菜睬
さと(へん)

里字 lǐ zì 里理重
ながい

长字 cháng zì 长怅伥
もん(がまえ)

门字 mén zì 门们闭
おか/こざとへん

阜字 fù zì 阜埠
れいづくり

隶字 lìzì 隶逮
ふるとり

隹字 zhuī zì 隹隼集
あめ(かんむり)

雨字 yǔ zì 雨雷零
あお

青字 qīng zì 青靖静
あらず

非字 fēi zì 非靠靡
めん

面字 miàn zì 面缅湎
つくりがわ/かくのかわ

革字 gé zì 革鞋鞍
なめしがわ

韦字 wéi zì 苇韧韩
おと

音字旁 yīn zì páng 音韵韶
おおがい

页字旁 yè zì páng 页顷顶
かぜ

风字 fēng zì 风飒飙
くび

首字 shǒu zì 艏馘馗
うま(へん)

马字 mǎ zì 马驭冯
ほね(へん)

骨字旁 gǔ zì páng 骱骷髀
たかい

高字 gāo zì 搞稿镐
おに/きにょう

鬼字 guǐ zì 鬼魁魄
うお(へん)/さかなへん

鱼字 yú zì 鱼鲁鲍
とり(へん)/とりづくり

鸟字 niǎo zì 鸟鸠鸣
しお

卤字 lǔ zì 卤鹾
しか

鹿

鹿字 lù zì 鹿麂麋
むぎ/ばくにょう

麦字 mài zì 麦麸麴
あさ(かんむり)

麻字 má zì 麻磨魔

黄字 huáng zì 黄磺簧
きび

黍字 shǔ zì 黍黏黎
くろ

黑字 hēi zì 黑墨黛
ねずみ

鼠字 shǔ zì 鼠鼬鼷
はな

鼻字 bí zì 鼻鼾劓
せい

齐字 qí zì 齐挤剂

齿

齿字 chǐ zì 齿龀龄
りゅう

龙字 lóng zì 龙垄聋

 

原載:『日中経協ジャーナル』(財団法人日中経済協会)

 

 

 

 

 【学習コンテンツ】へもどる | ホームページへもどる