○私の実践中国語(4)
 漢字で書かれたアジア各国の地名

 

 

   藤本 恒(京都文教大学講師)

 

 

 

 

 

 漢字は「絵文字(象形文字)」であった。誰がみても絵文字は一目瞭然でよくわかった。この絵文字は文化の伝達手段として威力を発揮し、これを発明した中国は、この独自開発品を政治・経済・外交の各分野に活用して、その恩恵を十二分に享受してきた。しかし、この資産も数千年の継承・発展・変化を経て、プラス面よりもマイナス面の方が無視できなくなってきている。

 一方日本では、漢字を中国から輸入したあと、平安朝初期の「万葉がな」にはじまって、「ひらがな」や「カタカナ」という「かな文字」を開発しこれを漢字と混在させて使ってきた。即ち、自国言語表記ツールの重要構成部分として漢字を利用している。中国語に“洋为中用”という言葉があるが、さしずめ“中为日用”である。その日本では、先日文相の諮問機関である国語審議会が「常用漢字」以外の「表外漢字字体表試案」をまとめ、字体の統一や略字使用の制限を提案した。「漢字の日本化」はまた一歩進んだといえる。この「漢字の日本化」は、これまでもまたこれからも、時代の進歩・変化とともにますます進展しつづけるに違いない。

 そこで以下、この日中両国における、表記ツールとしての文字の使い勝手を考察する。まず日本の場合、漢字が書けなくても(忘れても)、かな(=音標文字/50ケ)さえ知っていれば、少々格好は悪いが手紙や文書を書くことができるので、表記に困ることはない。ワープロなどの筆記用具があれば、かな・漢字転換機能を用い簡単に転換できる。それどころか、やりすぎて、漢字が多くなり却って読みにくくなることさえある。私も最近は一旦漢字に転換したものを、再度かなに逆戻しすることがよくある。また読み方がわからなくても、漢字は姿かたちや前後の送りがなからその意味は何とか判読できる。日本は漢字の持つよいところを借用し、字画が多くて書くのが大変だとか、字数が多くて覚えるのに手間がかかるなど不都合なところは「かな」という絶妙な補助ツールで補った。改良技術或いは応用技術の得意な日本人の面目躍如たるものがある。日本人の持つ器用さ文化と言えるだろう。

 日本の場合、表記ツールとしての漢字に対する上記の考えが、戦後1946年の当用漢字の制定からその後の常用漢字、さらに今回の国語審報告に一貫して脈打っていると思う。革命的変革を伴わずとも、細部の手直しで対応できるからである。

 ひるがえって中国の場合、文字(絵)を書けば互いに分かり合えた漢字は、技術や社会の進歩とともに、これら新生事物の表記の必要からその数は無限に増えつづけると言う宿命をもっていた。(例えば元素記号 氧(酸素)·氢(水素)·氮(窒素)·氟(フッ素)·氖(ネオン)·镭(ラジウム)·铀(ウラニウム)·钚(プルトニウム)など)

 文字を覚えるための負荷は無限大となり、これを覚えなければならない学習者の負担と、文盲の増加や学校教育の困難さが生じた。(費用対効果のようなもので、便利さを習得するため苦労する。しかも、その苦労はなかなか報われない)

 また、すでに形成されてしまっているが、なまじ文字をみれば意味がわかるために、音声については求心力よりも遠心力が勝ち、音の統一というもう一方の必要性は無視された。同じ漢語でも北方の北京語、華東の上海語、南方の福建語・広東語・客家語などへと音声面で拡散したのである。

 1940年、毛沢東は「中国の文字改革は世界の文字に共通する音標文字の方向を目指すべきである。これは即ち漢字を逐次音標文字へと変革して、音標文字に変えて行くことである。」と遺産は遺産として評価しながらも、この漢字遺産を中国の将来発展に対するお荷物・負担であるとし、償却するよう呼びかけた。

 1958年2月全人大で承認公布された漢語ピンイン方案は、その具現化であった。「簡体字」はこのローマ字化への過渡期の併用表記記号としての位置づけで元の漢字の字画を大幅に減らして残された。この過渡期の経過措置であり、併用表記記号の簡体字が現在もまだ使われているのである。中国のいう過渡期とは40年を経過した現在でもまだその最中であることを意味している。

  NHK第二放送では、毎日午後一時に中国語ニュースが放送される。世界各国の地名・人名がよくでてくる。とたんに、これらを地図帳や人名辞典で探すことになる。中国語表記が早く音標化することを期待しながら、今回はアジア各地の地名を日本と中国(簡体字+ピンイン)の文字で対照してみた。
 

 

アジア各国の地名

日本語

中国語(簡体字)

中国語(ピンイン)

アジア 亚洲 Yàzhōu
≪国名と主要都市名≫
大韓民国(韓国) 韩国 Hánguó
 ◎ソウル 汉城 Hànchéng
 プサン(釜山) 釜山 Fǔshān
 チェジュ(済州) 济州 Jìzhōu
 インチョン(仁川) 仁川 Rénchuān
 チュンチョン(春川) 春川 Chūnchuān
 チョンジュ(全州) 全州 Quánzhōu
 テーグ(大邱) 大丘 Dàqiū
タイ(王国) 泰国 Tàiguó
 ◎バンコク 曼谷 Màngǔ
 チェンマイ 清迈 Qīngmài
 アユタヤ 阿育他亚 Āyùtāyà
 トンブリ 吞武里 Tūnwǔlǐ
マレーシア 马来西亚 Mǎláixīyà
 ◎クアラルンプール 吉隆坡 Jílóngpō
 ペナン 槟城 Bīnchéng
 コタキナバル 哥打基纳巴卢 Gēdǎjīnàbālú
 ジョホールバール 柔拂巴鲁 Róufúbālǔ
 サラワク 沙捞越 Shālāoyuè
 コタバル 哥打巴鲁 Gēdǎbālǔ
シンガポール(共和国) 新加坡 Xīnjiāpō
フィリピン(共和国) 菲律宾 Fēilǜbīn
 ◎マニラ 马尼拉 Mǎnílā
 ケソン 奎松 Kuísōng
 サンパブロ 圣巴勃罗 Shèngbābóluó
 セブ 宿务 Sùwù
 タバオ 达沃 Dáwò
 サンボアンガ 三宝颜 Sānbǎoyán
 タクロバン 塔克洛班 Tǎkèluòbān
 バギオ 碧瑶 Bìyáo
インドネシア(共和国) 印度尼西亚(印尼) Yìndùníxīyà (Yìnní)
 ◎ジャカルタ 雅加达 Yǎjiādá
 バンドン 万隆 Wànlóng
 スラバヤ 苏腊巴亚 Sūlàbāyà
 デンパサール 登巴萨 Dēngbāsà
 メダン 棉兰 Miánlán
 パレンバン 巴邻旁 Bālínpáng
 ジョクジャカルタ 日惹,周贾卡塔 Rìrě ,Zhōujiǎkǎtǎ
 スマラン 三宝垄 Sānbǎolǒng
インド 印度 Yìndù
 ◎ニューデリー 新德里 Xīndélǐ
 デリー 德里 Délǐ
 ボンベイ 孟买 Mèngmǎi
 カルカッタ 加尔各答 Jiāěrgèdá
 ゴア 果阿 Guǒā
 バンガロール 班加罗尔 Bānjiāluóěr
 マドラス 马德拉斯 Mǎdélāsī
 アグラ 亚格拉 Yàgélā
 パンジャブ 旁遮普 Pángzhēpǔ
 カーンプル 坎普尔 Kǎnpǔěr
 アッサム 阿萨姆 Āsàmǔ
 インパール 英帕尔 Yīngpàěr
 カシミール 克什米尔 Kèshímǐěr
 カリカット 卡利卡特 Kǎlìkǎtà
 スリナガル 斯利那加 Sīlìnàjiā
 ダージリン 大吉岭 Dàjílǐng
パキスタン(イスラム共和国) 巴基斯坦 Bājīsītǎn
 ◎イスラマバード 伊斯兰堡 Yīsīlánbǎo
 カラチ 卡拉奇 Kǎlāqí
 ハイデラバード 海得拉巴 Hǎidélābā
 ラホール 拉合尔 Lāhéěr
 ラワルピンディ 拉瓦尔品第 Lāwǎěrpǐndì
 ペシャワール 白沙瓦 Báishāwǎ
 ムルターン 木尔坦 Mùěrtǎn
バングラデシュ人民共和国 孟加拉国 Mèngjiālāguó
 ◎ダッカ 达卡 Dákǎ
 チッタゴン 吉大港 Jídàgǎng
スリランカ(民主社会主義共和国) 斯里兰卡 Sīlǐlánkǎ
 ◎スリジャヤワルダナブラ・コツテ 科特 Kētè
 コロンボ 科伦坡 Kēlúnpō
 キャンディ 康提 Kāngtí
モンゴル 蒙古 Měnggǔ
 ◎ウランバートル 乌兰巴托 Wūlánbātuō
 アルタイ 阿尔泰 Āěrtài
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮) 朝鲜民主主义人民共和国(北朝鲜) Cháoxiān mínzhǔ zhǔyì rénmín gònghéguó( Běicháo xiān )
 ◎ピョンヤン(平壌) 平壤 Píngrǎng
 ケソン(開城) 开城 Kāichéng
 ウォンサン(元山) 元山 Yuánshān
 ナムポ(南浦) 南浦 NánPǔ
ベトナム(社会主義共和国) 越南社会主义共和国(越南) Yuènán shèhuì zhǔyì gònghéguó( Yuènán )
 ◎ハノイ 河内 Hénèi
 ホーチミン(サイゴン) 胡志明(西贡) Húzhìmíng(Xīgòng)
 ハイフォン 海防 Hǎifáng
 フエ 顺化 Shùnhuà
 ダナン 岘港 Xiàngǎng
 タンホア 清化 Qīnghuà
 ナムディン 南定 Nándìng
ラオス(人民共和国) 老挝人民共和国 Lǎowō rénmín gònghéguó
 ◎ビエンチャン 万象 Wànxiàng
 マンダレー 曼德勒 Màndélè
カンボジア 柬埔寨 Jiǎnpǔzhài
 ◎プノンペン 金边 Jīnbiān
 バタンバン 马德望 Mǎdéwàng
 カンポート 瓦贡布 Wǎgòngbù
ブルネイ(ダルサラーム国) 文莱苏丹国(文莱) Wénlái sūdān guó ( Wénlái )
 ◎バンダル・スリ・ブガワン 斯里巴加湾市 Sīlǐbājiāwānshì
ミヤンマー(連邦) 缅甸 Miǎndiàn
 ◎ヤンゴン 仰光 Yǎngguāng
 バゴー 勃固 Bógù
 パテイン 潘塔瑙 Pāntǎnǎo
ネパール(王国) 尼泊尔 Níbóěr
 ◎カトマンズ 加德满都 Jiādémǎndū
 パタン 帕坦 Pàtǎn

 

日本語

中国語(簡体字)

中国語(ピンイン)

≪海洋・山岳・河川・島嶼など≫
<ネパール>
 エベレスト 埃佛勒斯峰 Āifólèsīfēng
 [チョモランマ] 珠穆朗玛峰 Zhūmùlǎngmǎfēng
 アンナプルナ 安纳普尔纳 Ānnàpǔěrnà
 カンチェンジュンガ山 干城章嘉峰 Gānchéngzhāngjiāfēng
 タウラギリ山 道拉吉里峰 Dàolājílǐfēng
 マナスル山 马纳斯卢峰 Mǎnàsīlúfēng
<インドネシア>
 ジャワ島 爪哇岛 Zhuǎwādǎo
 スマトラ島 苏门答腊岛 Sūméndálàdǎo
 スラウェシ島 苏拉威西岛 Sūlāwēixīdǎo
 スンダ列島 巽他群岛 Xùntāqúndǎo
 セレベス島 西里伯斯岛 Xīlǐbósīdǎo
 チモール島 帝汶岛 Dìwèndǎo
 バリ島 巴厘岛 Bālídǎo
 モルッカ諸島 摩鹿加群岛 Mólùjiāqúndǎo
<フィリピン>
 セブ島 宿务岛 Sùwùdǎo
 バターン半島 巴丹半岛 Bādānbàndǎo
 ミンダナオ島 棉兰老岛 Miánlánlǎodǎo
 ルソン島 吕宋岛 Lǚsòngdǎo
 レイテ島 莱特岛 Láitèdǎo
 スル諸島 苏禄群岛 Sūlùqúndǎo
<インド周辺>
 インド洋 印度洋 Yìndùyáng
 ガンジス川 恒河 Hénghé
 アラビア海 阿拉伯海 Ālābóhǎi
 ベンガル湾 孟加拉湾 Mèngjiālāwān
 セイシェル諸島 塞舌尔群岛 Sàishéěrqúndǎo
 マダカスカル島 马达加斯加岛 Mǎdájiāsījiādǎo
 コモロ諸島 科摩罗群岛 Kēmóluóqúndǎo
 デカン高原 德干高原 Dégāngāoyuán
 バージン諸島 维尔京群岛 Wéiěrjīngqúndǎo
 ヒンドスタン平原(インド・バングラデシュ) 恒河平原 Hénghépíngyuán
 プラマプトラ川(インド・バングラデシュ) 布拉马普特拉河 Bùlāmǎpǔtèlāhé
 セイロン島(スリランカ) 锡兰岛 Xīlándǎo
<ミャンマー、タイ、パキスタン、ベトナム>
 イラワジ川(ミャンマー) 伊洛瓦底江 Yīluòwǎdǐjiāng
 メルギー諸島(ミャンマー) 丹老群岛 Dānlǎoqúndǎo
 メナム川(タイ) 湄南河 Méinánhé
 プーケット島(タイ) 普吉岛 Pǔjídǎo
 インダス川(パキスタン) 印度河 Yìndùhé
 メコン川(ベトナム) 湄公河 Méigōnghé

 

原載:『日中経協ジャーナル』(財団法人日中経済協会)

 

 

 

 

 【学習コンテンツ】へもどる | ホームページへもどる