○商務漢語閑話――ビジネス中国語エッセイ(8)
 ビジネス中国語の格調と特徴は?

 

 

   藤本 恒(京都文教大学講師)

 

 

 

 

 

 別に中国語に限らないと思うが、仕事(ビジネス)上の言葉は、互いに行き違いや誤解があっては困る。そのため、どうしてもあいまいな部分や、余韻を残すような言い方を避けるようにするのが常道である。ビジネス用語は良く言えば簡潔明瞭・欠落部分皆無というのが最善である。しかし、この様なことを心がけて話す言葉や、書いた文書は往々にして無味乾燥で文字・行間から人情味・温かみが感じられないという欠点を露呈するのではなかろうか。

  意志疎通・情報伝達をよりよく行うために、基本としてはまず的確に用件を相手に伝えることに注力するのは当然だが、これとは別に、何とかしてこの「情」の部分を「理」の部分に上乗せして表現したいと常々考えている。これが人々のいう言葉や文書から滲み出す格調とでもいうものであろうか。

  閑話休題(中国語では、「书归正传」というようだが)、私が非常勤講師として講座をもっていた姫路獨協大学で数年前、日本中国語学会の全国大会が開催され、その教育分科会で「ビジネス中国語表現の特徴とその実践」と題して、研究発表をしたことがある。この時発表したビジネス中国語表現上の特徴は三点で、ビジネス中国語には、1.並列多重叙述が多いこと 2.形式動詞が盛んに使われること 3.文型パターンが多用されること、であった。具体例で示すのがわかりやすいと思うので、最近読んだ文中の例を下記する。

1.並列多重叙述が多いということの例文

[原文]关于收费票据管理的规定

    行政事业性收费必须领取收费许可证,坚持亮证收费,并使用由省级以上财政部门统一印制或监制的票据。收费单位执收时,须向被收单位和个人开具收费票据,任何单位和个人不得伪造、转借、转让、代开、买卖行政事业性收费票据,否则视为乱收费予以查处。

[参考訳文]費用徴収の領収書管理に関する規定

 行政事業費徴収には、必ず費用徴収許可証を取得しなければならず、許可証を提示した上で徴収し、また、省クラス以上の財政部門が統一印刷あるいは監督制作した領収書を使用する。徴収部門は徴収するにあたり、被徴収部門或いは個人に領収書を発行しなければならない。如何なる部門・個人といえども、行政事業費徴収の領収書を偽造・又貸し・譲渡・代理発行・売買することを得ず、違反時には、不当徴収と見なし取り締まる。

  主語・述語という文法上の大きなくくりに止まらず、文中の叙述動詞やその目的語、さらにはそれら骨格部分を修飾する形容詞や副詞なども多重・多層化して使われることが多い。例文は、目的語である「領収書」を「~する」叙述動作が5項目にわたっている。

2.形式動詞[进行]が使われている例文

[原文]目前,国内一些省市把利用外资与国有企业改革紧密结合起来,与地区经济发展规划结合起来,进行了有益的探索,取得了较好的效果。随着国有企业改革的不断深化,必将促进外商以更多的方式在中国进行投资

[参考訳文]目下、国内の一部の省や市では、外資の利用を国有企業改革と密接に結び付け、また地域の経済発展計画と結び付けて、有益な探求模索を行い、相当良い効果を上げています。国有企業の改革が深まるにつれ、外国企業が中国へ投資をするのを更に多くの方法で促進してゆくに違いありません。

  中国語はその単語の文中での役割により品詞が変化するアモルファス風性格を持つ言語であり、二番目の「在中国进行投资。」の「投资」は「在中国投资。」であれば「中国で投資する(動)」であるが、「进行(動)」が「投资」の前に置かれたことにより、「投資(名)を行う」と目的語となり名詞化するが、文全体は語調が整い落ち着いたニュアンスを持つ。これが形式動詞の効用である。

3.「文型パターン」文型パターンが多用されること

 これはやはり、内容がつい複雑になりやすいビジネス文を、起承転結をはっきりさせ、明確簡潔な文体に仕上げようとする自然の成り行きであろう。文例は長くなるので、例示しないが、皆さんがよくご存知の代表的な「文型パターン」を幾つかあげておく。「因为~,所以~」(~のため~だ)。「虽然~,但是~」(~ではあるけれど)。「除了~以外,还~」(~のほかに)。「不但~,而且~」(~ばかりでなくその上~だ)。「无论~,都(也)~」(どんなに~であっても、~を問わず)。

  ビジネス文書を読む場合・書く場合、上記に述べた3点に注目されることが実力アップへの近道である。

原載:『日中経協ジャーナル』(財団法人日中経済協会)

 

 

 

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