1.『往時并不如烟』(往時は決して煙に及ばず)
章詒和著 人民文学出版社 2004年1月初版 132冊
解放後、民主同盟の実権派で国家交通部部長(大臣)であった章伯鈞は、1956年の「百花斉放、百家争鳴」で共産党批判を展開、翌57年の「反右派闘争」で失脚し、69年に病没する。本書は、その章伯鈞と李健生の間に生まれた娘・章詒和(今年62歳)が、闘争前後の両親の交友を思いおこした話題作。史良、儲安平、羅隆基ら“非共産党知識人”との交際や中国史の側面が、やさしくも重厚な文章によってつづられる。
「私の生涯は、天国と地獄、そしてこの世の3部曲を奏でてきた。……なんの意義も価値もない人生だけど、自分の生存理由をさぐるために筆を執った」と著者は静かにふりかえる。「『史記』の遺風と、魯迅の悲愴を備えている」(孫郁)と、その学術的・文学的価値を認める声も上がっている。
2.『老照片(第三十二辑)』(古い写真 第32集)
馮克力責任編集 山東画報出版社 2003年12月初版 71冊
読者から寄せられた20年以上前の写真とそれを紹介する文章(散文、エッセイ、説明など)で、中国の近現代を見つめ直そうとする隔月誌。マニアックな客の多い三聯書店では、必ずトップテン入りする人気誌である。
3.『青狐』
王蒙著 人民文学出版社 2004年1月初版 50冊
現代作家の第一人者、王蒙の最新長編小説だ。改革・開放とともに思想解放の時代を迎えた中国で、彗星のごとく文壇に現れた女性・盧倩姑(ルゥ・チェングゥ)――。しかし、奔放なまでに愛と自由を求める彼女の暮らしは崩壊していた。自己改造をはかる彼女は、やがて青狐(チンフゥ)になった。生き生きとして妖艶で、幻でもあり、真(まこと)でもある青い狐に……。
王蒙は、ある絶妙な角度で、女性や欲望、革命や民主、権力に対して独特な解釈をよせる。「歴史は偉大だが、人は往々にして平凡である。そのため人生の一切の悲喜劇が、そこから発生するのだ」――。ある女性作家の生き方を通して、現代社会を鋭く見つめる王蒙の意欲作。彼自身の仮説のプライバシーも描かれており、それが「売り」だと王蒙は語る。
4.『中華伝統文化経典文庫』
民俗文化編写組編訳 中国致公出版社 2003年5月初版 34冊
『論語』『孟子』『大学・中庸』の四書をはじめ、『詩経』『唐詩三百首』『孫子兵法』『聊斎志異』などの古典名著を、文庫サイズに編集しなおしたもの。全28冊だが、1冊(8.8元)ずつ求めることができ、「安価で手軽」と売り上げを伸ばしている。「中国がほこる精神の財産は、中国人の文化教養を高め、道徳と情操を養い、社会主義精神文明を促進するために、大きな意義をもっている」と本書。古典の堅苦しさを取りはらい、イラスト入りで読みやすい文字サイズというのも、現代っ子たちには好まれているようだ。
5.『血酬定律:中国歴史中的生存游戯』(血の報酬法則:中国の歴史における生存遊戯)
呉思著 中国工人出版社 2003年8月初版 32冊
作者によれば、「血酬定律」とは「血を流して得た報酬」のこと。清代末期から中華民国の時代において、匪賊には懸賞金がかけられ、暴力組織にはさまざまな内部構造があった――など、うずもれた中国史の断片を拾い集める。
6.『好吃』(食を好む)
車前子著 山東画報出版社 2004年1月初版 31冊
「世界に初めから美食があったのではなく、グルメが美食を創りだした。美食の本質は、個人の創造なのである」(序章)。孔子編の『詩経』、袁朴の『食単』(随園食単)などの古典にはじまり、書画や骨董、民芸などに表現された中国の美食を、エッセイ風にひもといてゆく。
蘇州の伝統菓子である「棗泥麻餅」(棗ジャム入りゴマまぶし菓子)や、蒸した「臭豆腐」(発酵させた豆腐を塩漬けにしたもの)など、筆者が紹介する美食の数々は食欲をそそる。ページを飾る美しいカラー写真も、大いに目を楽しませてくれる。
7.『禅是一枝花』(禅は一枝の花)
胡蘭成著 上海社会科学院出版社 2004年1月初版 29冊
胡蘭成は、1906年中国浙江省生まれ。汪兆銘政権下で『中華日報』総編集長を務め、戦後日本に政治亡命した思想家である。台湾中国文化学院終身教授などの肩書きを持ち、一時期は作家の張愛玲と内縁関係にあったという。81年東京で死去。
最近は中国内地でも胡蘭成の再評価が高まっており、随筆集の『今生今世』など、復刻版が続々と刊行されている。本書もその一つ。日本で「禅宗の第一書」と評される北宋時代の『碧岩録』に独自の解釈を加え、現代的な思想の解放をはかろうとしたものである。原本初版は1976年にまとめられている。
8.『大地紀行系列(単本)』(大地紀行シリーズ)
北京市図書進出口公司 27冊
台湾の出版社「大地地理出版公司」による分冊百科を輸入したもの。パリやニューヨークなど世界の観光名所を100冊からなるカラー誌でつづる。好みに応じて1冊(20元)から買うことができる。
ここにご紹介したのは「最後の帝都―北京」「華東の勝跡―南京と上海」「天然鍾乳洞の宝庫―貴州」「千載の帝都―西安」など、中国の名勝を特集した分冊。前門から天安門広場、故宮をドド~ンと俯瞰した空撮(北京版)など、ダイナミックなカラー写真は見応えがある。また、台湾の編集者たちが中国内地の観光をどんな風に切り取っているか――という視点で見るのも面白い。次のベストテン9位には、やはり観光ガイドの『夢幻旅游』がランキングしているが、それも豊かになった人々の観光ブームを裏付けていよう。
9.『夢幻旅游・中国巻』(夢幻旅行・中国の巻)
李立玮主編 陝西師範大学出版社 2004年1月初版 27冊
中国の人気旅行雑誌『中国国家地理』『時尚旅游』のトップ・エディターらが選んだ「一生のうちに行きたい50カ所」の中国編。
選ばれたのは「百年の城郭」として北京、蘇州、大理、麗江、「野外探検」として阿里、カナス、青海湖、タクラマカン、神農架、「この世の天国」としてシャングリラ、西湖、福建土楼、「陽光地帯」として長白山、黄山、九寨溝、ロコ湖、シガツェ、「文明の奇跡」として西夏王陵、五台山、雲崗石窟、ラサ、敦煌――などなど。目をみはるような山紫水明のカラー写真に、わかりやすい紹介文が添えられている。ロコ湖や西夏王陵、カナスなどの秘境も多数挙げられているので、ふつうの観光では満足しない人も旅心をそそられるに違いない。
10.『手機』(携帯電話)
劉震雲著 長江文芸出版社 2003年12月初版 26冊
正月映画の第一人者、馮小剛(フォン・シャオガン)監督の最新作が『手機』(携帯電話)である。2004年の正月はこの『手機』が話題をさらっているが、原作本である本書も、映画のヒットで相乗効果が出たようだ。
テレビの人気司会者である主人公・厳守一は、妻と2人の愛人の間を行き来するプレイボーイ。ある日、自宅に置き忘れた携帯電話に愛人からの電話が入り、妻にすべてを知られてしまい……。「ケータイは恐ろしい」「ケータイを忘れないようにしよう」と中国の男性たちを震撼させたコメディタッチの異色作である。
中国の携帯電話利用者は、現在2億人あまり。ケータイはもはや、身近なツール(道具)となっている。そうした中での『手機』の人気は、胸にイチモツある世の男性によって支えられている? 客層と読者層のリサーチもしてみたら、あるいは面白いかも!?しれない……。
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