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中国映画のコラム 第1回 .

 俳優から監督へ
水野 衛子

   
   

 中国映画界で俳優で監督でもある人は何人かいるが、俳優としても監督としてもその作品が高く評価されている人と言えば、かつては石揮、今は姜文を置いて他にいない。
 石揮は1940年代から50年代にかけて上海の映画・演劇界で活躍した俳優・監督で、『奥様万歳』(47) 『中年の哀楽』(49)などで素晴らしい演技を見せ、監督・主演作には老舎原作の『私の一生』(50)など3本があるが、残念なことに1957年に右派とされて、黄浦江に身を投げて自殺してしまった。
 姜文の監督作は2014年の暮れに中国で公開される『一歩之遥』が監督5作目となる。2014年の上海国際映画祭では1994年に『太陽の少年』で監督デヴューしてから20年ということで、回顧上映イベントがあったが、20年間で5本というのは決して多い数ではない。その理由に、脚本にかける時間が非常に長いことがある。1作の脚本に最低でも3年はかけるという。『鬼が来た!』が検閲を通らないままカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得して監督禁止令をくらっていた期間は他の監督作にも出ていたが、最近はよほどでないと自分以外の監督の作品に出演しないのは、それだけ監督作品に没頭しているせいなのか、中国の監督に俳優姜文を使う度胸がないせいなのか。俳優としてデヴューしたばかりの頃、『悲劇の皇后』(85)の溥儀、『芙蓉鎮』(87)の右派のインテリ、『紅いコーリャン』(88)の野性味あふれる男とガラッとまったく異なる人物像を演じてみせ、俳優としてのその幅の広さに驚かされたものだが、いつからか誰を演じても姜文でしかなくなり、自分の監督作ではその強烈な個性が何ともいえない魅力なのだが、他の監督の作品での俳優としての輝きはかつてほどではないのは事実で俳優業と監督業の両立の難しさを考えさせられる。

 女優ではジョアン・チェンこと陳冲にも監督作がある。14歳でスカウトされてデヴュー、19歳で主演した『戦場の花』(80)では金鶏賞最優秀主演女優賞を受賞、人気絶頂の時に当時アメリカで教えていた両親のもとに行き、そのままニューヨーク大学とカリフォルニア州立大学で演技を勉強してアメリカの映画・テレビでも活躍し始める。ベルトリッチの『ラスト・エンペラー』(87)では皇妃婉容を演じ、翌年のアカデミー賞ではジョン・ローンと共にアジア系俳優として初めてオスカーのプレゼンテーターになった。しかし、アメリカ映画の中での東洋人女性の役柄に限界を感じたのか、スタンリー・クワン監督張愛玲原作の『赤い薔薇 白い薔薇』(94)以降だんだんと中華圏の作品に活動を移していき、98年に同じ上海出身の在米女性作家で陳冲の伝記も書いている厳歌苓の原作『天浴』を映画化した『シュウシュウの季節』を監督している。文化大革命で下放された少女が自分を上海に戻してくれる可能性のある男と次々に寝るというショッキングな内容で、実際に当時はそういう女性がたくさんいたと言われる問題作であり、厳歌苓も陳冲も主人公とほぼ同世代である。当然、その題材ゆえに当局の撮影許可が得られないまま中国国内での撮影を断行、今はテレビドラマで活躍中の当時16歳だった李小璐が『戦場の花』の頃の陳冲に瓜二つなのが印象的だった。続いて、2000年にはハリウッド資本でウィノナ・ライダーとリチャード・ギア主演の『オータム・イン・ニューヨーク』という悲恋物語を撮っているが、これはまったく凡庸な作品で興行的にも失敗したらしい。
その後、やはり厳歌苓原作でアメリカ開拓時代の中国人鉄道労働者を描いた『扶桑』を撮るという構想をずっと持っていると聞くが映画化には至っていない。そういうわけで、二作だけしか監督作はないものの、中年になってからのジョアン・チェンは女優としての活躍が著しい。『ジャスミンの花開く』(04)や『胡同のひまわり』(07)での老け役、『陽もまた昇る』(07)や『四川のうた』(08)での色気溢れるが物悲しい中年女性の役、とそれぞれの作品の重要な役どころで抜群の存在感を示している。海外の中華系監督の作品でも、アン・リーの『ラスト、コーション』(07)での傀儡政権高官夫人役、オーストラリアの監督の『ホーム・ソング・ストーリーズ』(07)での男に頼って生きるしかない移民の母親役など、彼女がいなければこの映画は成立しないと思うほどの円熟した演技力に圧倒された。監督業はもう諦めてしまったのだろうか。ぜひ、自身の主演・監督作が見たいものである。

 最近の女優でコンスタントに監督作を撮り続けているのは何といっても徐静蕾だ。高校在学中に張元の『北京バスターズ』(93)にエキストラで出演、その後、北京電影学院に入学、在学中に主演した青春ドラマ『将愛情進行到底』でブレイクし、張楊のオムニバス映画『スパイシー・ラブ・スープ』(98)で映画デヴュー、20代前半は清純な娘役として圧倒的な人気を博した。作家王朔との交際でも知られ、自身のブログ「老徐的博客」が大人気でブログの女王と言われるなど、才女としても名高く、2002年に自分で監督・脚本・主演・製作をして『私とパパ』を撮った。母を交通事故で亡くし、幼い頃に母と離婚したヤクザな父親と同居を始めた女子高校生の父親に対する複雑な感情を描いた作品で、高校生から子供の母親となるまでのヒロインを自分で演じているのだがテレビや映画で彼女が演じてきた役柄とはまったく違う、ひりひりするような現実感があった。製作資金は自ら女優として稼いだお金だそうで、商業ベースではないアート系のインディペンダント映画でありながら、彼女の知名度もあってかそこそこヒットし、ちゃんと製作費も回収できたという。父親役は監督の葉大鷹、他にも張元や姜文といった王朔の盟友たちが友情出演して初監督作を盛り立てており、20代の女優の監督作とは思えないクオリティーの高さに目を見晴らされた。続いて今度はツヴァイクの小説を1930年代の北京に翻案した『見知らぬ女からの手紙』(04)を撮る。これも脚色・主演・監督を担当、当時すでになくなっていた北京映画製作所のかつてのお家芸であった老北京物の伝統を感じさせる文芸作品となっていた。
 徐静蕾はこの頃、金鶏賞主演女優賞を獲得した『ウォー・アイ・ニー』(02)のプロモーションで来日しており、「女優にしては理性的過ぎて、それが欠点だ」と北京電影学院在学中に先生に言われたと私に洩らしたことがある。実際に身近で接してみると、彼女には確かにドラマや映画で演じることが多い可憐で楚々とした役柄には納まらない知性と自立心があり、それが次の監督作品の『夢想照進現実』(06)にもよく現れていた。この作品はテレビドラマの監督と主演女優が深夜に二人きりで延々と会話するだけという実験的な作品だが、ドラマで求められる役と自分自身との乖離に悩む主演女優はそのまま徐静蕾そのものだと思う。その頃は香港映画でよく「男のドラマの添え物」的役柄を演じており、それらはすべて金のためと割り切って演じていると取材に答えていたこともある。中国や香港の男性監督が彼女に求めるものに飽き足りなさをずっと感じていのだろう。その後、女優としての出演作はかつての大ヒットドラマ『将愛情進行到底』の後日談を撮った映画を最後に自作以外には出演しなくなった。
 ただ、監督作は中国映画自体の大作化傾向と足並みを揃えたかのように最初の頃の文芸映画路線から娯楽映画路線に切り替わり、ベストセラー小説の映画化『杜拉拉昇職記』(10)では女性監督として初めて興行収入1億元を突破し、ハリウッドの『プラダを着た悪魔』『セックス・アンド・シティ』の有名スタイリストを起用するなど華やかな話題を振り撒いたが、そのド派手なファッションは中国のOLにはあり得ない現実離れしたもので、およそリアリティーがなく、主人公二人が仕事でタイに行って恋に落ちるなどの原作にはない設定も『ブリジット・ジョーンズの日記』の続編みたいな既視感が拭えなかった。
さらに続く監督作『親密敵人』(11)ではライバル企業に勤める男女二人のビジネス競争と恋の駆け引きがパリやロンドンやアフリカなどで展開されるという実にバブリーな作品で、ビジネスの成否も恋の成就も非常にご都合主義で何の感情移入も出来ない代物だった。現在撮影中の最新作は去年から中国で流行中の青春物だそうだが、チェコでのロケを敢行したらしい。もうすぐ40歳の本人はさすがに主演ではないらしいが、もっと地に足のついた、デヴュー作の頃のような徐静蕾らしい作品を期待したい。

さて、徐静蕾とは周迅、チャン・ツィイー(章子怡)と並んで「四小花旦」と呼ばれたヴィッキー・チャオこと趙薇も監督デヴューし、徐静蕾に続く「億元」女性監督の仲間入りを果たした。私が趙薇と知り合ったのは2001年の『ヘブンアンドアース』のシルクロードでの撮影に中井貴一さんの通訳として参加した時で、中井さんと趙薇の出番がほぼ一緒だったため、同じロケバスに乗り、出番待ちにはおしゃべりし、オフの日には食事や買い物に一緒に出かけることが多かった。どこに食事に行ってもレストランを出る頃には店の前に黒山の人だかりができていて、その超人気ぶりに改めて驚いた。シルクロードのさいはてのような地の誰も住んでいない小屋の壁にも彼女の『還珠姫~プリンセスのつくりかた~』の色あせた写真が貼ってあったものだ。
そんな大スターであるにもかかわらず、素顔の彼女は全く飾り気がなく、さっぱりした男勝りの気性で、ズケズケと物を言い、それでいて、周りの人にもさりげなく気配りをする世話好きで姉御肌の一面があり、共演の姜文もずっと年下の彼女を「薇姐」と呼んでいたほどだ。その後も何度か主演作のプロモーションで来日した時に通訳をしたり、北京や上海で一緒に食事をしたりしていたところ、いつの間にか母校である北京電影学院の大学院に入り、監督の勉強をしていると言う。さらに結婚、出産を経て、私生活が忙しくなったせいか、なかなか卒業したという話を聞かないなあと思っていたら、一昨年の冬、監督作を撮影中とのニュースが流れてきた。そして1年後に完成した『致我們終将逝去的青春』『So Young ~過ぎ去りし青春に捧ぐ~』原題)は2013年の4月に中国で公開され、私もたまたま仕事で滞在中だった上海で見たが、興行収入7億元を超す大ヒットを達成し、2013年の国産映画第2位(全体でも3位)となったのだった。
『So Young ~過ぎ去りし青春に捧ぐ~』日本公開版ポスター映画の原作は彼女より年下の80後 のベストセラー作家辛夷塢の同名小説だ。実は趙薇が映画化すると知った時点で早速買って読み始めたのだが、ヒロインがあまりに身勝手なのに呆れてとうとう最後まで読み進められなかった。2013年の東京国際映画祭でこの作品が上映されて、監督として来日した趙薇にそう言うと、「そうでしょ。実は私も読み終えるのに半年もかかったのよ」と笑うので、「だったら、なぜ初の監督作にこの小説を選んだの?」と聞くと、「初めての監督作でコケると次の作品が撮れないから、小説のファン層が確実に観客として見に来るという保証がある題材を選ばざるを得なかったのよ。撮りたい題材は2作目で撮るわ」という意外な返事だった。超有名女優の彼女にしても映画監督への道は私たちが思うほど生易しいものではなかったらしい。監督処女作に大学生の青春を描いた娯楽作品を選んだのは実は映画観客の平均年齢が20.4歳という中国のマーケティングを考慮した周到な作戦だったわけだ。それでも、原作小説の熱烈なファンからは小説と違うという声もあったそうだが、それには「映画が小説とまったく同じなら映画化する意味はないわ。小説を読めばいいんだから」ときっぱり。「興行の成功は原作のファン以外の観客を取り込んだ結果だろう」と言うと、「私がどれだけのものを撮れるのか、という好奇心もあったんだと思うわ」と冷静に自己分析してみせる。
 ヒロインは原作小説を推薦してくれた友人に趙薇自身がよく演じる役どころに近いと言われたそうだが、自分で演じることはせず、新人をオーディションで選んだ。監督役に集中したかったのだそうだ。それでも、演技経験の少ない主演女優たちには自ら演じてみせたり、歌ってみせたりしていたらしい。監督と女優のどちらが大変かという観客からの質問には、「監督は幅広い教養や知識も求められる大変な仕事だけど、だからといって女優が楽ということはない。女優も監督もどちらも大変な仕事だと思う」と答えている。実際、女優としての仕事も目白押しで、近々中国で公開予定のピーター・チャン監督の『親愛的』では子供を持つ地方の出稼ぎ労働者の役を演じているし、スタンリー・クワン監督の作品では女性作家の役を演じると言う。
 スタッフにも恵まれた。初監督の趙薇を支えたのは脚本の李檣と監修のスタンリー・クワンだ。特に脚本の李檣はいま中国で最も注目されている脚本家で、初の映画脚本『孔雀 我が家の風景』(05)が姜文や陸川ら有名監督たちに注目され、最終的にはカメラマンの顧長衛が初監督作として映画化して高い評価を得た。アン・ホイ監督の『おばさんのポストモダン生活』(06)もユニークな作品だったが、趙薇はこの中で斯琴高娃の娘を演じている。この『おばさん』での趙薇の演技が素晴らしかった。それまでのアイドルイメージをかなぐり捨て、いかにも品のないガラッパチの東北娘を生き生きと演じて見事だった。その後の作品『画皮 あやかしの恋』(08)で金鶏賞の最優秀主演女優賞を獲得しているが、演技開眼はこの『おばさん』であったと思う。
『So Young』について、私が前半の大学生活を描いた部分は出来がいいけれど、後半が冴えないと正直に言うと、どこがダメか、と真剣に聞いてきた。それでも、北京電影学院の監督科の教授たちは卒業作品としては初の満点をつけたという。「学生の作品としてよ。公開される映画作品としてではなくて」と本人は謙遜していたが、本当に撮りたかった題材になるという次回作がますます楽しみである。

(みずの・えいこ 中国語通訳・字幕翻訳家)

   

★『So Young ~過ぎ去りし青春に捧ぐ~』公開記念特設ページオープン!
  ヴィッキー・チャオ初監督作品『So Young ~過ぎ去りし青春に捧ぐ~』の公開(2014年9月)を記念し、特設ページを開設しました!
作品情報の他、原作本をはじめとする関連書籍の紹介や、さまざまな関連情報のリンクなど、多彩なコンテンツをご用意しています。ぜひご覧ください!
 
  >>> http://www.toho-shoten.co.jp/toho/soyoung_movie.html

 
   
     

 

 

 

 
   
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