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日本ビジネス中国語学会
 
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微観中国  (30)対日言論めぐる「ネット義和団」と理性派の闘い
   
     


▲范瑋琪の微博

 

 

 

9月は中国で70年前の「抗日戦争」(日中戦争)の記憶を思い起こさせる月だった。特に今年初めて「抗日戦争勝利記念」をテーマとした大規模な閲兵式が行われたことは、中国の愛国主義、すなわちナショナリズムを刺激、「ネット義和団」と言える排外的な動きが広がった。
この問題について、多維新聞は「愛国は一種の“病” 薬では治らず」 という文章で次のように伝えた。

米国籍の華人歌手、范瑋琪(クリスティン・ファン)が、抗日戦争勝利記念閲兵式が行われた9月3日に子供の写真を新浪微博に載せたことで、中国のネットユーザーが「軽薄で、閲兵を無視している」と批判した。ほかにも閲兵を尊重していない、老兵への敬意がないなどとして多くの台湾の芸能人が微博で批判を受けた。
批判を受けた范は翌日写真を削除しおわびした。新浪微博の軍事チャンネルには「ミサイルを台北に打ち込め」などとの書き込みが登場。沈黙を保った台湾芸能人と比べ、香港芸能人は閲兵を賞賛、自ら愛国をPRした。このように中国のソーシャルメディアでは、香港と台湾の芸能人は愛国主義者から異なる対応を受けた。
河南省鄭州では日本車オーナーが微博で、刀を持った男に襲撃され車が傷つけられたと微博に書き込んだ。
閲兵式が刺激した愛国主義の狂騒は、ソーシャルメディアでの激しさは数年前の反日デモを上回る。前回と異なるのは、今回の愛国主義の表現はネット市民の自発的な行為だということだ。偏狭な愛国主義の下、熱狂した人々は自ら愛国的でない行為を見つけ出し、バッシングを行った。
ナショナリズムが主導する「愛国主義」は周辺国民への態度などに顕著に現れた。新浪微博の軍事関連ニュースでは、「ミサイルを東京、ニューヨーク、台北に打ち込め」といった書き込みが相次ぎ、中国政府の日本、台湾、米国に対する(表向きではない)真の立場が、愛国主義者の狂騒の中で暴露された。
愛国主義の感情は中国のソーシャルメディアに「冷戦」を作り出した。世界では中国の閲兵は平和の主張ではない、武力を誇示する儀式だと憂慮したが、ネットの愛国主義から見る限り、こうした憂慮は理にかなっている。
こうした愛国主義は政府が組織したものではないとの見方もある、だが今回の世論の暴風からみて、ネット市民の愛国主義は政府による組織化を必要としないほど、恐ろしいまでに進んでいることが分かる。
こうした下から上への自発的な愛国主義は、盲目的な信者を生み、もめごとを引き起こす。このような「ネット義和団」がどのような結果を引き起こすか、当局すらも予想できないだろう。

     
     
     

李海大の微博
 

上記のように、3年前の反日暴動ほどではないが、日本車が襲われる事件もあった。VOAによると、河南省の「圓月刀弯」というネットユーザーがブログに次のような内容を書き込んだ。すなわち9月3日鄭州でトヨタ車を運転していたところ、突然電動バイクに乗った男が車の前で「今日は閲兵の日なのに、お前は日本車を運転するのか!もし銃を持っていたら、撃ち殺していただろう」と言いながら、長い刀を取り出してエンジンフードに斬りつけた。警察は刑事責任を追究せよとの車の持ち主の要求に、刀はのこぎりのような工具で、所持が禁止されていないため、逮捕はできず損害賠償を求めることができるだけだ、と説明したという。
以前紹介したこともある「自干五」現象など、網民のナショナリズム化は確かに進んでいるようだ。政府の“洗脳”教育やネット弾圧など、開かれた言論がないゆえの現象だろう。こうした風潮がネットでどのように醸成されているのか、詳しい研究が待たれる。
だが、こうした風潮を、ユーモアを込めて批判する網民のグループもいる。VOAによれば次のようなものだ。
南方週末の元記者、19万人のフォロワーのいる大V(著名微博ユーザー)、李海鵬は9月6日、「祖国万歳!ところで、広くて平べったい冷蔵庫はどのブランドがいいか、誰か知りませんか?」と書き込んだ。この微博は数日以内に1万4000回転載され、4700の「いいね!」と8400ものコメントが付いたという。
その後、1120万のフォロワーがいる、反毛沢東の教育を行うことで知られる歴史教師、袁騰飛は9月7日、「台湾歌手の范瑋琪は閲兵式当日に微博に子供の写真を載せたことで、数万のネットユーザーから愛国的でないと批判され、謝罪させられた。李海鵬はここから教訓を学び『祖国万歳、広くて平べったい冷蔵庫はどのブランドがいいか、誰か知りませんか』と書き込んだ。では、これにどのようなコメントが来ただろうか?」と書き込んだところ、2日間で4万6000回転載され、3万近いいいね!が付いたという。
多くのネットユーザーが李海鵬の問いかけに対し、次のようなコメントを寄せた。「帝国主義は張子の虎だ!シーメンスに(そのような商品が)あるよ」、「銃も大砲もないが、敵が我々に作ってくれる(注:革命歌『遊撃隊』の歌詞)!松下(パナソニック)でしょう」、「国産品を支持し、日本製をボイコットしよう!全国人民が閲兵式を見よう!冷蔵庫はやはり松下がいいと思う」、「汚職と浪費は最大の犯罪だ!月餅の大砲(注:閲兵式で使われた望遠レンズの意味)はやはり鬼子(日本)のブランドが良い」、「革命はお客をごちそうすることではない!絶対にハイアールを買ってはいけない。1年に4回も修理した」。冒頭にあるのは、いずれも毛沢東語録などで知られた表現だ。
さらには次のような辛辣なコメントがあったという。「全人類を解放しよう!冷蔵庫を買うなら(天安門)広場の(毛主席)記念堂にある水晶の冷凍ショーケースを買おう。品質は信頼できる」「昔の苦しみを思い、今日の幸せをかみしめる!天安門には良い冷蔵庫があるそうだ。ある人をそこに入れたまま、数十年壊れたことがないという」。これは言うまでもなく、天安門広場の毛主席記念堂に水晶の棺に入り、永久保存処理をした毛沢東主席の遺体がずっと安置されていることを風刺しているが、よくここまで書けたと思う。
袁騰飛の書き込みにも、以下の様なコメントがあった。「祖国万歳!共産党万歳!日本帝国主義打倒!ドイツファシズム打倒!でも家電はやっぱり日本製とドイツ製が良い。うちのシーメンス洗濯機は10数年使ったし、松下の電子レンジはもうすぐ20年になる。後にハイアールの洗濯機を買ったが5年もしないで壊れた。最後はやはりシーメンスに替えた」「一切の反動派は張子の虎である!私個人はシーメンスと松下が気に入っている。釣魚島を守ろう!」「私の中華を愛そう!記念堂のあれは広くて大きいのでは」。
文化大革命の時期、共産党や毛沢東主席への忠誠を誓い、政治的迫害を避けるため、毛沢東語録を会話の冒頭で暗唱するといったことが行われた。今回の書き込みはまさにこれの悪搞(パロディ、本コラム参照)であり、共産党のスローガンを先に言っておけば、愛国主義者も手出しをできないだろうという、いわば免罪符のようなものだ。
ただ実際には、本当に冷蔵庫を買いたいと相談したのでも、それに真面目に答えたのでもなく、お互いにお遊びでやったのだろう。それゆえに政府の言論規制やネット愛国主義を批判する「毛語録祭り」に火が付いたのだろう。
中国青年報「氷点週刊」の元編集長、李大同はVOAの取材に、「政府による宣伝・洗脳により、これだけ大きな中国で騒々しく盲目的な『愛国者』が出現するのは正常なことだ、だがさらに多くの人々は理性的だ。左派の『愛国者』が出てきて騒ぐたびに、常に理性的な網民が現れ反撃する、今回の李海鵬や袁騰飛のやり方は逆説的な風刺により理性を表現したのだ」と語った。
「こうした愚か者(中国語は『脳残』)が現れるとすぐに反撃があり、理性的な声が登場し広がる。愚か者は彼らから論駁されることで、考えを改めることができる。現在のネット社会は、セルフメディアの時代であり、誰もが自分の意見を表現することができ、理性的な意見が最後には主流を占めるのだ」李大同はこのように指摘した。
閲兵式に続いて、抗日戦争の記憶を思い起こさせる9月18日(満州事変が勃発した柳条湖事件が発生)の翌19日、香港紙、東方日報グループのニュースサイト「東網」は「反日の回春薬の効果は切れた」として、「王思想」という作者による次のようなコラムを掲載した。

     
   

インターネットは中国民衆の認知能力と国民感情を大きく変えた。最も明らかなのはオリンピックだ。かつては中国の選手が金メダルを取るたび、すばらしい栄誉であると宣伝され、これに惑わされた人々は熱血が沸き立った。だが2008年(北京五輪)の後、こうした感情は急速に低下し、変化した。北京が2022年の冬季五輪を開催するとのニュースも、民衆の間に特別な熱情を引き起こさなかった。中国の女子バレーが優勝しても、国内ではほとんど誰も知らなかった。人々は徐々に、スポーツは民間のゲームであるべきで、挙国体制で(国家予算をつぎ込み)金メダルを手に入れようとするのは、まったく無意味であり、納税者の金を節約するに越したことはない、という考え方に賛同するようになった。
「五輪回春薬」の効果が切れたのに続き、「反日回春薬」もすでに役立たずになっている。
これまで9月18日前後には、必ず誰かが存在感を示そうと揉め事を起こしたものだが、14年、15年にはほとんど誰も関心を持たなくなった。(満州事変が勃発した)東北地方の経済は明らかに衰退しており、人々は仕事がなく、食べることができないと憂いており、数十年前の戦争で誰かを恨もうという力はほとんどない。
日本の参議院本会議で18日、安保法案が強行採決されたが、日本の戦後安保政策がこれほど大きく変化したのに、中国人は誰も反応しなかった。
「反日回春薬」の成分は何か?そしてなぜ効力を失ったのか?
第1の主要成分は、歴史の記憶により恨みを宣揚し、視線をそらすことだ。日本が侵略し数千万の中国人が亡くなったことは犯罪だ。だが数十年前の戦争により今日の日本を恨むことは、完全な思想の混乱だ。中国のテレビで放送される「抗日神劇(とんでもドラマ)」は人々から嫌われ、嘲笑され、却って日本への恨みを解消する役割を果たしている。人々は、日中戦争では両国民がともに傷ついたと考えるようになった。
第2の成分は、日本製品ボイコットだが、これは中国の不良自動車メーカーが背後でけしかけているのである。彼らは自社製品を売り込もうと、日本車の品質は悪いと言いふらしている。だが日本車は経済的だけでなく、品質も非常に良いのであり、日本車は中国で大歓迎されているのだ。
全面的に日本製品をボイコットするなど、さらに荒唐無稽だ。過去数年、一部の『糞青』(注:憤青=怒れる若者の蔑称)が日本製品をボイコットすれば日本企業は倒産すると主張した。だが多くの学者が、日本製品ボイコットは中国の損害のほうが大きい、中国は最先端の日本製品を必要としているからだと指摘。ここ数年ネットでは日本製品ボイコットは圧倒的な反対を受けるようになった。
第3の成分は、今日の日本を悪魔化することだが、これは最も奏功していない。今日の日本は民主体制国家であり、マッカーサーが日本で民主主義を広め国民の資質を大幅に改善し、日本の民衆は世界からも賞賛されている。日本に旅行に行ったことのある中国人はほぼ口をそろえて日本を賞賛する。
日本が30年来、中国に最も多くの経済援助をした国であることも、ネットで明らかにされ、広まったことで、中国の民衆の好感を得た。
第4の成分は釣魚島(尖閣諸島)だが、「釣魚島を要求するだけで、海参崴(ウラジオストク)は要求しないのか」という文章がネットで広まった。中国政府がウラジオストクに領事館を設置するとのニュースに何とも言えない複雑な気持ちが広がり、反日感情もおさまってしまった。わずか4平方キロの釣魚島はウラジオストクの100分の1足らずであり、ロシアが中国から奪った国土の40万分の1だ。
反日派に対し、ある網民は日本が中国に与えた被害に比べ、ロシアが中国に与えた被害はその100倍はあるのに、なぜ反ロシアでないのかと問いただした。
反日は愚かなことだが、反ロシアも不要だ、我々は歴史は記憶するが、恨みは捨て、今日に関心を持つべきだ。我々はロシアとだけでなく、米日とも同盟を結ぶべきではないのか、人々は徐々にこのように考えるようになった。
ネットはこれまで無数の嘘を暴き、今後より多くの回春薬の効果を失わせるだろう。

     
    ネットは愛国主義に洗脳された“義和団”も生む一方、理性派も生んでいる。中国における民間の思想状況がどのような状況か、非理性的なナショナリズムと理性派のどちらが主流なのか、はっきりしない部分もあるが、両派の対立が最も現れやすいのが対日関係であることを今回紹介した文章は示している。
はっきりしているのは、中国のナショナリズムは政府によるプロパガンダと同時に、社会情勢が背景にあり、非理性的なナショナリズムは社会的弱者層が陥りやすいことだ。それが2012年9月の反日暴動のように社会の不満のはけ口として突然暴発する恐れがある。特に経済成長が鈍化し、失業問題などが顕在化すればそのリスクも増えるだろう。
中国のナショナリズムの影響を最も受けやすい日本としては、やはり理性的な知日派を増やすべく、発信や交流をより一層強化するしかない。筆者は10年以上前から中国メディアにペンネームで時々寄稿しているが、先日も上海のメディアが企画した戦後70周年特集で戦争責任などについてインタビューを受け、「我々戦後世代には当事者としての責任はないが、戦争の歴史について記憶し続ける責任はある」とコメント、戦争責任について各メディアの取り組みも紹介した。反論も予想したが、編集者の話では意外にも好評だったという。中国のネット世論をウオッチしながら、今後もこうした取り組みを続けていきたいと思う。
     
 
   

 

 

 


「網民」の反乱 ネットは中国を変えるか?
古畑康雄

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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