日本ビジネス中国語学会 第18 回公開公演・シンポジウム

  2005/3/12

 

中国語通訳―現場からの報告

 

 

    日中翻訳通訳サービス代表   

 

 

永富 健史

 

 

 

    通訳と言いますと、今では帰国子女のバイリンガルや留学経験のある方々など両国語に精通した国際人がたくさんおられますが、私は日本で生まれ教育はすべて日本で受け、中国への留学や長期駐在の経験もありません。従って、私の思考法や感性は一般の日本人と同じものといえるでしょう。そのような普通の日本人が日本国内で中国語を勉強してどのような体験、失敗をしながら通訳の仕事をしてきたか、日本人通訳者の立場から述べてみたいと思います。

1.通訳者の役割

 (1)通訳に徹する

 通訳とは発言者の話したことを別の言語に訳すことです。しかし、この通訳として当然のことがうまくできずに、クライアントからクレームが出ることがあります。つまり、通訳者が発言者の話を勝手に要約したり、自分の意見まで付け加えて通訳し、どこまでが発言者の発言内容なのか分からなくなることがあります。まず、通訳者としての立場を明確に自覚することが必要です。

 (2)通訳はコミュニケーション・コーディネーター

 通訳はコミュニケーション・コーディネーターであると思います。コーディネーターとは調整役、まとめ役のことですが、これは最初に述べました「通訳に徹する」ということと一見矛盾しているように思われるかもしれませんが、そうではありません。つまり、通訳とは発言者の発言趣旨を相手側に正確に伝え、コミュニケーションがスムーズに運ぶための調整的役割を担っているといえるでしょう。通訳とは言葉を訳すのではなく、意味を訳すということだと思います。そのためには通訳内容に関するさまざまな知識が必要であり、日中両国の常識、習慣などにも通じていることが求められます。また、商談通訳においては、コンサルタントとしての役割も必要になってきます。つまり、中国ビジネスに関する知識、中国事情、中国人の思考法などについて発言者に客観的に情報を提供することが必要な場合があります。特に中国事情に通じていないクライアントに対してはこれが必要になってきます。しかし、ここで注意しなければならないのは、通訳は決して仲人役をつとめてはいけないということです。商談の成約如何を判断するのはあくまでも発言者本人であり、通訳者は客観的な情報提供に徹することが求められます。

2.通訳のテクニック

 先ほど通訳者はコミュニケーション・コーディネーターであると申しましたが、通訳には単に言葉の置き換え作業を行うだけでなく、双方の意思疎通が円滑に運ぶようにさまざまな工夫が必要であると思います。そのような意味でのコミュニケーション・コーディネートが必要になってくるわけです。以下、具体的にご紹介いたします。

(1)加訳

 1)話し手にとっては既知の情報であるが、聞き手にとっては未知の新情報を通訳する場合は、限られた通訳時間内でできるだけ具体的なイメージを与えることが必要です。

 例:門司港レトロ

 日本語原文:「今日、皆さんは門司港レトロに行かれるそうですが、充分に楽しんできてください。」中国語通訳:「今日、皆さんは門司港レトロに行かれるそうですが、ここには20世紀初頭に建てられた欧風建築物がたくさん集積されており、ここはレトロな雰囲気に満ちた遊覧地区です。充分に楽しんできてください。」

 ポイント1.加訳を行う。(太字部分)

 ポイント2.「レトロ」は定訳を通訳者が独自に作る。ex.怀旧游览区

 2)固有名詞の定着化

 例:北九州北九州~都市なのか、地域なのか。特にパンフレット作成には要注意。

 「北九州」という都市名が中国人にとって新情報である場合、「九州北部」と間違う中国人がいます。「北九州」では固有名詞としての安定性に欠けるので、「北九州市」としたほうが分かりやすい。

 3)行政単位の違いに注意

 「県」と「市」は日本と中国では行政レベルの上下関係が逆なので、その補足説明が必要な場合があります。

 4)訳語の適正が判断できない時の加訳

 例:動脈産業と静脈産業は車の両輪(環境保全関係)

 「車の両輪」(车之两轮)という比喩表現が中国人に通用するかどうか判断できない時は加訳を行います。

 訳例:动脉产业和静脉产业如车之两轮,两者相辅相成,缺一不可

(2)意訳

 例1.語義を正確に理解することが必要。日本語の「会議」は「会议」と「会议机构」の訳し分けが必要な場合があります。「会議」と「会議機構」「東アジア都市会議が第三回市長会議を北九州市で開催しました」

 东亚城市会议(机构、组织)在北九州市召开了第三次市长会议。

 例2.いつもご迷惑をおかけしています。(日本語に引きずられないこと)場面に応じて訳し分けが必要

 ×我们一直给你们添麻烦,真对不起。

 ○非常感谢你们一直以来给予我们的支持和帮助。

 例3.ちょっとお寄りしました。(言語習慣の違い)北京に来ましたので、ちょっと時間があってお寄りしました。

 日本語的発想の中国語:这次我们到北京来,今天有空临时(顺便)来拜访你了。

 北京に来まして、今日は時間があったので、ついでにあなたを訪問しました。

 中国語的発想:我们到北京来,今天抽出时间特地来拜访你了。

 北京にきまして、今日は時間を割いてあなたをわざわざ訪問しました。

 例4.論理展開の仕方

 日本人の話し方:謙遜した表現例文:「当社は零細企業で今までに中国との取引経験もありませんが、当社の発展のためにぜひとも中国に進出したいと思っております。ご指導のほどよろしくお願いいたします。」(消極的で曖昧な表現)

 上記例文の中国語通訳例は以下のとおり「当社の規模は決して大きくはありませんが、当社をさらに発展させるために中国との取引を積極的に促進していきます。そこで、貴社との協力関係を深めていきたいと希望いたします。」(積極的で具体的な表現)

 *上記通訳は決して誤訳をしているわけではなく、積極的な表現に改めたものであり、中国語側に良い印象を与えるためのものです。この例でお分かりのように、通訳者はまさにコーディネーターでなければならないと思うわけです。

(3)倒訳

 a)論理的倒訳

 日本人の論理展開:説明→結論、原因→結果

 中国人の論理展開:結論→説明、結果→原因

 日本人の表現の仕方は曖昧であるとよく言われますが、これは論理展開の仕方に起因すると思われます。最初から結論を言ってしまったのでは露骨すぎて、身も蓋もない、相手に失礼であると日本人は感じてしまうようです。これは日本人特有のものであり日本人社会では円滑なコミュニケーションをはかるために良い働きをしていると思いますが、国際社会においては摩擦を起こすかもしれません。一方、中国人は合理性を重んじるようです。最初に結論を言ってから、その後でその結論に到った説明をするというパターンが多いようです。あまりに最初の説明が長いと、何を話しているのか話の趣旨が途中で分からなくなる場合すらあります。従って、通訳者は先に結論、Yes No を言って、または要旨を述べて、その後に詳細な説明をするという論理展開に基づく通訳を心がけるべきでしょう。

 b)語順の倒訳

 通訳者は論理的思考に基づいて語順を意識することが必要です。日本人には曖昧な発言が多く、通訳に困ることがあります。そういうときは論理的に発言内容を頭の中で整理して、語順を決めていく訓練が有効的であると思います。

 例:×我が国の経済を活性化させ、規制緩和を実現するために・・・

 ○規制緩和を実現→経済活性化

(4)主語を意識しながら文章を組み立てる

 日本語は主語を省略して話しても意味は通じますし、逆に主語を入れすぎるとぎこちない日本語になってしまいます。しかし、中国語の場合には基本的には主語を補う必要がありますから、日本語の中から主語を特定する、または主語、主題を作り出す中国語構文を考える訓練が必要です。普段から主語を意識して考える習慣を身につけると良いと思います。

(5)短文化

 中国語は長いセンテンスを嫌うので、できるだけ文章を短く切って整理しながら、たたみかけるように通訳するほうがよいでしょう。日本語では発言者が1センテンスの中にたくさんの情報を入れ込もうとする傾向にあります。それをそのまま直訳式で通訳しようとすると、息切れして失敗することがあります。この場合は文章を出来るだけ短い情報単位に区切って、論理の順序に合わせて語順を決めながら通訳する方が上手くいくと思います。

 例:北九州市は九州の最北端に位置する人口100万人を有する重化学工業を中心とする都市です。

 北九州市位于九州岛北端,人口有100万人,是以重化学工业为主的城市。

(6)数字の記憶の仕方

  数字を聞くと同時にそれを直ぐにアウトプットできれば問題はないわけですが、それができないときはどうすればよいか。その時は、発話された数字を一度丸ごと音声として捉えて、その音声を頭の中で反復させると同時にメモするまたは頭の中で数字化する方法を採ります。もちろん、反復とはいっても時間にすれば、わずか2~3秒のことであり、これも数字の音声を文字化する時の反応法のひとつであると思います。

(7)曖昧な日本語

 日本語には訳しにくい言葉があり、その発言内容のコンテキスト(語境)に合わせて訳し分けが必要な場合があります。以下、例を挙げてみます。

 1.整備(せいび):

 新建、改建、扩建、完善、完备

 例:上下水道、道路の整備、市街地、埋立造成地の工業団地、空港

 2.取り組み:

 国語辞典の解釈では「熱心に事にあたる」、「処理すべき事柄に熱心に立ち向かう」となっています。つまり、何かの目的を達成するために、実現するために、何らかの対策、手段をとって、努力することです。中国語には「取り組み」という言葉の定訳がありませんから、コンテキストにあわせて訳し分けが必要になってきます。

 「取り組み」訳語のキーワード:

 专心、认真、努力、致力于、为实现~、采取措施

 3.仕組み、仕掛け:

 机制、结构、体系、体制、制度、方式、手段

 4.枠組:

 框架、体制、体系、制度

 5.協力:

 合作、协作、协助、支持

 合作、协作~ 対等の立場「矢印は双方向」

 协助、支持~ 一方がもう一方を傍らから助ける「矢印は単一方向」

 通訳メモ:日中通訳の場合はコンテキストに合わせて訳し分けが必要であり、このような点から見ると中国語の方が合理的であり、中日通訳のほうが日中通訳よりもやりやすいという一面があります。つまり、日本人の発言はそのまま訳しても中国語にならず、逆に中国人の発言はそのまま訳してもきちんとした日本語になりやすいということです。

 6.元号換算:

  日本語の元号を中国語に通訳する場合は西暦に換算して通訳します。換算法は下記のとおりです。通訳者はこの換算法に基づき、即時に西暦に換算して通訳する必要があります。

 平成?年=1900+(?+88)年

 昭和?年=1900+(?+25)年

 大正?年=1900+(?+11)年

 明治?年=1900+(?-33)年

(8)中日翻訳における注意点

 中日通訳の場合はできるだけ漢語は避けて、大和言葉を使った方が良いと思います。漢語は同音異義語が多く、漢語を多用すると聞き手にとっても聞きづらい日本語になってしまいます。中国語の漢字に引きずられず、大和言葉を使ったこなれた通訳表現を心がけるべきでしょう。そのほうが通訳作業もスムーズにいくという実感があります。

(9)日本人と中国人の言語表現・習慣の違い(日本人から見た場合)

 例1.信心

 中国語に「信心」という語があります。下記の例を見てください。この表現は日本語に直訳すれば下記直訳のとおりです。このまま直訳で通訳すると、日本人であればたぶん、「この人は自信過剰だな!態度が大きいし、謙虚さがない、かえって不信感すら感じる」となるのではないでしょうか。これは中国人から言えば、積極性、主体性のある決意表明であり、プラス思考であるわけです。しかし、この言葉は日本人の耳にはなじみません。そこで、日本人向けに通訳する時、下記のように意訳してはいかがでしょうか。

 我有信心完成这个任务。

 直訳:私にはこの仕事をやり遂げる自信があります。

 意訳:この仕事をやり遂げるよう最善を尽くしたいと思います。

 通訳雑感:「信心」とリンクする言葉「没问题」

 中国語の「没問題」も「~有自信・・・」と同様に、ある種の決意表明、努力目標のニュアンスを含む表現ではないでしょうか。 日本人が日本社会で「問題ありません」と言われれば、相手はそれなりに確信と責任を持って言っているのであり、尊重すべき発言と受けとめるでしょう。ところが、中国語の「没問題」は日本語の「問題ありません」と比較して相対的に軽く、同一視しないほうがよいでしょう。これは別に善し悪しの問題ではなく、社会システム、言語習慣の違いに起因するのではないでしょうか。直訳=意訳ではないということです。

 例2.责任:那不是我的责任。

 直訳:それは私の責任ではありません。

 意訳:それは私の担当ではありません。

 例3.「知道」という語

 直訳式:分かっています。知っています。

 日本語的意訳:おっしゃるとおりです。→日本人が中国人から「我知道」と言われると、「それは言われなくても分かっています」というような強い語感を感じることがあります。中国人は「知道」、「不知道」とはっきり言います。これは別に相手を詰問しているわけではなく、中国人の普通の言語表現です。日本人の場合は「おっしゃるとおりです」、「それはちょっと分かりません」などと婉曲的で柔らかい表現を使いますから、そのように感じるのでしょう。

 例4.名前の呼び方

 日本:“さん”などの敬称をつけるのが丁寧な言い方

 中国:「先生」などの敬称略で相手の姓を呼ぶのは親しみのこもった気持ちをあらわす。→この習慣を知らないと、日本人は自分の名前が呼び捨てにされたと思い、気分を害する人がいるかもしれません。

 例5.電話の対応

  中国に電話を掛けた時、相手側からいきなりぶっきらぼうに“你是谁呀?”と言われて一瞬驚くことがあります。そして、電話の相手が自分の知り合いの日本人だとわかると急に口調が丁寧になってきます。また、中国から“~さん、いますか”と電話が掛かってきた時、“どなたですか”と2回ほど聞き返すと、相手からは強い口調で“~さんはいるのですか、いないのですか”という強い口調の返事が返ってきます。こちらが本人だと分かると口調が丁寧になる。これは日本人の習慣にはないものです。つまり、中国語では知り合い(自己人)には親切だが、部外者(外人)に対しては素っ気ないということです。決してこちらに対して個別的な悪意を持っているわけではありません。これも最近ではかなり変化が見られ、中国の企業へ電話した時にはやさしく対応してくれるようになりつつあります。

 例6.社交辞令について

 社交辞令においても具体的に考え表現する習慣が必要ではないか

 例)日本人が中国の友人に例えば「青島は最近どうですか?」と聞きました。それに対する中国の友人の返答は「何がですか?」でした。その時、日本人は自分が相手に「青島の何について」聞こうとしていたのか具体的に何も考えておらず、空疎な社交辞令の言葉に気づくということがあります。これも言語習慣、発想法の違いを示す一例でしょう。

(10)ヒアリング対策

 1.新語に常に関心を持ち続け、吸収すること。

 インターネットおすすめサイト:

 共同通信社の中国語サイト http://china.kyodo.co.jp/

 スカイパーフェクト・テレビ~衛星放送

 2.略語に対する警戒心、略語を見抜く感性を磨くことが必要

 普段から語彙の簡略構造、簡略の仕方に注意を払うことが必要です。

 例:南科(南部科学工業園区)、竹科(新竹科学工業園区)、周总(周総経理)

 3.習慣的な言い方

  商談で工場を訪問した時のことですが、まず双方の紹介から始まりました。その時、中国側にはなんと工場長が4人もいました。そこで、どの人が工場長だと再確認すると、みんな工場長だというのです。すなわち、中国では相手を尊敬する意味で、口語では「副」を省略する習慣があります。その工場には一人の工場長と3人の各部門担当の副工場長がいたわけです。中国側はそれを既知のこととして日本側に説明しません。これも中国的な習慣のひとつであり、通訳としては当然心得ておくべきことであったわけです。

 4.方言対策

 通訳には方言に関する知識も必要であると思います。標準語と各地の方言では発音が規則的に異なっていますから、その変化の規則性を覚えていると役に立ちます。なかなか容易なことではありませんが、耳を鍛えるとともに文脈から類推する力を養うことも必要です。

 例:希望または企望?:Qi Meng(タイの華僑)

(11)人称について

 通訳するとき、文章の最初に「他说」をつけてはいけません。通訳者本人は黒子になりきるわけであり、通訳者個人の人称「我」は存在しませんから、通訳文の頭に「他说」をつけてはいけません。発言者と同じ人称の立場で通訳する必要があります。

(12)発言者の話をよく聞くこと

  日中双方に通訳がいて、中国側発言者の話を中国側の通訳が通訳をしているとき、日本側通訳者は気を抜いてはいけません。中国側の発言内容と中国側通訳の通訳する日本語を対照させながらよく聞いておかなければなりません。それを怠ると後でつけが回ってきます。すなわち、日本側が中国側の言葉を受けて、同じ言葉を中国側に返す時、もし日本側の通訳がその言葉の中国語を知らない、または聞き取っていなかった時、通訳はうまくいきません。特に地名、人名などの固有名詞、専門用語、引用などに顕著にその影響がでてきます。

 例1:スワップ協定:货币互换协定 ~金融専門用語

 例2:现代中国是要看天津。 ~引用

(13)つなぎの言葉:

  通訳の途中で沈黙しないこと通訳の途中で言葉がつまった時は沈黙せずに何かつなぎの言葉を見つけて発話したほうがいいでしょう。通訳が黙り込んでしまうと、発言者は通訳が終わったと思って、話を次に進めていきます。たとえば、 就是说、我的意思是说 などの言葉を少しゆっくりしたスピードで口にしながら、時間稼ぎをしてその間に表現法を考えるといいでしょう。とはいってもわずか数秒にしかなりませんが、これもひとつの方法です。しかし、乱用は禁物ですし、また必要もないのに、 这个、那个 を連発するのもよくありません。これは聞き手にとってはとても耳障りなので、この癖は直した方が良いでしょう。

(14)変訳

 戦争をイメージさせる言葉の通訳には注意が必要だと思います。中国語通訳は日中関係の歴史を充分に理解・認識し、不用意な発言内容の通訳には工夫をしなければなりません。

 例:異国情緒あふれるXXX、戦前から中国大陸との貿易の窓口であったXXX、昔から多くの外国人で栄えた国際都市-上海

3.通訳練習法

 (1)速読訓練

 目的:通訳時間は発言者の発言時間を超えてはならないというのが基本ですが、実際にはそれが難しい場合もあります。通訳テクニックの加訳のところで述べましたように、補足的説明を要する場面では通訳は発言者よりも多くの言葉を費やさなければなりません。そこで、どうしても通訳のスピードを適宜上げざるを得ません。そこで、普段から速いスピードで話せるように訓練する必要があります。私の経験から言いますと、本を大きな声で速読するのも良い方法だと思います。その時の注意点として以下のとおり声調・発音の正確さ、強弱アクセント、呼吸の入れ方が挙げられます。

 1)声調、発音の正確さと読む速度

  読む速度を上げると、発音が不正確になり、声調が不安定になり、抑揚がなくなり、平坦な話し方になってしまいます。逆に声調に重点を置くと、発音は正確になりますが、スピードが落ちてしまいます。しかし、この問題は訓練を重ねることにより克服できると思います。日本語は高低アクセントであり、中国語の声調(四声)のメロディーのような抑揚はありませんから、注意を怠ると日本語の癖が出てしまい、上がり下がりのない平坦な中国語になってしまいます。そこで、日本人が中国語らしい中国語を話すためには、声調の一声を高く維持し発音するように心掛ければいいと思います。そうすれば音域が広くなり、2声、3声、4声も抑揚がもっと鮮明になり、中国語らしくなります。1声が低いのが日本人の中国語の欠点のように思います。

 2)呼吸の入れ方

 意味単位で呼吸(ポーズ)を入れたり強弱アクセントをつけることによって、聞き手にわかりやすい中国語になります。すべての音節を等間隔で一本調子に話すとメリハリがなくなり、意味の取りにくい聞きづらい中国語になってしまいます。

 3)通訳に必要なスピード感

 入門・初級段階でゆっくり読む癖を付けてしまうと、中級段階になってもなかなかスピード感のある中国語は話せないように思います。従って、すこしきついかもしれませんが、入門・初級段階から速いスピードでメリハリのある中国語を話す訓練をしたほうがいいと思います。学習が進み中級段階になってからスピードを上げようと思ってもなかなか難しいと思います。それではなぜスピード感が必要かと言いますと、「加訳」と関係があります。日本人の発言者にとっては既知の情報であっても聞き手にとっては未知の新しい情報である場合、通訳者はその新情報を補足説明的に通訳をしなければなりません。そうすると、発言者の日本語分量と比較して、通訳する中国語の分量が増えてしまい、通訳のスピードを上げないと、発言者の発言時間と通訳者の通訳時間のバランスが崩れてしまいます。発言者が少ししか話していないのに、通訳が長すぎるという違和感を与えてしまうわけです。それを避けるために通訳のスピードアップが求められる場合があります。

4.通訳者はコーディネーター

 (1)商談通訳を行う時の注意事項

  商談通訳をおこなう時、例えば合作企業(合作企业)と合弁会社(合资企业)の違いなどビジネス用語の定義を理解しておく必要があります。また、商談の中で数字が飛び交うとき、通貨単位を確認することも大切です。商談通訳をする場合は、通訳者自信が中国ビジネスの現場経験者であったほうが望ましいと思います。

 (2)暗喩について

 1)日本人が好きな天気の話には要注意日本人は面談の席で話の口火を切る時、よく天気の話をします。天気が良いときは良いのですが、大雨、台風など天気の悪い時は中国側に対して天気の話はしないほうが良いでしょう。特に中国側が日本を訪問してきた時、「今日はあいにく天気が悪くて・・」と話し始めると、中国側が悪い天気を持ってきたという不吉な暗喩を含むことになる場合があります。「今日は皆さんが良い天気を持ってきてくれました」というのであれば、友好ムードでいいのですが、その逆は避けたほうが良いでしょう。このような場面では通訳にも工夫が必要だと思います。例えば、雨であれば「及时雨」、「留客的雨」などです。

 2)中国人へのお土産

  中国人へのお土産としては、ハンカチ、傘、置き時計、掛け時計などは縁起がよくないので避けたほうがよいと思います。また、風呂敷もよくないようです。「風呂敷」には中国語では暗喩として「精神的な負担、重荷、圧力、悩みの種」などの意味があります。中国人へのお土産としては相応しくありません。

5.通訳で気になる事

 (1)単語や言い回しを変えながら同じ事を繰り返して言う日本人

 例:えー、本日は皆様ようこそおいでくださいました。私はただいまご紹介を賜りましたXXXと申します。皆様のXXX市ご訪問を心から歓迎申し上げます。(通訳)

*この例は「ようこそおいでくださいました」、「心から歓迎申し上げます」と同じことを表現を変えて二度言っている。

 (2)羅列的表現の多い日本語(話の途中で急に話題が変わり、文脈の前後の内容に関連性が見られず、話の主旨が不明瞭になる。)

 (3)我们,咱们について

 「咱们」は聞き手を含む「私たち」ですが、「我们」は聞き手を含まない場合と含む場合があります。従って、商談、協議などの場面で「我们」が出てきた時は確認する必要があります。特に契約に関する双方の責任分担、免責事項などの通訳をする場合は、「我方」、「贵方」、「我们双方」などの表現を使い、間違いを避ける工夫をしたほうがよいと思います。相手側が「我们」と言ったので相手側のことと思っていたら、実はこちら側も含まれた意味の発言であったということもあります。このような初歩的な間違いは避けたいものです。

6.通訳での失敗談

 例1.会见:会見を受ける側が主語となり、会見を求める側が目的語の位置になる。逆にならないように注意すること。

 例2.退休,辞职:「退休」は定年退職、「辞职」は単に勤めている会社などを辞めることを意味します。例えば、若い人がある会社を辞めたときに、「我退休了」とは言えないわけです。

7.スピーカー、クライアントへの要望

 (1)スピーカーが手持ち原稿を読み上げる場合

  特にスピーカーがスピーチ原稿をそのまま読み上げるようなスタイルを採るときは、必ず事前にスピーチ原稿を通訳者へ提供してほしいと思います。スピーチ原稿は事前に文章がよく練られており、要旨が無駄なく凝縮して盛りこまれていて、文章に冗長性がありません。その場合、通訳者にスピーチ原稿が事前に渡されていない状態で即席通訳をおこなう時、通訳者にはその原稿を充分に練って等質の凝縮した通訳文にまとめる時間的余裕はありません。通訳者としては、その文章を一度分解して、スピーチ内容の主旨をピックアップし再構築しながら通訳することになります。これは通訳にとっては不利な状況にあります。一方、スピーカーがスピーチ原稿を持たずに即席でスピーチする場合は、もちろん通訳者にも原稿は必要ありません。その場合、スピーカーは言葉を選びながら話していますから、冗長性のあるゆっくりした話し方をすることになります。当然、言い回し、語彙なども事前準備のスピーチ原稿のように練られた難しいものにはなりません。この場合はスピーカーと通訳者が同じ土俵の上で渡り合っていることになると言えるでしょう。すなわち、スピーカーが手持ち原稿を持っていながら、通訳者にその原稿が与えられていないというのは、スピーカーと通訳者が同じスタートラインに立っていないということです。これではせっかくの名演説も台無しになってしまうでしょう。

 (2)通訳内容に関する情報・資料の提供

  通訳にとってまず大切なのは、通訳内容を事前に充分理解しておくということです。もちろん、専門用語などの訳語の調査・準備は必要ですが、それとともに通訳内容に関する具体的な状況、例えば今までの交渉過程や仕事の流れ、当事者の人間関係、各種専門・技術分野であれば、それに関する基本的知識などを理解しておくことが必要です。そこで、通訳としてはクライアントができるだけ多くの関連情報・資料を提供してくださるように希望いたします。

以 上

 

 

 

 

 

 【学習コンテンツ】へもどる |  ホームページへもどる