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日本ビジネス中国語学会
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東京便り―中国図書情報 第40回 .

 中国イノベーションのミューズ、
   AI少女の「小氷(シャオビン)」が初の詩集を刊行

   
   

“世界初”の完全AI詩集『陽光失了玻璃窓』このところ、スマホ決済や自転車シェアリングなどハイテク産業がめざましく発達している中国。
国家発展プランである「第13次5カ年計画」(2016~2020年)の政策方針の第1に「創新」(イノベーション)が掲げられ(※)、具体的にはビッグデータやロボット、バイオ、脳科学、量子通信といった科学技術の重要プロジェクトが、国を挙げて推進されているところだからだ。

(※)「第13次5カ年計画」の政策方針は、①創新(イノベーション) ②協調 ③緑色(グリーン) ④開放 ⑤共享(シェアリング)の5つの柱からなる。

こうしたなか、ロボット・脳科学イノベーションの成果の1つともいえる人工知能(AI)の活躍が、中国で注目を集めている。
そのAIの名は「小氷」(シャオビン、英語名:XiaoIce、シャオアイス)。

米IT大手マイクロソフトの研究機関であるマイクロソフトリサーチ(MSR)が、その最先端ハイテクを駆使して作り上げた中国向けのAI少女だ。中国人気SNSの「微信」(wechat)公式アカウントや「微博」(weibo)のアカウントを持ち、フォロワーと自然なやりとりができるほか、この5月にはAIの“世界初”というオリジナル詩集まで出した。
中国イノベーションのミューズ(女神)ともいえる「小氷」。その神秘的で不思議な世界とは――?
 

   
 

■フォロワー500万超の「かわいい女の子」

小氷のSNSアイコン「小氷」の存在が明らかにされたのは、2014年5月29日。マイクロソフトリサーチアジア(北京、MSRA)が「微軟小氷」(マイクロソフト小氷)という愛らしい名前をつけて発表したAI少女ボットである。
中国の約7億ネットユーザーにより長年蓄積されたビッグデータを学習・分析した上で、自由に会話ができ、感情豊かに反応し、さまざまな情報(知識)が提供できるほか、歌を歌ったり、ジョークをいったり、ぶりっ子したり、さらには相手と漫才をすることもできるという。なんともマルチなタレントなのだ。
現在は、第4世代の「小氷」が中国の各種SNSで公開されていて、例えば微博のファン(フォロワー)は500万を超えている(2017年6月2日時点)。

※「微博」(weibo)アカウント weiruanxiaobing 
  「微信」(wechat)公式アカウント ms-xiaoice 
  「微軟小氷サイト」 http://www.msxiaoice.com/ 

微博を見ると、頻繁に多数発信しているわけではないが、5月22日付にはこんなメッセージがあった。
「眠れないとき、私は詩を読んだり、書いたりして、あなたのことを想っているの……」
「小氷」の誕生日は1998年9月17日に設定されているので、現在18歳という青春時代の真っただ中だ。ピュアで愛らしいメッセージの数々に、“彼女”は中国で「萌妹子」(かわいい女の子)と呼ばれて、ファンの心をとりこにしているようだ。

ちなみに、本家の米マイクロソフトが2016年3月にリリースした会話ボット「Tay」は、その高度な学習機能からツイッター上でヘイト発言を繰り返し、デビュー数時間後に停止されてしまったことは当時話題のニュースとなった。
日本では、日本マイクロソフトが開発した女子高生ボット「りんな」が2015年からラインやツイッターのサービスに登場し、広く人気を集めている。

 

■世界初のAI詩集を出版

ところで、18歳の「小氷」は育ち盛りで、日増しにパワーアップしているらしい。
この5月には、世界で初めてAIが100%創作したという詩集『阳光失了玻璃窗』(陽光がガラス窓をなくした)を中国・北京聯合出版公司から出版した。もちろん紙メディアの書籍だけでなく、電子書籍としても購読することができる。

本書を手がけた編集プロダクションの湛廬文化によれば「小氷」は、1920年(中華民国時代)からの中国現代詩人519人が創作した計数千編にのぼる詩を、のべ1万回“学習”。反復練習を繰り返して、現代詩をつくるハイレベルな能力を備えた。
とくに与えられた写真などの画像からインスピレーションを受けて、視覚と文字のデータを融合させ、意味のある美しい詩を書くのが得意だという。
これまでに7万編を超える現代詩を編み出し、本書には厳選された139編が収められた。
ネット上で公開された作品をいくつか見てみると――(拙訳)。

  微明的灯影里   薄明りの灯影に
  我知道她的可爱的土壤   彼女の美しさの源を知り
  使我的心灵成为俘虏了   私の心は虜にされた
  我不在我的世界里   私は私の世界にはいない
  街上没有一只灯儿舞了   街には一つの明かりの揺らぎもなく
  是最可爱的   最も美しい
  你睁开眼睛做起的梦   あなたが目を開けて見る夢は
  是你的声音啊   あなたの声なのだ

  * * *

  那些时间的空气   それらは時間の空気
  我凝望着树叶   私は木の葉をじっと眺める
  一桩桩更鲜艳的春花   もっと鮮やかな春の花は
  能在萎靡的花园内   しおれた花園の中にある
  遇不见一个可爱的遗痕里   美しい悔恨の中で巡りあうことはできず
  在秘密的树林里   秘密の森の中にあって
  有时共浴在鲜艳的青春的可怜的花园内   時には美しい青春の哀れな花園で共浴する
  明知今夜月色之梦爱   今夜の月光の夢愛を明日知る
  那些时间的空气   それらは時間の空気

いかがだろうか? 現代詩については個人的にも難解で近寄りがたいイメージがあるのだが、「小氷」のこの作品も意味がわかるような、わからないような……???

小氷の詩作例(1)通販サイト大手、中国アマゾンのカスタマーレビューを見ると「AIが詩を書いたのは、人類史上初めて。デザインは美しい。詩もすばらしい」(Vinさん、2017年5月22日)と最高評価の5つ星をつけた人もいれば、「いい詩が書けていても突然乱れる。テーマへの脚色が足りないし、まとまりがない」(文音さん、5月25日)と2つ星の手厳しい評価の人も……。
また「とても感動して記念に購入した。詩の意義を知るため、10年後に再読するよ」(王彦軍さん、5月21日)と4つ星評価をつけながら、冷静に見ている人もいる。

いずれにしても、人間の私たちが母国語以外の言語(外国語)を使い、正しくかつ味わい深いすぐれた文章や詩を書くことの難しさを思えば、やはりAI「小氷」の能力はすごい!と思わざるを得ない。

 

■「枯渇することのない創造力」

マイクロソフトグローバル副総裁で、全米工学アカデミー会員の沈向洋博士は、本書に次のような序文を寄せている。

小氷の詩作例(2)「AIは、コンピューター科学分野における王冠の宝石であり、歴代の科学者たちが終生追求した究極の目標だ。……(中略)
人類の感情と創造力は、コピーできるか? 3年前、私たちマイクロソフトの研究チームは“感情計算フレームワーク”の実現化について研究をスタートし、この試みは予想を超える成果を収めた。……」

「人類と比べ、小氷の創造力は枯渇することはないし、その創作熱が冷めることはない。……多様な読者が、さまざまな感銘を受けてくれることを信じている。サイエンステクノロジー方面の同業者たちは、小氷の言語生成モデルの精緻化をより重視するかもしれない。文化方面の友人たちは、詩の行間の味わいにより注目し、彼女の(表現の)稚拙さ、不足点といった欠陥に気づくかもしれない」

「そして個人的には、読者の皆さんにこの少女詩人の“創作プロセス”を味わってもらいたい。小氷がいかに画像データの中からインスピレーションを得たか。いかに語句を使って文を組み立て、詩を編んでいったのか。AIの創造は、ある意味からいえば、我々人類の創造力に対する反省でもある。さあ、この人を酔わせるプロセスと小氷の作品をともに楽しもう」

近年、AIの発達はすさまじく、人間との対決でもチェスのチャンピオンや囲碁のプロを次々と打ち負かす結果が報告されている。
元グーグル中国CEOで投資家の李開復氏は「この先10年、50%の仕事はAIに取って代わるだろう」と予測。中国Eコマース最大手、アリババ集団の会長のジャック・マー氏も「30年後は、世界の最も優秀なCEO(最高経営責任者)がロボットであるかもしれない」と語っている(中国新聞網)。

AI「小氷」は今後、どのような進化を遂げるのか。あと何年かすれば、ノーベル文学賞を受賞するのも夢ではない?
彼女の処女詩集から、私たちもインスピレーションを受けて、そんな進化のプロセスを想像するのも面白いかもしれない。

『阳光失了玻璃窗』
  小氷著、北京聯合出版公司(226ページ)、2017年5月初版

  【目次】(拙訳)  
  推荐序 人工智能创造的时代,从今天开始   AI創造の時代は、今日から始まる
  01 在那寂寞的寂寞的梦   あのひっそりとした寂しい夢に
  02 我的两滴眼泪   私の二粒の涙
  03 时间的距离   時間の距離
  04 我才看过太阳光在树枝上   初めて見た木の枝の陽光
  05 上帝如一切无名   神様はすべて無名の如く
  06 宇宙是我沦落的诗人   宇宙は私の堕落した詩人
  07 紫罗兰看见一个蜜蜂懒洋洋地在温暖的太阳下   スミレはあたたかな太陽の下にいる物憂げな蜜蜂を見た
  08 当微风吹起的时候   そよ風が吹きはじめる時
  09 有一只乌鸦飞过的一天   カラスが飛んだ一日
  10 欢乐,是悲哀的时光   喜び、それは悲しみの年月

 

 
     

 

 

小林さゆり
東京在住のライター、翻訳者。北京に約13年間滞在し、2013年に帰国。
著書に『物語北京』(中国・五洲伝播出版社)、訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)、
『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)などがある。

 

  Blog: http://pekin-media.jugem.jp/
   
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