■ 「中国の出版事情はいま」
中国・北京でこのほど、国内最大級の国際ブックフェア「2016 第23回北京国際図書博覧会(BIBF)」(8月24~28日)が開催された。
ここでは、会期中明らかにされた最新の中国出版事情について、ポイントとなるデータをいくつかピックアップしてみたい。
★2015年、中国出版業の総売上高は前年比8.5%増に
2015年、中国の出版・印刷・発行業における総売上高は、2兆1655億9000万元(1元は約15円)で、前年比8.5%増だった。
2015年、中国の図書(書籍)発行部数は、計86億6000万部で、前年比5.8%増だった。
図書出版における売上高は、822億6000万元で、前年比4.0%増。利益総額は125億3000万元で、前年比7.0%増だった。
★2015年、出版図書は47万6000点、前年比増も「量から質へ」
2015年、中国全国で出版された図書は計47万6000点で、前年比6.1%増。
そのうち、再版点数は約21万5000点(同11.9%増)、新刊点数は約26万点(同1.8%増)。
図書の再版と新刊の比率は、2014年の1対1.3から、2015年は1対1.2となった。
中国のメディアを監督する国家新聞出版広電総局によれば、これは中国出版業が出版そのものの目標を「量から質へ」転換していることの表れだという。
※ ちなみに2014年の統計だが、日本の書籍の新刊点数は7万6465点、その発行部数は10億8398万冊だったという(「出版業界ニュースフラッシュ」2015年1月第5週より)。
統計年が異なるが、新刊点数だけで比べると、中国は1年あたり日本のざっと3倍余りの新刊を出していることになる。
このほか、2015年の中国デジタル出版産業の売上高は、過去最高となる4403億9000万元で、前年比30%増だったという。
★2016年上半期、外国作品が売り上げ伸ばす
BIBFではまた、2016年上半期の全国ベストセラーランキングが発表され、文芸部門では外国人作家の作品がズラリ上位を占めるという驚愕の結果となった。
トップ5までは、順に――
1、『追風筝的人』(日本語題:カイト・ランナー)
(米)カーレド・ホッセイニ著、李継宏・訳 上海人民出版社(2006年5月 第1版)
2、『解憂雑貨店』(原題:ナミヤ雑貨店の奇蹟)
(日)東野圭吾・著、李盈春・訳、南海出版公司(2014年5月 第1版)
3、『三体』
劉慈欣・著、重慶出版社(第1部:2008年1月 第1版)
※ 2015年第73回ヒューゴー賞を受賞した中国SF小説
4、『龍族』
江南・著、長江出版社(第1部:2010年4月 第1版)
※ 中国でロングセラーの長編冒険ファンタジー
5、『白夜行』
(日)東野圭吾・著、劉姿君・訳、南海出版公司(2008年12月 第1版)
という結果であり、うち2作が日本の推理作家、東野圭吾の作品だった。
このほか、文芸部門のベストセラーとして挙がったのが、東野圭吾の『嫌疑人X的献身』(原題:容疑者Xの献身)、南米コロンビアのノーベル賞作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年孤独』(日本語題:百年の孤独)、英作家クレア・マクフォールの『摆渡人』(渡し守)、米作家ガブリエル・ゼヴィンの『島上書店』(日本語題:書店主フィクリーのものがたり)、仏作家マルク・レヴィの『偸影子的人』(影を盗む人)、そして中国の作家、路遥の『平凡的世界』(平凡な世界)全3巻など。
文芸ベストセラー上位のほとんどが外国人作家の作品で占められるという、驚きのラインナップとなった。
上半期のランキングについて、中国のある出版関係者は「いまや国内の購読者の主力は“90後”(1990年代生まれ)、つまり今年17~26歳の若い世代に移行している。この文芸ランキングからは、中国の若者たちに日本のベストセラー作家の作品や、SF小説、ミステリー小説が人気であることが見て取れる。読者の興味は目まぐるしく変わっているが、いずれにせよ2016年上半期は、現代中国文学よりも外国文学のほうがブームであったことは間違いない」と分析している(新華網、北京日報、北京晩報)。
中国語圏の流行語に、主に日本発のサブカルチャーであるアニメ、コミック、ゲームを総称した「ACG」という言葉があるが、最近ではそこにノベル(小説)が加わり「ACGN」と呼ばれている。
流行語として広まるほど人気を集める日本の文学……。中国のトレンドを占うベストセラーランキングが今後どう変化していくか、興味は尽きない。
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