■ 日中ボランティア仲間で翻訳、9年目についに刊行!
『はだしのゲン』は、広島で被爆した漫画家の中沢氏が、自身の体験などをもとに1973年から少年誌で連載した自伝的漫画。原爆投下後の惨状の中、強くたくましく生き抜こうとする主人公・中岡元(ゲン)の姿を、独特のタッチでリアルに描き出している。
単行本、文庫本などを含めた累計発行部数は1000万部を超え、時代を経てたびたび映画化(実写/アニメ版)、テレビドラマ化された。
作者の中沢氏自身が2002年、平和に貢献した個人や団体に贈られる「谷本清平和賞」を受賞したほか、2004年にはこの作品がヨーロッパ最大級の漫画祭でフランスの「アングレーム国際漫画祭」で「環境保護に関する最優秀コミック賞」を受賞している。
『はだしのゲン』繁体字版のタイトルは、『赤腳阿元』。原題をそのまま生かしたタイトルが採用された形となった。
翻訳版は1976年から、金沢の翻訳ボランティアグループ「プロジェクト・ゲン」の主導でロシア語、英語、朝鮮語、スペイン語、タイ語、フランス語、ポーランド語などが各国で出版されてきたが、中国語版はこれまで実現していなかった。
坂東さんは、『はだしのゲン』中国語訳に挑んだ経緯についてこう語る。
「私の出身は名古屋で広島ではありませんが、1990年に原発事故から4年後のチェルノブイリを訪れ、想像を絶する事故後の惨状を目のあたりにしました。その後、北京の中国国際放送局でアナウンスの仕事をしていた時に、チェルノブイリの救援活動でお世話になった浅妻南海江さん(「プロジェクト・ゲン」代表)が『はだしのゲン』のロシア語版を全巻翻訳出版して、北京まで送ってくれたのです」
「それを局のロシア語部のロシア人に見せたら、感動していました。偶然、タイ語部のタイ人の友人は、英語版から2巻までを翻訳していたこともわかり、後に本国へ帰った友人は全10巻を出版して、発表するバンコクの国際ブックフェアに招いてくれました。その時、中国語版を作るのは自分の仕事ではないかと思ったのです」
国際色豊かな職場でのつながりが、中国語版を作るキッカケと原動力になったようだ。
帰国後の2007年から取り組んだ翻訳には「ともに世界平和に貢献しよう」という坂東さんの呼びかけに賛同した、北京の元同僚や日本の漫画・アニメが好きな若者たちと取り組んだ。計7人からなるボランティアの日中翻訳グループだ。
以来9年――。
翻訳は日本と中国の国境を超え、インターネットを駆使しての長い道のりだったが、そうした苦労のかいあって、中国語簡体字版に先立ち繁体字版全10巻が6月下旬までに台湾で出版された。
出版社の公式サイトには、「世界で最も影響力のある反戦名作の1つ。日本の親たちが最も子どもと読みたい漫画」「遅れること40年! 繁体字中文版、堂々の登場!」というキャッチコピーの大文字が踊っている。
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