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日本ビジネス中国語学会
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東京便り―中国図書情報 第30回 .

 

漫画『はだしのゲン』繁体字版が台湾で出版、現地メディアも注目
「戦争や核の問題を考えてほしい」と翻訳者の坂東さん
     

 

原爆投下後の広島で生き抜く子どもの姿を描いた漫画『はだしのゲン』の中国語繁体字版がこのほど、台湾の出版社、遠足文化から出版された。
台北で開かれた出版披露記者会見には、翻訳に携わったフリーアナウンサーの坂東弘美さん(名古屋市在住)と、原作者の故中沢啓治氏の妻ミサヨさん(73)が出席した。
坂東さんによれば、当日は台湾の日刊紙『中国時報』や独立系メディア「民報」、香港の週刊誌『亞洲週刊』など多くの中国語圏メディアが訪れ、熱心に取材。同書の翻訳版24言語目にして初の中国語版の出版に、大きな関心が寄せられたという。

     
     
     


原作「はだしのゲン」(左)とその台湾繁体字版

    


キャンペーンが行われた台北市内の書店
右から、中沢氏の妻ミサヨさん、版元のスタッフ、坂東さん

 

■ 日中ボランティア仲間で翻訳、9年目についに刊行!

『はだしのゲン』は、広島で被爆した漫画家の中沢氏が、自身の体験などをもとに1973年から少年誌で連載した自伝的漫画。原爆投下後の惨状の中、強くたくましく生き抜こうとする主人公・中岡元(ゲン)の姿を、独特のタッチでリアルに描き出している。

単行本、文庫本などを含めた累計発行部数は1000万部を超え、時代を経てたびたび映画化(実写/アニメ版)、テレビドラマ化された。
作者の中沢氏自身が2002年、平和に貢献した個人や団体に贈られる「谷本清平和賞」を受賞したほか、2004年にはこの作品がヨーロッパ最大級の漫画祭でフランスの「アングレーム国際漫画祭」で「環境保護に関する最優秀コミック賞」を受賞している。

『はだしのゲン』繁体字版のタイトルは、『赤腳阿元』。原題をそのまま生かしたタイトルが採用された形となった。
翻訳版は1976年から、金沢の翻訳ボランティアグループ「プロジェクト・ゲン」の主導でロシア語、英語、朝鮮語、スペイン語、タイ語、フランス語、ポーランド語などが各国で出版されてきたが、中国語版はこれまで実現していなかった。

坂東さんは、『はだしのゲン』中国語訳に挑んだ経緯についてこう語る。
「私の出身は名古屋で広島ではありませんが、1990年に原発事故から4年後のチェルノブイリを訪れ、想像を絶する事故後の惨状を目のあたりにしました。その後、北京の中国国際放送局でアナウンスの仕事をしていた時に、チェルノブイリの救援活動でお世話になった浅妻南海江さん(「プロジェクト・ゲン」代表)が『はだしのゲン』のロシア語版を全巻翻訳出版して、北京まで送ってくれたのです」
「それを局のロシア語部のロシア人に見せたら、感動していました。偶然、タイ語部のタイ人の友人は、英語版から2巻までを翻訳していたこともわかり、後に本国へ帰った友人は全10巻を出版して、発表するバンコクの国際ブックフェアに招いてくれました。その時、中国語版を作るのは自分の仕事ではないかと思ったのです」

国際色豊かな職場でのつながりが、中国語版を作るキッカケと原動力になったようだ。

帰国後の2007年から取り組んだ翻訳には「ともに世界平和に貢献しよう」という坂東さんの呼びかけに賛同した、北京の元同僚や日本の漫画・アニメが好きな若者たちと取り組んだ。計7人からなるボランティアの日中翻訳グループだ。
以来9年――。
翻訳は日本と中国の国境を超え、インターネットを駆使しての長い道のりだったが、そうした苦労のかいあって、中国語簡体字版に先立ち繁体字版全10巻が6月下旬までに台湾で出版された。
出版社の公式サイトには、「世界で最も影響力のある反戦名作の1つ。日本の親たちが最も子どもと読みたい漫画」「遅れること40年! 繁体字中文版、堂々の登場!」というキャッチコピーの大文字が踊っている。

 

 

     

■ 「歴史を心に刻んで」と出版グループ社長

出版披露記者会見には、台湾の立法委員(議員)の顧立雄氏、尤美女氏らが出席。
地元メディアによれば、「北朝鮮で核武装が宣言され、日本で安全保障関連法が施行されて、国際情勢がまた戦争の“ふち”へと向かいつつある中、こうした『反戦、反核』の書が世に出ることは意義深い」(尤美女氏)と繁体字版の刊行を高く評価した。

中沢氏の妻ミサヨさんは挨拶で、「夫が自身の体験や見聞を描いた『はだしのゲン』は、漫画の中で『きびしい冬に青い芽をだし、ふまれても、ふまれても、強くまっすぐのびる麦』について幾度となく触れています。それは夫の(原爆投下直後に亡くなった)父親の言葉で、どんな苦難も乗り越えて生き抜く意志を表している。台湾の読者にもこの作品を通して戦争の愚かさ、命と平和の尊さをわかってもらえたら……」などと呼びかけたという。

出版元の遠足文化を傘下に持つ「読書共和国出版グループ」の郭重興社長は、こう見解を明らかにする。
「台湾での出版を決めてから、いろんな人に『なぜだ?』と聞かれたが、何もおかしなことはない。原爆のむごさを知らない戦後生まれの現代人にとって、この作品の出版は歴史との出逢いを意味する。平和な時代を生きる人たちに、忘れてはならない歴史を心に刻んでもらいたい」
原書の単行本出版から40年余り。『はだしのゲン』はすでに世界各国で翻訳出版され、中国語繁体字版は24言語目となった。
「何年も遅れたが、繁体字版がついに世に出た。台湾も反戦、反核(のテーブル)の席上、決して欠席してはならないのである」と郭重興社長は強調する。

 
     


「はだしのゲン」(台湾繁体字版・赤脚阿元)」の出版を伝える「亜洲週刊」

 

 

■ 「ゆくゆくは大陸でも出版を……」

核燃料を使用する原子力発電所に関しては、台湾では5月に新政権を発足させた民進党の蔡英文総統が「2025年に原発を完全廃止する」方針を掲げているが、現在は一部稼働中だ。
また中国本土では「2030年までに原発を合計110基建設する」計画がすでに明らかにされており、完成すれば中国の原子力発電の発電量は世界一になるという。もちろん中国側は「発電技術や安全性基準の高さ」をうたっているが、安全性を懸念する声が国外にあることも事実である。

2007年に翻訳をスタートしてから、坂東さんらは中国での出版の可能性を絶えず探り続けてきた。しかし前述の通り、中国で進む原発建設計画や、ここ数年低迷する日中関係の影響があるからなのか(?)中国本土で出版にこぎつけるには、まだ時間がかかりそうだと坂東さんは感じている。
それに加えて、アメリカや中国といった第二次世界大戦の“戦勝国”には「原爆投下が戦争終結を早めた」として、これを正当化する見方がいまも一部に根強くのこる。

坂東さんは出版までを振り返り、「翻訳にあたっては慣れない繁体字への変換作業が大変でしたが、仲間と力を合わせた中国語版の出版の日が迎えられ、とてもうれしい。また台北では、出版社の若いスタッフが、チームを組んで心をこめてPR活動をしてくれた。しみじみとした喜びを味わうことができました」と感無量の喜びを語る。
さらに「平和は一人だけの力では達成できないもの。そして世界で最も多く使われる言語は中国語です。中国語圏のより多くの人たちに『はだしのゲン』を読んでもらい、戦争や核の問題を一刻も早く考えてもらいたい。その意味でも、ゆくゆくは大陸でも出版が実現できるよう、これまで通りコツコツ地道に活動を続けていきたい」と本書にたくす思いを語った。

折しも、繁体字版の出版とほぼ時を同じくして、アメリカのオバマ大統領が現職の大統領としては初めて被爆地・広島を訪問。「われわれは核兵器のない世界を追い求めなければならない」とスピーチし、核兵器の廃絶に向けて取り組む決意を明らかにした。
そのニュースは出版披露記者会見でも話題になり、『はだしのゲン』に一層注目が集まる契機ともなったようだ。

『はだしのゲン』繁体字版の登場が、中国語圏にどんな影響を与えるか? これからも目が離せない。

 

     
 

■『赤腳阿元』
1~5巻セット  5月25日刊行
6~10巻セット  6月29日刊行

原題: 『はだしのゲン』
作者: 中沢啓治
訳者: 坂東弘美ほか
宣伝サイト: http://www.bookrep.com.tw/book/472/483/10195
宣伝PV: https://www.youtube.com/watch?v=wGPA6DyfXl0

■ 中国語圏メディアの関連報道(報道順)
台湾の日刊紙『中国時報』電子版(6月4日付)

台湾の独立系メディア「民報」サイト(6月4日付)

台湾の環境保護団体のネット媒体「環境資訊中心」(6月10日付)

台湾メディア「OKAPI」 中沢夫人ミサヨさんへのインタビュー(6月16日付)
http://okapi.books.com.tw/article/8734?loc=P_010_001
香港の週刊誌『亞洲週刊』(6月26日付)

※ 日本メディアでは『毎日新聞』、『週刊金曜日』、広島の放送局「RCC 中国放送」、名古屋のテレビ「メーテレ」などが報道(6月末時点)。

※ 台北での写真と『亞洲週刊』の表紙写真は、坂東弘美さん提供。

     
 

 

小林さゆり
東京在住のライター、翻訳者。北京に約13年間滞在し、2013年に帰国。
著書に『物語北京』(中国・五洲伝播出版社)、訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)、 『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)などがある。

Blog: http://pekin-media.jugem.jp/

     

 

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