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東京便り―中国図書情報 第8回 .

 作家の渡辺淳一さん死去、
  中国でブーム再び

   
   

新浪微博にアップされた追悼画像男女の性愛を赤裸々に描いた『失楽園』『愛の流刑地』などのベストセラーで知られる直木賞作家の渡辺淳一さんが4月30日、東京都内の自宅で死去した。
渡辺さんは、中国でも「日本情愛大師」などと呼ばれて絶大な人気を誇り、国内メディアが調査・公開するベストセラー作家の「富豪ランキング」では毎年のように名を連ねた。注目されるあまり、海賊版などの著作権侵害問題もしばしば発生。渡辺さんが中国の出版社を相手取り、訴訟を起こしたこともあった。

突然の訃報が5月5日に日本中をかけめぐると、中国メディアもこれを一斉に報道した。中国版ツイッターといわれるミニブログの「微博」(ウェイボー)でも、渡辺さんの死を悼む声が多数寄せられた。
北京、上海の大手書店やオンライン書店ではその後、渡辺さんの作品が売り上げを伸ばしている。中国では今後、新訳版の『失楽園』や小説『桜の樹の下で』など版権(出版権)契約を経た17作品が、続々と出版される予定だという。

   
 

■『失楽園』で中国読者の心つかむ

「鳳凰網」特集ページより渡辺淳一さんの作品は、中国では改革開放後の1980年代にお目見えしたが、作家の名を最も知らしめたのが『失楽園』(97年)だ。中年男女の不倫をテーマに大胆な性描写で話題となったこの作品は、日本で累計300万部を超す大ベストセラーに。中国では翌98年に翻訳出版され、各地の書店で売り切れ続出となるブームを呼んだ。中国にはそれまでなかった現代版のリアルな性愛小説として、読者の心をつかんだのだ。

中国でも一躍人気作家となった渡辺さんの翻訳作品は、短編・長編小説、随筆を合わせ国内で判明しているものだけでも、100作品近くに上る(百度百科「渡辺淳一」、2014年5月時点)。
また近年年末に公表される、その年のベストセラー作家のランキング「中国作家富豪ランキング」(四川省・華西都市報)の外国人作家の部でも、渡辺さんは毎年のように名を連ねた。

こうして絶大な人気と影響力を誇る日本の作家であっただけに、突然の悲報は中国メディアに速報された。
国営通信社の新華社、中国新聞社の電子版が日本の報道を引用する形で伝えたほか、地方紙も「愛を描く名手」(河北省・石家荘日報)、「村上春樹とともに中国の読者によく知られる日本現代作家の1人」(華西都市報)などとして、その死を悼んだ。

中国の大手ポータルサイト「鳳凰網」では「愛は死よりも美しい――日本“情愛文学大師”渡辺淳一逝去」と題して、また同じく大手ポータルサイトの「捜狐網」でも「生に果てあり、愛に禁なし――日本著名作家、渡辺淳一逝去」と題して、それぞれ大型特集ページを開設。
デビュー以来40年余りにわたる作家の足跡と功績をわかりやすくまとめている。複数の特集ページが即座に作られたことだけを取ってみても、渡辺さんが中国ファンにどれだけ愛され、支持されていたかがうかがえる。

※「鳳凰網」特集 http://culture.ifeng.com/renwu/special/junichi/ 
※「捜狐網」特集 http://cul.sohu.com/s2014/dubian/
 

■「情愛大師」の死、悼む声も多数

中国で翻訳・発行された渡辺淳一作品(一部)中国のミニブログ「微博」でも、渡辺さんの死を悼む声が多数寄せられている。
人気ミニブログサイト「新浪微博」では、訃報が伝わった5月5日から10日間ほどで、渡辺さんの死去に関するコメントは1万件超を数えた。ざっと目を通すと、昨今の日中関係の悪化からか批判的なコメントもあるが割合に少数で、多くは作家や作品への熱い思いが綴られたものだった。
いくつかを拾ってみると――

●「小説のヒロインは、みんな外見はおとなしそうで気品があるけれど、内面には燃えるような情熱がある。(中略)渡辺淳一さんは本当にすごい。女性の心理描写が、かなり細かい」
●「日本の情愛大師、渡辺淳一さんが亡くなった。渡辺さんは、ぼくの青春の読書史に刻まれたしるし。高校時代には図書館でいつも彼の痕跡を探していた。いわば性啓蒙の先生だった。初めて触れた日本文学が、川端康成でも大江健三郎でもなく、この医学博士だったんだ……」
●「一切を燃やすような破壊的精神が、渡辺スタイルの情欲の表現。愛の美学のうちに武士道精神を備えている。しかも愛のクライマックスで死ぬのは、まるで満開の桜が散るようなもので、日本の“物哀(もののあわれ)美学”の一部だ」
●「実際、現代日本文化の中国への影響は大きく、驚異的なものがある。亡くなった渡辺淳一さんの中国での知名度は、おそらくこの10年ほどの外国のノーベル賞作家の知名度の総和よりも高いだろう。(中略)だが、その知名度は中国では決して最高ではなく、東野圭吾、村上春樹のほうがもっと知られていると思う」
●「渡辺淳一さんの本を読もうとしたことはありません。聞けば描かれるのは中年の愛とかで、若者にはよく理解できないからです。ママはムチャクチャ好きだけど、私には少なくともあと10年経たないとわからない、といっていました」
●「大学時代に流行した2本の映画『タイタニック』と『失楽園』を思い出す!当時、この2本が大学で相次いで上映され、全校にセンセーションを巻き起こしたんだ!」
●「渡辺さんは、恋愛小説と医療をテーマにした作品で知られている。彼が描く主人公は、温かくて強靭、勇敢で、愛と自由を追求している。作品に満ちあふれている愛の描写は、細やかで美しく、人を感動させるものだ」
●「もし、中国が日本社会のように開放され民主的であるなら、無数の渡辺淳一が生まれただろう」
●「渡辺淳一さんは、私が一番好きな日本の作家で、もしかすると唯一の作家かもしれない。男女の心や生理に対する緻密な分析をありがとう。ご冥福をお祈りします。楽園にまたお戻りください」
 ……

■カットの部分もあった中国語訳

新浪微博では、鳳凰網・読書サイトが投稿した「渡辺淳一さん、日本の中国侵略を反省」とする一文も多くのユーザーに転載された。
「百の理屈より一つの心を」というエッセイから引用されたもので、それによると渡辺さんは「第二次大戦で日本軍は多くのアジア、その他の国の人々に危害を加えた」と認めた上で、「加害者がどのような理屈で弁明したところで無駄である」「日本は決して曖昧な言葉で現実から逃げてはならない。せめて『すまなかった』という簡単な一言でもいいから、真摯に謝罪を表明すべきだ」(拙訳)と書いているという。
こうした歴史認識に対するはっきりとした見解も、現代の愛国主義教育下の読者に素直に受け入れられた理由なのかもしれない。

渡辺文学をこれまでに十数冊、中国語訳したベテラン翻訳家、竺家栄さんの思いも深い。98年に『失楽園』の初の簡体字版を翻訳した印象については、こう振り返る。
「実は『失楽園』には大胆な性愛描写が多く、中国人読者にはあまり慣れていないことが心配されました。それで出版社の意見を聞き入れ、できるだけ曖昧な表現になるよう翻訳したのです」。同書ではカットされた部分も多かったようだ。
2010年に北京に迎えたとき、渡辺さんは、「小さいころから中国文化に接していた。『金瓶梅』が特に好き。現代の中国人作家は1人も知らず、お恥ずかしい」と話していたという。

渡辺文学の中国での人気について、竺家栄さんは「その独特な題材と大胆なスタイルは、中国の(現代)小説の中には、あまりない。彼の作品は(中国文学界の)空白の部分を埋める役割を果たした」と分析。
日本の「私小説」の特色を備えながらも、他人の目を気にすることなく、真実をスマートに表現しているところも、大きな魅力だと語る(華西都市報)。
 

■ベストセラー・ランキングで再浮上

『新京報』より。『失楽園』が7位に再浮上辺さんの悲報を受けて、中国では再びその作品が売り上げを伸ばしている。
上海の大型書店、上海書城では「渡辺淳一経典作品」と題したコーナーが特設され、連日多くの読者が訪れている(中国新聞網)。
中国の大手オンライン書店である当当網、京東商城などでもこのところ1日に数百冊は出ているという(中国新聞出版報)。
北京の人気紙「新京報」が毎週、発表しているベストセラー・ランキングでは5月9~15日、小説の部で『失楽園』(作家出版社)が7位に再浮上した(同紙5月17日付)。
またしても中国に“渡辺ブーム”が到来したのは確実なようだ。

中国で、渡辺作品の版権契約数を最も多く持つという編集出版プロダクション「北京磨鉄図書有限公司」は、これまでに『无影灯』(原題:無影燈)、『愛在原野尽頭』(原題:野わけ)など、すでに契約を経た33作品中16作品を出版。
今後は、新訳版の『失楽園』や小説『櫻花樹下』(原題:桜の樹の下で)など17作品を出版していく予定だという(中国新聞出版報)。

一方、中国では人気が過熱するあまり、著作権侵害問題もしばしば起こった。渡辺さんは著作を無断で出版されたとして2008年夏、複数の出版社を相手取り、上海市人民法院に提訴したが、2009年末までには各社と和解が成立した。
渡辺さんは当時、中国メディアに対してこう語っていたという。「提訴を通じて、中国の版権関係が合理化され、さらに多くの著作が中国市場に入ることを望んでいる」(中国新聞出版報)

まだまだ続きそうな渡辺淳一ブーム。中国での正規出版の広がりに“楽園”の渡辺さんも、ようやく安堵されているだろうか……。
 

   
     

 

 

小林さゆり
東京在住のライター、翻訳者。12年余り北京に滞在し、2013年7月に帰国。
著書に『物語北京』(中国・五洲伝播出版社)、訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)。
取材編集に携わった『在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』(阪急コミュニケーションズ)も好評発売中!

 

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