■「情愛大師」の死、悼む声も多数
中国のミニブログ「微博」でも、渡辺さんの死を悼む声が多数寄せられている。
人気ミニブログサイト「新浪微博」では、訃報が伝わった5月5日から10日間ほどで、渡辺さんの死去に関するコメントは1万件超を数えた。ざっと目を通すと、昨今の日中関係の悪化からか批判的なコメントもあるが割合に少数で、多くは作家や作品への熱い思いが綴られたものだった。
いくつかを拾ってみると――
●「小説のヒロインは、みんな外見はおとなしそうで気品があるけれど、内面には燃えるような情熱がある。(中略)渡辺淳一さんは本当にすごい。女性の心理描写が、かなり細かい」
●「日本の情愛大師、渡辺淳一さんが亡くなった。渡辺さんは、ぼくの青春の読書史に刻まれたしるし。高校時代には図書館でいつも彼の痕跡を探していた。いわば性啓蒙の先生だった。初めて触れた日本文学が、川端康成でも大江健三郎でもなく、この医学博士だったんだ……」
●「一切を燃やすような破壊的精神が、渡辺スタイルの情欲の表現。愛の美学のうちに武士道精神を備えている。しかも愛のクライマックスで死ぬのは、まるで満開の桜が散るようなもので、日本の“物哀(もののあわれ)美学”の一部だ」
●「実際、現代日本文化の中国への影響は大きく、驚異的なものがある。亡くなった渡辺淳一さんの中国での知名度は、おそらくこの10年ほどの外国のノーベル賞作家の知名度の総和よりも高いだろう。(中略)だが、その知名度は中国では決して最高ではなく、東野圭吾、村上春樹のほうがもっと知られていると思う」
●「渡辺淳一さんの本を読もうとしたことはありません。聞けば描かれるのは中年の愛とかで、若者にはよく理解できないからです。ママはムチャクチャ好きだけど、私には少なくともあと10年経たないとわからない、といっていました」
●「大学時代に流行した2本の映画『タイタニック』と『失楽園』を思い出す!当時、この2本が大学で相次いで上映され、全校にセンセーションを巻き起こしたんだ!」
●「渡辺さんは、恋愛小説と医療をテーマにした作品で知られている。彼が描く主人公は、温かくて強靭、勇敢で、愛と自由を追求している。作品に満ちあふれている愛の描写は、細やかで美しく、人を感動させるものだ」
●「もし、中国が日本社会のように開放され民主的であるなら、無数の渡辺淳一が生まれただろう」
●「渡辺淳一さんは、私が一番好きな日本の作家で、もしかすると唯一の作家かもしれない。男女の心や生理に対する緻密な分析をありがとう。ご冥福をお祈りします。楽園にまたお戻りください」
……
■カットの部分もあった中国語訳
新浪微博では、鳳凰網・読書サイトが投稿した「渡辺淳一さん、日本の中国侵略を反省」とする一文も多くのユーザーに転載された。
「百の理屈より一つの心を」というエッセイから引用されたもので、それによると渡辺さんは「第二次大戦で日本軍は多くのアジア、その他の国の人々に危害を加えた」と認めた上で、「加害者がどのような理屈で弁明したところで無駄である」「日本は決して曖昧な言葉で現実から逃げてはならない。せめて『すまなかった』という簡単な一言でもいいから、真摯に謝罪を表明すべきだ」(拙訳)と書いているという。
こうした歴史認識に対するはっきりとした見解も、現代の愛国主義教育下の読者に素直に受け入れられた理由なのかもしれない。
渡辺文学をこれまでに十数冊、中国語訳したベテラン翻訳家、竺家栄さんの思いも深い。98年に『失楽園』の初の簡体字版を翻訳した印象については、こう振り返る。
「実は『失楽園』には大胆な性愛描写が多く、中国人読者にはあまり慣れていないことが心配されました。それで出版社の意見を聞き入れ、できるだけ曖昧な表現になるよう翻訳したのです」。同書ではカットされた部分も多かったようだ。
2010年に北京に迎えたとき、渡辺さんは、「小さいころから中国文化に接していた。『金瓶梅』が特に好き。現代の中国人作家は1人も知らず、お恥ずかしい」と話していたという。
渡辺文学の中国での人気について、竺家栄さんは「その独特な題材と大胆なスタイルは、中国の(現代)小説の中には、あまりない。彼の作品は(中国文学界の)空白の部分を埋める役割を果たした」と分析。
日本の「私小説」の特色を備えながらも、他人の目を気にすることなく、真実をスマートに表現しているところも、大きな魅力だと語る(華西都市報)。
|